佐伯はMDプレーヤーのイヤホンを耳に当てて、スイッチを押した。
MDに落としたアート・ブレーキーだ。"モーニン"。
- 作者: 佐々木譲
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『笑う警官』(佐々木譲:著/ハルキ文庫)を読み終えました。今月14日から東映系で公開された映画の原作です。良いですよ、この小説。警察のニオイがぷんぷんです。世の中には警官嫌いが多いですが、私は好きなんです。警察にもいろいろ問題があるようにも思いますが、基本的に信用しています。100%信頼できると言い切る自信はありませんが、概ね信用できると思っています。逆に警察内に存在する一部の悪い部分をとりたてて喧伝し、警察全てを貶めようとする人たちに邪(よこしま)な意図を感じます。おっと話を小説に戻します。題名の『笑う警官』、変わった題です。もともとは『うたう警官』だったのを文庫化を機に替えたそうです。"うたう"とは、組織に不利な内部情報を外部にもらすことを云うらしい。組織内の者にとっては裏切りともとれる行為、卑劣な行為ともうつります。"うたう"という行為に対する心理的障壁は作中の登場人物の次の言葉に代表されます。
「うたう警官は、無実と言えるか? 組織を売るんだぞ。道警だけじゃない。警察機構全体を敵に回すんだぞ」
大変難しい問題です。"うたう"という行為を否定するか肯定するかは、その人がどれだけその組織に従属しているか、その組織に愛着を感じているか、その帰属意識の程度によるのかも知れません。その組織に何らかの不正があるとき、その行為を外部に"うたう"ことが正しい事かどうかは、一概に決められることではなく、その人の立場、その人が"うたう"目的、うたったあとの結果、そうしたものをすべて考える必要がありそうです。ちなみに彼の孔子は論語(子路第十三の十八)にこんなことを言っています。
父は子の為めに隠し、子は父の為に隠す、直きこと其の内に在り
それにしても、佐々木氏は映画化に際しての角川春樹氏の改題の申し出をなぜ聞きいれたのか。私にはもともとの題『うたう警官』のほうが良いと思えるのだが・・・・。
裏表紙の紹介文を引きます。
札幌市内のアパートで、女性の変死体が発見された。遺体の女性は北海道警察本部生活安全部の水村朝美巡査と判明。容疑者となった交際相手は、同じ本部に所属する津久井巡査部長だった。やがて津久井に対する射殺命令がでてしまう。捜査から外された所轄署の佐伯警部補は、かつて、おとり捜査で組んだことのある津久井の潔白を証明するために有志たちとともに、極秘裡に捜査を始めたのだったが…。北海道道警を舞台に描く警察小説の金字塔、「うたう警官」の文庫化。