佐々陽太朗の日記

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『たそがれ長屋』(編集:縄田一男、作:池波正太郎、山本一力、北原亞以子、山本周五郎、藤沢周平 ★新潮文庫)を読む

『たそがれ長屋』を読み終えました。『親不孝長屋』『世話焼き長屋』につづく人情時代小説傑作選3部作の最終刊である。これも前2作に負けず劣らず良い短編が収められています。選者の縄田一男氏のセンスが光ります。

 

目次
1.疼痛二百両(池波正太郎
2.いっぽん桜(山本一力
3.ともだち(北原亞以子
4.あとのない仮名(山本周五郎
5.静かな木(藤沢周平

裏表紙記載の紹介文を引用する


藩の取り潰しを防ぐため、金策に奔走する宗兵衛に新たな試練が待ち受ける(「疼痛二百両」)。口入屋の番頭、長兵衛は突然暇を言い渡されたが納得できず(「いっぽん桜」)。たった一人の友達が、約束の日に現れなくて(「ともだち」)。腕ききの職人でありながら職を捨て、女房子を捨てた男のその理由とは(「あとのない仮名」)。伜の果し合いを止めるため、孫左衛門は一世一代の勝負にでる(「静かな木」)。落涙必至、感動人情時代小説五編を精選。



今回は老いをテーマに作品が選ばれている。どの作品も一級品だが、中でも秀逸なのは藤沢周平氏の「静かな木」だ。山本周五郎氏の「あとのない仮名」も凄い作品と思うが、やはり藤沢氏に軍配をあげたい。実は「静かな木」は昨年の春に読んでいる。藤沢作品でお馴染みの海坂藩を舞台としたものである。あらすじがわかっていても、味わい深く読める短編だ。老いて隠居した身にあっても、やはり子が気がかりな親。「この齢になって倅のことで苦労するとは思わなんだ」と言いながらも、今も倅の役に立てる自分をちょっと誇らしく思う親心の機微を、藤沢氏の温かい目で描いている。傑作です。江戸時代東北ものハードボイルド小説と呼ばせていただきたい。