佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

妖異金瓶梅

「武松、お前があたしをうらむのはむりはないけれど、お前の兄さんを殺したのはあたしじゃないのよ、この家の旦那さま、……もう死んじまった西門慶の旦那だわ、いいえ、べつに罪を死人になすりつけるわけじゃない、あたしをみて、いちどわたしを抱いて、その夫を殺してでもあたしをとりたくない男が、この世にいるでしょうか?」
金蓮は哀訴してはいなかった。弁解してもいなかった。それは絶世の美女の矜(ほこ)りにみちた高言だった。

 

 

『妖異金瓶梅』(山田風太郎/著・扶桑社文庫)を読みました。

金瓶梅』は言わずと知れた中国四大奇書の一つ。水滸伝の中の武松のエピソードを入り口にして、そこに登場する武松の兄嫁の潘金蓮が、姦通した後殺されずに姦夫の西門慶と暮らし始めるという設定だが、山田風太郎氏がその設定をベースに話をミステリ仕立てに仕上げている。物語は変わっていても登場人物は原典にでてくる者をそのまま登場させているらしいので、原典を読んでから本書を読めばさらに楽しめるも知れない。全篇を通じてエロティシズムが漂い、潘金蓮という稀代の淫婦の性(さが)が描かれている。それにしてもこの潘金蓮という女、男にすればなんとも怖ろしい魔性の女でありながら強烈に心を惹かれてしまう魅惑の女である。潘金蓮を目の当たりにし触れてしまったが最後、男はその虜になってしまうだろう。それが間違ったことであり、いけないことだと判っていても、男は否応なしに潘金蓮の蟻地獄に身を落としてしまうのだ。気の小さい私としては潘金蓮のような女に出会うことがないように唯々祈るのみである。しかし、一度だけほんのちょっと会ってみたいと思う危うさが心の中にあるのも事実。五十になっても惑う私であります。

裏表紙の紹介文を引きます。

精力絶倫の快楽主義者・西門慶は、八人の夫人と二人の美童を侍らせて、日夜、酒池肉林ともいうべき法悦の宴をひらいていた。この屋敷で、第七夫人・宋恵蓮が両足を切断された無残な屍体で発見される。はたして誰が?何のために―?日本推理小説史上に残る名作「赤い靴」をはじめ、天才・山田風太郎が中国四大奇書の一つ『金瓶梅』の世界に材を採った超絶技巧の連作ミステリ全15篇!さらに単行本未収録の異稿版「人魚灯篭」を加えたファン待望の『妖異金瓶梅』完全版。

巻末に扶桑社さんのお願いが載っていました。曰く

お願い
扶桑社文庫「昭和ミステリ秘宝」をお読みになっていかがでしたでしょうか?
新刊本が数多く出版されるなか、過去の素晴らしい作品の数々が絶版になっていきます。
扶桑社文庫「昭和ミステリ秘宝」では、そういった絶版になってしまったミステリ作品に目を向け、今後発行していきたいと考えております。
ぜひとも「読後の感想」を編集部あてに、お送りください。また現在絶版で入手不可能な作家の作品で、お読みになりたいものがございましたら、あわせてお書き下さい。
今後のラインナップの参考にさせていただきたいと思っております。

                            扶桑社 書籍編集部

すばらしいではありませんか。

扶桑社さんの姿勢に拍手!! (^o^)//"""パチパチパチ