懐かしげに肩をぶつけながら、男は唄うように言った。
「ギムレットには早すぎる、かな」
グラスの縁で帽子の庇を上げながら、広橋は答えた。
「早過ぎはしないが、ここはボンベイじゃない。ブリティッシュを気どってギムレットとは、雪の銀座には似合わないね」
「そうか。じゃあせめて、氷を浮かべるのはよそう。長いものには巻かれなければ、植民地で生きてはいけない」
差し出されたギムレットに、氷は浮かんでいなかった。
老けたな、と、カウンターごしのガラスに映った旧友の姿を見ながら、広橋は思った。
(本書P292より)
シブイぜヒデさん。
ピスケン、カッコイイ。
軍曹、あんたほど大きい男は見たコトねえ。
なによりも"血まみれのマリア"こと"阿部まりあ"、俺ァ、アンタに惚れちまったぜ。
浅田次郎氏の悪漢小説(ピカレスク)『血まみれのマリア − きんぴか2』を読みました。
- 作者:浅田 次郎
- 発売日: 1999/08/01
- メディア: 文庫
これはイイ!!!
小賢しいヤツらばかりがいる現代に対するアンチテーゼ。
かっこ悪くても、
馬鹿なヤツと笑われても、
損と分かっていても、
そうしなければならないことがある。
得だの損だの、愛だの恋だのそんなものは小せえ、小せえ。
場合によっちゃ命だって惜しくはない。
何よりも大切なのは「矜持」なのだから。
裏表紙の紹介文(あらすじ)を引きます。
ピスケンが恋をした。お相手は、「血まみれのマリア」こと阿部まりあ。泣く子も黙る救急救命センターの看護婦長で、今まさに息絶えんとする重体患者を救うこと数知れず、の奇跡を呼ぶ女だ。あまりに意外な組み合わせに、驚きのあまり絶句する軍曹とヒデさん。一途で不器用なピスケンは、マリアのもとに通いつめるが…。悪漢小説の金字塔、佳境の第2幕。