佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『イノセンス (Innocence)』 -GHOST IN THE SHELL 2-

「シーザーを理解するためにシーザーである必要はない」(マックス・ヴェーバー


「鏡は悟りの具にあらず 迷いの具なり」(斎藤緑雨


「信義に二種あり、秘密を守ると正直を守るとなり、両立すべきにあらず」(斎藤緑雨


「鳥の血に悲しめど、魚の血に悲しまず。聲ある者は幸福也」(斎藤緑雨



攻殻機動隊GHOST IN THE SHELL)』の続編『イノセンス』を観ました。


このシリーズ、深いというか情報量が多すぎて私の脳はパンクしてしまいます。物語の端々に出てくる哲学的な言葉。その意味を理解しようと考えているうちに、新たな展開が出現する目眩くサイバーバンク。原作漫画を書いた士郎正宗さんってどんな人なんだろう。凄すぎる。


物語は2032年の近未来世界。本篇に入るまえにこの物語を理解するための解説(A Basic Guide)が15分ほどある。一部を紹介しながら、自分なりの解釈を加えてみよう。


【電脳】
電脳とは外部のネットを含む外部からの電子情報を頭の中の情報として扱うことが出来るように機械的に補強した脳のことである。


義体
身体を機械的に補強すること。サイボーグである。義体化が進むと通常の人間の能力をはるかに超えた活動が可能になる。だがその一方で全身が人造パーツで構成され脳にはAIを搭載したアンドロイドやガイノイドとの境が曖昧になる。その差は脳みその生身の部分とゴースト(後出)の有無のみである。


【ゴースト】
私が私であり、他人ではない、その根源となる意識、精神と表現したら良いのだろうか。人間が本来的に持つ自我や霊性のことである。電脳化と義体化が進んだ未来において、電脳で情報を共有し、義体で身体のパーツも他の誰かと同じになる。そしてその先にあるのは私と他人とを隔てるのが曖昧な状態。私を私として存在させるもの、その根源こそがゴーストである。


電脳化において外部からの電子情報を頭の中の情報として扱うことができるということは、自分が実際に視て感じるというプロセスを経た現実とは別に、ハッキングによって頭の中に別の世界を作ってしまうことが可能だということ。自分の記憶や体験が真実なのかどうかが曖昧になる危険性が生じ、今、自分が視ているものが現実に起こっているのかどうか・・・、そもそも現実とは何かという疑問が生じる。つまり、自分が今視ているものがたとえ仮想であったとしても、自分がそれを現実と認識している限りそれは自分にとって現実であり、自分にとってそれ以外の世界はない。今自分が現実と認識している世界をあえて否定して(それが仮想であると仮定して)行動しようにも人には為す術がない。それが人間の限界である。

人間の感情、思考、行動すべてが脳の働きだとして、それが引き起こされるのは脳内の電気信号あるいは化学物質の作用に過ぎないとすれば、人間というのは非常に複雑ではあっても単なる機械に過ぎないという結論に行き着く。とすれば、人間と機械の違いは何なのか? 人間とゼンマイ仕掛けの人形との差は複雑さの程度だけでしかないのか? 私と他人との差は何なのか? 私の感情、思考、行動がゴーストのささやきに端を発するものだとすれば、ゴーストとは何なのか、何処にその根源があるのか?


全身が義体化されたサイボーグ、”少佐”と呼ばれる女性、草薙素子の悩みもそこにある。わずかな脳とゴーストだけが彼女の持ち物だ。彼女は言う。

「もしかしたら自分はとっくの昔に死んじゃってて、今の自分は電脳と義体で構成された模擬人格なんじゃないかと・・・いや、そもそも初めから私なんてものは存在しなかったんじゃないかって・・・・」


「自分が自分であるためには驚くほど多くのものが必要なの。他人を隔てるための顔、それと意識しない声、目覚めの時に見つめる掌、幼かった頃の記憶、未来の予感・・・それだけじゃないわ。私の電脳がアクセスできる膨大な情報やネットの広がり、それら全てが<私>の一部であり、<私>という意識そのものを生み出し・・・そして、同時に<私>をある限界に制約しつづける」


本作は『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』の直接的な続編であり、草薙素子(通称「少佐」)の失踪から4年後の2032年が舞台となっている。少女型の愛玩用ガイノイドロクス・ソルス社製 Type2052 “ハダリ(HADALY)”」が原因不明の暴走を起こし、所有者を惨殺するという事件が発生。それを捜査する公安9課の刑事バトーは、自らの脳にハッキングを受けるという妨害を受けながらも、真実に近づいて行く・・・・という展開。

作中に哲学的な箴言がちりばめられ、映画の世界に入り込めば入り込むほど生命に対する疑問が増殖しあるいは拡散し、思考の迷路に迷い込む。おそらく何回繰り返し視ても全てを理解するに至らないだろう。アニメとはいえ手強い。参考書籍としてアーサー・ケストラー著『機械の中の幽霊』を買ってパラパラページを捲ってみたものの理解できそうもない。作中に引用された箴言には斎藤緑雨氏のものも多い。「緑雨警語 冨山房百科文庫も買ってみるか・・・理解できないだろうな・・・たぶん・・・

 

昨夜、布団に入ったのは3時を過ぎていた。今朝は7時過ぎに起きてこのブログを書いている。"oniwaya-san"のおかげで士郎正宗氏の創り上げた迷宮に入り込んでしまったな。私の中に眠っていたオタクの血が騒ぎ始めた。私の睡眠時間を返してくれ~、oniwaya-san。