佐々陽太朗の日記

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『シアター』(有川浩/著・メディアワークス文庫)

5月28日

シアター!

守銭奴けっこう! 金は正義だ!」

                   (本書P59)

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『シアター』(有川浩/著・メディアワークス文庫)を読みました。

有川氏の本は現在「図書館戦争シリーズ」を読んでいる途中なのだがちょっと寄り道してしまいました。というのも「図書館戦争シリーズ」は単行本なので持ち歩きにくく家でまとまった空き時間が無いと読めないからです。かといって有川氏の「自衛隊三部作」を読み、「図書館戦争」「図書館内乱」と読み進め、すっかり有川フリークと化してしまった私はもうながく有川氏の世界から離れられない躰なってしまったのです。禁断症状に身悶えながら本屋に走り、平積みされていた『シアター』を手にした次第。

裏表紙の紹介文を引きます。

小劇団「シアターフラッグ」―ファンも多いが、解散の危機が迫っていた…そう、お金がないのだ!!その負債額なんと300万円!悩んだ主宰の春川巧は兄の司に泣きつく。司は巧にお金を貸す代わりに「2年間で劇団の収益からこの300万を返せ。できない場合は劇団を潰せ」と厳しい条件を出した。新星プロ声優・羽田千歳が加わり一癖も二癖もある劇団員は十名に。そして鉄血宰相・春川司も迎え入れ、新たな「シアターフラッグ」は旗揚げされるのだが…。

流石は有川氏、読み始めたら最後、ぐんぐん有川ワールドに引き込まれます。そう、610円を払っただけ、いやそれ以上のエンタメを提供してくれます。このあたりに有川氏の小説に対する姿勢が見えます。

物語は小劇団「シアターフラッグ」をめぐるもの。この劇団は御多分に漏れず金に困っている。劇団員の夢や想いは素晴らしく熱いものがあるが、経済性に難がある。皆が演じる側の夢や理想を追っているので、観客からの視点がやや甘くなってしまったり赤字を出してしまったりする。多くの人に公演を知ってもらい、チケットを買ってくれた観客が心底楽しめて、しかも劇団として収益を上げる、劇団を維持していくためにはそうしたことが必須であるのに、そのことよりも個々の想いを優先させてしまう。要するにプロになりきれないのだ。そうした劇団を主宰する弟・巧から泣きつかれて兄・司が劇団運営に乗り出す。そして劇団の甘さを次々に改めさせていくというストーリーである。

有川氏の小説を読んでいていつも感じることは、小説の奥底にある氏の想いは気高くしかも深いものがあるにもかかわらず、あくまで小説としては軽く読みやすいものに仕上げているのではないかということ。そして文学性よりも読者を楽しませることを優先しているのではないかということ。読者を自分の作品世界に引き込み、楽しませ、充分に満足させること、それがプロの小説家なのだと有川氏は言っているような気がする。

 

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