世の中に不満があるなら自分を変えろ。
それが嫌なら耳と目を閉じ、口をつぐんで孤独に暮らせ。
それも嫌なら・・・・
(草薙素子)
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man [DVD]
- 出版社/メーカー: バンダイビジュアル
- 発売日: 2005/09/23
- メディア: DVD
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『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』 を観ました。
『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』、『GHOST IN THE SHELL2イノセンス』に続く3作目。ただし、今回は1作目、2作目におけるテーマ「電脳化・義体化社会における人間の定義」とはやや趣を異にしており、ワクチン認可に係る不正、汚職という現代社会にも存在する社会正義の問題を主題としている。
本作においても文学者や哲学者の言葉が多く引用されている。おかげで、せいぜい2時間20分程度の話を観るのに倍の5時間かかってしまった。なにせ、台詞の意味が正確に把握できないときに、後戻りして再生を繰り返さざるを得ないのだ。劇場で映画を観た人は理解できて帰ったのだろうか。2〜3回観ただけでは分からないことも多い。まぁ、私は頭の悪い部類に入るのだろうが・・・。だからこの映画はDVDで観るに限る。しょっちゅう「PAUSE」ボタンを押しては後戻りしなければ、意味を考えている間に、新たな展開、新たな台詞が登場してしまう。
本作でとくに引用が多いのはJ.D.サリンジャー。The Laughing Man「笑い男」も1949年に彼が書いた短編小説の題名らしい。作中のキーワードの一つ「左利きのキャッチャーミット」も彼の代表作「ライ麦畑でつかまえて」の主人公が持っているものであるし、小説からの引用
"I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes."
− 誰も僕を知らず、僕の方でも誰をも知らないところでありさえしたら。そこへ行ってどうするかというと、僕は唖でつんぼの人間のふりをしようと考えたんだ。−
は、本作を観る上で非常に重要な言葉となっている。
非常に面白く、しかも個人が社会との関係の持ち方について、どうあるべきかを考えさせられる映画でした。その意味で、冒頭に引用した草薙素子の台詞は重い。
蛇足ながら、本作中に公安9課が保有する思考(多脚)戦車「タチコマ」が登場するが、このAIが急速に進化し個性を手に入れたばかりでなく、ついには自己犠牲の概念を持つまでに至っている。「タチコマ」が手に入れたものが『ゴースト』(=「人間が本来的に持つ自我や霊性」)であるとすれば、これはまた面白い展開と言えるだろう。そうするとますます機械と人間との違いは何かというテーマがクローズアップされることになる。続編を観ていきたい。
それにしても、このシリーズを観ていくと、このシリーズをより深く理解するために、他の書物を多く読まなければならないのには困ったことだ。どんどん時間が失われていく。
最後に、作中で最高にイカした言葉を引用しよう。
「未成熟な人間の特徴は理想のために高貴な死を選ぼうとする点にある。それに反して、成熟した人間の特徴は理想のために卑小な生を選ぼうとする点にある。」
(ミルヘルム=シュテーケル)
どうやら、原作者:士郎正宗氏は前者が好みのようです。