佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2010年の読書記録(6月中旬~12月)  超超長文注意! お暇なら読んでね……

 下半期の読書の特徴は良い時代物に出会えたことでしょう。特に隆慶一郎氏に出会えたのは、氏がもう亡くなっていらっしゃるだけに僥倖でした。『死ぬことと見つけたり』は忘れられない一冊となりました。そのほか、和田竜氏の『のぼうの城』、宇江佐真理氏の『雷桜』など逸品ぞろいでした。

 その中で下半期のマイ・ベスト本は和田竜氏の『のぼうの城』にしたいと思います。この小説の素晴らしいところは主人公の魅力が尋常一様でないところでしょう。戦もののヒーローで成田長親のようなキャラに光をあてた氏の慧眼に脱帽。そして戦もので最も重要な点がアンチ・ヒーローの魅力。主人公・長親の敵、石田三成のなんと魅力的に描かれていることか。私はすっかり石田三成ファンになりました。

 ちなみにワーストはありません。すべて満足の一冊でした。

 下半期のもう一つの特徴は新書(ススメ本)です。私は自転車であちこちさまようのを無上の喜びとしておりますが、そんな私の目を開いてくれたのが次の2冊。

 

 

 

 

 

 『「散歩学」のすすめ』は自転車の散歩(ポタリング)をしている私にとって、その効用を確認できた一冊。そう「散歩は頭の運動である」という事実。素晴らしいではないですか。今、散歩をなさっていない方はすぐに始めるべきです。もちろん自転車ならさらに世界が拡がります。

 もう一つ『森山大道 路上スナップのススメ』は、コンパクト・カメラを持ってポタリングを楽しむ私に、スナップ・ショットとはなにか、どう楽しむかを教えてくれたススメ本です。

 カメラを持って、自転車を楽しむ。自転車に乗れなくても散歩する。たったそれだけで人生は更に深く楽しいものになる。そのことを教えてくれた二冊。「50歳を過ぎたら読みたい本」のベストな組み合わせでしょう。

 

 


はぐれ牡丹 (ハルキ文庫 時代小説文庫)はぐれ牡丹 (ハルキ文庫 時代小説文庫)
大店の娘として育った一乃であるが、貧乏裏店暮らしであっても明るく暮らしている。夫を助けて野菜の棒手振りをして暮らしを立てる。一乃の心のあり方、生き方が何とも魅力的だ。そんな主人公の住む裏店に起こった人さらい事件。その裏にはロシアとの抜け荷貿易と偽金造りも絡んだ陰謀があった。あくまでもポジティブな主人公。そんな主人公の行動が周りを引っ張り、困難な状況を打開する原動力になる。裏店に住む周りの人々も魅力的に描かれている。山本一力氏らしい小説です。


読了日:06月04日 著者:山本 一力
きつねのはなし (新潮文庫)きつねのはなし (新潮文庫)
森見氏の小説の常として京都ものである。しかし、氏の他の小説と違ってちょっと怖ろしい怪談ものになっている。現代にあってもそこかしこに古さの残る街には、ちょっとしたきっかけで怪しい世界に足を踏み入れてしまいそうな危うさがある。何と言ったらよいのだろう、目には映らず普段は気づかないがもののけの住む異相世界があり、何かの弾みに人が迷い込んでしまう怖さのようなもの、森見氏はこの短編集でそんな世界に読者を誘ってくれる。
読了日:06月07日 著者:森見 登美彦


仇敵 (講談社文庫)仇敵 (講談社文庫)
強大な権力を持つ悪人幹部によって窮地に陥れられながらも、決しておもねることなく、屈することもなくあくまで自分を貫く主人公。メガバンクのエリート行員であった主人公が会社を追われ小銀行の庶務行員という下っ端の仕事に就くことになるが、それでも決して己を哀れんだりせず真摯に仕事に取り組む。権力も後ろ盾も何もないちっぽけな人間であっても己の矜持にかけて邪な仇敵をいつかは叩き潰してやると心に誓い、徐々に悪事を暴いていく誇り高き男を描いた復讐劇。サラリーマンなら誰だって復讐が果たされるのを見たいはず。一気読みです。
読了日:06月09日 著者:池井戸 潤


イン・ザ・プール (文春文庫)イン・ザ・プール (文春文庫)
何ですか、この強烈キャラ。読者は素直にこのキャラを好きと言えないと思います。いや、むしろ嫌いなキャラと言ってもいいでしょう。しかしこのキャラから目が離せない。見たくないのに目が離せず見続けているうちにだんだん慣れてきて、そのうち伊良部の登場を心待ちにしている自分に気づく。ひょっとして伊良部一郎のことが好きになってしまったのか? いやそんなことがあって良いはずがない。私の良心がこんな医者を、こんな人間を認めてはならないと言っている。にもかかわらず続編を早く読みたいと思っている自分に気づき愕然としています。
読了日:06月09日 著者:奥田 英朗


陰陽師生成り姫 (文春文庫)陰陽師生成り姫 (文春文庫)
生成り」とは辞書によると「能面の一。女の怨霊に用いる。角が生えかけた形で、般若(はんにや)になる以前のさまを表す」とある。源博雅が堀川橋のたもとで見初めた何処の人とも知れぬ姫。月日が経つにつれ姫の容色にも翳りが見え、そればかりか姫にふりかかった哀しき定めにより心に鬼を宿すまでになってしまう。読者は物語を読み終えてふり返ると、始めのほうで博雅が晴明に語った「そのお方が、老いてゆく御自分に対して、心に抱いている哀しみすらも、おれは愛しいのだよ」という一言にこの哀しい物語が暗示されていたのだと知ることになる。
読了日:06月14日 著者:夢枕 獏


散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道 (新潮文庫)散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道 (新潮文庫)
軍人の仕事は国民を守ること。栗林中将は硫黄島に赴任してまもなく島の住民をいち早く本土に避難させている。また彼は「閣下のもとで死にたい」と彼を慕って硫黄島へ向かおうとした軍属の元部下に対し合流を許していない。彼が軍人ではなく軍属であったからである。軍人であるからには命を賭して民を守る。配下の者には心中慟哭しながら死を命ずる。そう命ずるからには自らも殉ずる。陸軍大将自らが敵陣へ突撃し、戦死したのは日本軍戦史上初めてといわれている。まさに鬼神を哭しむるものあり。
読了日:06月26日 著者:梯 久美子


四十七人目の男〈上〉 (扶桑社ミステリー ハ 19-14)四十七人目の男〈上〉 (扶桑社ミステリー ハ 19-14)
狙撃手ボブ・リー・スワガー(Bob Lee Swagger)シリーズ第4弾です。書評を読むとこれがもう目を覆いたくなるほどの酷評。読んで良いものかどうかちょっぴり迷ってしまいましたが、シリーズの大ファンの私として読まないわけにはいかない、ハンター氏を信じて地獄まででもついて行くのだ、と本書を手に取りました。
読了日:06月27日 著者:スティーヴン・ハンター


四十七人目の男〈下〉 (扶桑社ミステリー ハ 19-15)四十七人目の男〈下〉 (扶桑社ミステリー ハ 19-15)
日本の読者にはかなり違和感があるが、そこには目をつぶって読み流し、むしろハンター氏の持つ「侍あるいは日本人の精神世界に対する畏敬の念」を感じながら物語を読み進めると良いでしょう。実際にハンター氏は多くのサムライ映画を観ているようです。ハンター氏による謝辞にも、氏が最近のアメリカ映画のていたらくを嘆き、サムライ映画『たそがれ清兵衛』を賞賛するくだりがある。本書を読めば、氏が日本的なものにかなり傾倒していることがありありと判ります。本書は「スティーヴン・ハンター版・忠臣蔵」です。
読了日:06月27日 著者:スティーヴン・ハンター


深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫)深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫)
時は元禄七年七月、よろず引き受け屋を裏家業にする四人の若者の活躍劇。四人の機知が元禄バブルに踊ったよこしまな奴らの鼻を明かします。江戸深川の粋、何よりも見栄を大切にする気質がよく描かれています。読んで痛快、読後感爽やか。本書はコンゲーム小説としての楽しみが一番ではあるが、蔵秀と雅乃のお互いを想う淡い気持ちの行方も気になるところ。
読了日:07月03日 著者:山本 一力


すっぽんの首 (文春文庫)すっぽんの首 (文春文庫)
いつものとおり、日常をスルドク見つめるシーナさん独特のエッセイです。シーナさんが若く流通業界紙の編集長をしていた頃の話も出てくるので、シーナ・ファンには嬉しい。それにしてもシーナさんの排泄に関する考察は結構奥深い。本書に収められた「たびのねるだす」を読んで「ウーン……」とうなられた方は、他のエッセイ集『ロシアにおけるニタリノフの便座について』を読まれることをお薦めしたい。たしか劉邦の皇后呂太后が憎らしい愛人に対して行った「人豚」というすさまじいリンチの話が載っていたと思います。怖ろしい話です。
読了日:07月06日 著者:椎名 誠


辰巳八景 (新潮文庫)辰巳八景 (新潮文庫)
江戸深川を舞台にした市井時代小説です。「辰巳」とは江戸深川のこと。深川は江戸城の辰巳の方角(東南)にあたるからです。山本一力氏が長唄『巽(辰巳)八景』に材を得て紡いだ八篇の物語です。八編とも極上の物語です。それぞれ味わいが深く、私は一篇読み終えるごとにしばらく心地よい余韻に浸りました。中でも「永代寺晩鐘」と「やぐら下の夕照」が秀逸。
読了日:07月11日 著者:山本 一力


空中ブランコ (文春文庫)空中ブランコ (文春文庫)
この本を読むと自分は本当に「よい子」だなあと思う。そして自分もいつか神経科にかかるかもしれないなあと思う。なんというか「まとも」であることの危うさを知ることで価値観に少しずつずれが生じ不安定になります。でも楽しい。看護婦のマユミさんカワイイ。
読了日:07月14日 著者:奥田 英朗


町長選挙 (文春文庫)町長選挙 (文春文庫)
今回は病んだ人だけでなく病んだ島まで伊良部流に治療してしまうところが何とも不思議であっぱれです。そして今回も私はいつか伊良部総合病院の薄暗い地下にある神経科を患者として訪ねそうな気がしながら読みました。私はけっして物語のモデルになったような有名人でもなければ重要人物でもないけれど……。マユミさんになら注射を打たれてもいいなぁ。(笑)
読了日:07月18日 著者:奥田 英朗


容疑者Xの献身 (文春文庫)容疑者Xの献身 (文春文庫)
探偵ガリレオ」こと物理学者湯川学シリーズの長編作。直木賞をとっちゃってます。泣けます。東野さんて『手紙』でも『白夜行』でも『さまよう刃』でも、主人公の想いが深く熱い。それも真面目に熱い。好きです、そんな人。
読了日:07月21日 著者:東野 圭吾


山本耳かき店 (ビッグコミックススペシャル)山本耳かき店 (ビッグコミックススペシャル)
女性に膝枕してもらう。そして耳かきをしてもらう。何と甘美な時間であろうか…… まさに淫靡、耽溺。 膝の上でこりこりしてもらう恍惚の時間の最後に、耳かきの反対側についているぼんぼんで耳穴をやさしく撫でてもらい、「ふっ」と息を吹きかけてもらう。官能が全身を駆け抜け、我が精神は何ものかから開放され涅槃に入る。耳かきに一種のフェティシズムを感じる方にはこれほど素晴らしい本はない。しかし、そうでない方にはこれほどつまらない本もない。
読了日:07月22日 著者:安倍 夜郎


サニーサイドエッグ (創元推理文庫)サニーサイドエッグ (創元推理文庫)
フィリップ・マーロウを我が心のヒーローとする人間にはたまらない小説です。読む所々で主人公・最上俊平の台詞にニヤリとさせられます。丁度、主人公・最上俊平とバー「J」のマスターとの会話の中でチャンドラーを引用し、お互いの波長が共鳴するように。事件はたかが猫探しである。しかし事件の解決にあたって安きに流されることなく、他に迎合せず、ここ一番でやせ我慢する主人公・最上俊平の生き様は、たとえそれが周りの者には滑稽に写っていたとしても、切ないほどにハードボイルドしている。
読了日:07月24日 著者:荻原 浩


センス・オブ・ワンダーセンス・オブ・ワンダー
ひさしぶりに子供の頃に見た雨の日の森、水を含んだ地衣類の緑の美しさを思い起こしました。虫眼鏡で覗く世界のワクワク感を思い出しました。植物図鑑と昆虫図鑑を買って、虫眼鏡を持って出かけたくなりました。出かけた先で、ふと目にとまった草花や昆虫を写真におさめ、家に帰ってから図鑑を覗く。そんな楽しみも人生にはあって良い。レイチェル・カーソン氏の文章も素敵ですが、森本二太郎の写真が素晴らしい。
読了日:07月25日 著者:レイチェル・L. カーソン


沈黙の春 (新潮文庫)沈黙の春 (新潮文庫)
一九五〇年代にアメリカにおいて、大量の農薬や殺虫剤をまくという暴力的な化学的防除策が惹き起こした生態系破壊、人体への悪影響を克明にレポートし、全世界に警告を発することで環境汚染問題を先駆的に取り上げた書です。人類が自然の摂理に逆らい、自らに都合の良い自然を創ろうと思い上がった行動に出ても、人類に都合の良い環境どころか自らの生存に危険が迫るという好まざる結果を生んでしまったという皮肉。
読了日:07月31日 著者:レイチェル・カーソン


はるき悦巳短編全集 力道山がやって来た (ビッグコミックススペシャル)はるき悦巳短編全集 力道山がやって来た (ビッグコミックススペシャル)
はるき悦巳という類い希な才能の原石を見るような13点の作品。おかしさの中に、懐かしさと切なさをもつテイストは、名著『じゃりん子 チエ』と共通している。最近、つまらん世の中になってきたなとお嘆きの貴兄にお薦めの一冊です。
読了日:07月31日 著者:はるき 悦巳


行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅 (幻冬舎文庫)行かずに死ねるか!―世界9万5000km自転車ひとり旅 (幻冬舎文庫)
それにしても石田ゆうすけという人は凄い。夢を諦めたら一生後悔がつきまとうんじゃないかという想いで大企業を退職し、自転車世界一周の旅に出てしまうとは。私には到底真似できない。私なら自転車世界一周という夢を叶えても、やっぱりあのまま会社に勤めていれば良かったなどと後悔するのじゃないかと考えてしまうだろう。安定した生活を捨てて、未知の世界へ一人でこぎ出す勇気はない。しかしそんな私も一人のチャリダーとして日本一周ぐらいはしてみたいものだ。何年か先に仕事を辞めて時間が出来たら……、きっと……。
読了日:08月11日 著者:石田 ゆうすけ


ひとり旅ひとり酒ひとり旅ひとり酒
太田さんの居酒屋巡礼ものです。西日本の名酒場を案内してくれて、その酒場の雰囲気を文章だけでなくカラー写真で紹介してくれる。いつか自転車であちこちを巡り、気の向いた町で安宿に泊まって、ぶらりと街に出る。よさそうな居酒屋の暖簾をくぐる。その地ならではの肴をアテに地酒をツイーっとやる。そんなささやかな夢を持つ私にとってこたえられない本でした。
読了日:08月12日 著者:太田 和彦


「戦う組織」の作り方 (PHPビジネス新書)「戦う組織」の作り方 (PHPビジネス新書)
労働組合の作り方ではありません。もしそうなら『「闘う組織」の作り方』という題名だったと思います。労働組合は「闘う」とか「闘争」という文字が好きです。「闘争」は時に「斗争」という文字に化けることもあります。スミマセン。少しふざけてしまいました。読んだ感想ですが、ごもっともでございます。私は悪い管理者でした。反省します。ハイ。
読了日:08月22日 著者:渡邉 美樹


会社でチャンスをつかむ人は皆やっている!一流の部下力会社でチャンスをつかむ人は皆やっている!一流の部下力
本の内容ですが、お中元の贈り方ではありません。もしそうなら『会社でチャンスをつかむ人は皆やっている! 一流品の贈り方』という題名だったと思います。世の中、魚心あれば水心。先方が好意を示せば、当方も好意を示す。これは当たり前のことです。スミマセン。少しふざけてしまいました。読んだ感想ですが、ごもっともでございます。私は悪い部下でした。反省します。ハイ。
読了日:08月22日 著者:上村 光弼


ザ・万歩計 (文春文庫)ザ・万歩計 (文春文庫)
子供の頃の想い出。学生時代の想い出。小説を書くことになったいきさつ。『鴨川ホルモー』のこと。『鹿男あをによし』のこと。宿敵ゴキブリとの闘争。万城目氏の魅力にあふれています。。『渡辺篤史の建もの探訪』が好きだというのもいい。
読了日:08月27日 著者:万城目 学


プリンセス・トヨトミプリンセス・トヨトミ
歴史の授業で関ヶ原の合戦から方広寺事件、大坂冬の陣大坂夏の陣に至る経緯を学ぶにつけ、釈然としないものを感じていた人は多いはずです。そして、徳川に、江戸幕府に、ひいては東京人に反感を持つ人も多いと思います。私もその一人です。万城目さんも同じ気持ちを持っていたのだ。なんとも嬉しいことです。
読了日:09月04日 著者:万城目 学


牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二) (講談社文庫)牡丹酒 深川黄表紙掛取り帖(二) (講談社文庫)
読後感の爽やかな小説です。これは登場人物の人柄によるものでしょう。それぞれが才気に満ち、人に温かく、矜持を胸に凛とした生き方をしています。その魅力に周りが引き込まれてゆき、大きな力となり企画が実現した時、人々の心に感動の波がひろがる。今回、四人衆が広目(広告)しようとした土佐の酒『司牡丹』は現存する酒です。どうやら作者・山本一力氏はけっして媚を売ることなく人の心を捉えていく主人公たちに、自分の出身地の酒『司牡丹』のもつ「剛直な辛口でいながら、ふっとひとの和みをいざなう旨さ」を重ね合わせたようです。
読了日:09月08日 著者:山本 一力


人生を変えた時代小説傑作選 (文春文庫)人生を変えた時代小説傑作選 (文春文庫)
「人生を変えた」とは些か大げさかと思うが、それぞれ珠玉の短編ばかり。「読まずに死ぬのはもったいない」と言っておきたい。
読了日:09月09日 著者:山本 一力,縄田 一男,児玉 清


「散歩学」のすすめ (中公新書ラクレ)「散歩学」のすすめ (中公新書ラクレ)
本書の内容は博学多才の著者・古川愛哲氏が散歩の効用、楽しみ方、散歩にまつわる雑学を披瀝しておられます。私は滅多に散歩しませんが、自転車の散歩(ポタリング)はしょっちゅうやります。読んでいて何度も「そうだったのか」と膝を打つことしきりでした。著者の碩学に脱帽です。
読了日:09月11日 著者:古川 愛哲


30年の物語 (講談社文庫)30年の物語 (講談社文庫)
この本を読んで私の心の奥底に潜む偏見に気づきました。「俳優」を「作家」の下に置き、俳優は一流の感性を持ってはいても、それを文字で表現するだけの知性を持っていないと思っていました。本を読み終えたとき、私はなんとおろかな偏見に囚われていたのかと自らの浅はかさに恥じ入りました。多彩な語彙をあやつり、激動の時代の光と影、そしてそこに生きる人間の微妙な心の襞を描き出す岸さんの筆力に畏敬の念を禁じ得ません。
読了日:09月24日 著者:岸 恵子


今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)今朝の春―みをつくし料理帖 (ハルキ文庫 た 19-4 時代小説文庫)
主人公・澪が想いを寄せる小松原の身分が明らかになり、幼なじみの野江(あさひ太夫)が吉原に売られたいきさつも明らかになる。野江を遊郭から救い出す道も遠く微かに見えてきた。一流料亭の登龍楼との料理番付争いも面白い。澪の料理に対する真摯な心、心根の温かさが周りの心を動かし、素敵な物語を紡いでいく。出てくる料理はすべて垂涎もの。あぁ、第四弾を読み終えたばかりなのに、早く第五弾が読みたい。高田さん、早く書いて下さい。お願いします。
読了日:09月28日 著者:高田 郁


影をなくした男 (岩波文庫)影をなくした男 (岩波文庫)
欲しいだけ金貨が出てくる「幸運の金袋」と引き替えに自分の影を売り渡してしまった男の苦悩をおとぎ話風に描いた本です。世間が異質な者にどれほど冷淡で残酷か、誰一人同じ境遇の者がいないという孤独がどれほど絶望的なことなのかを考えさせられます。
読了日:10月06日 著者:シャミッソー


送り火 (文春文庫)送り火 (文春文庫)
九つの短編が収められている。物語はすべて架空の私鉄線「富士見線」で繰り広げられる。市井の人が織りなす切ない物語。表題となった「送り火」はバスや電車の中で読んではいけません。目が真っ赤になって周りからじろじろ見られてしまいます。個人的には「シド・ヴィシャスから遠く離れて」が好きです。「パンクは生き方じゃない、死に方だ」なんて台詞にグッときます。
読了日:10月08日 著者:重松 清


寿司屋のかみさん うまいもの暦 (講談社文庫)寿司屋のかみさん うまいもの暦 (講談社文庫)
東京の寿司屋「名登利寿司」の女将さんが日記風に旬のたべものがらみの話を書かれたエッセイです。読んでいて涎が出ます。何といっても食いしん坊には楽しい本です。ちょっとした料理のコツなども書いてあり参考になります。
読了日:10月10日 著者:佐川 芳枝


手紙 (文春文庫)手紙 (文春文庫)
この本はバスや電車の中で読んではいけません。不覚にも人に涙をみられてしまいます。東野圭吾氏はこの『手紙』にせよ、『白夜行』、『さまよう刃』、『容疑者Xの悲劇』にせよ、善悪では割り切れない心情を描きます。物語として読者をぐいぐい惹きつける面白さもさることながら、読みながら深く考えさせられるところがあります。読者に何が正しいのか、主人公はどうすべきなのかという疑問を突きつけてきます。お薦めの一冊です。
読了日:10月22日 著者:東野 圭吾

死ぬことと見つけたり〈上〉 (新潮文庫)死ぬことと見つけたり〈上〉 (新潮文庫)
読了日:11月02日 著者:隆 慶一郎

 

 


死ぬことと見つけたり〈下〉 (新潮文庫)死ぬことと見つけたり〈下〉 (新潮文庫)
葉隠の「常住死身」とはいざというときに死んでみせるという覚悟ではなく、いつだって死んでいるという覚悟をさす。すでに死人(しびと)なのだから、その死に意味など必要ない。犬死にであろうが、甲斐ある死であろうが、その時がくれば死ぬのである。であるから、死ぬかも知れない状況であっても行動をためらわない。つまり、どう行動すべきかを選択する要素は、生死に非ず、損得に非ず、そうすることが正しいかどうかなのだ。「常に己の生死にかかわらず正しい決断をせよ」、これが主人公・斎藤杢之助の行動原理であり原点であり到達点でもある。
読了日:11月07日 著者:隆 慶一郎


吉原御免状 (新潮文庫)吉原御免状 (新潮文庫)
脆く美しい者を守る者は優しさを棄て、敵と同じくらい残忍非道にならなくてはならない。この悲しい矛盾が誠一郎の心を苛みます。まさにハードボイルド。そう、彼のチャンドラーが名作『プレイバック』の中で、探偵フィリップ・マーロウに語らせた「タフでなければ生きられない、優しくなければ生きている資格がない」という言葉と同じ命題です。
読了日:11月10日 著者:隆 慶一郎


のぼうの城 上 (小学館文庫)のぼうの城 上 (小学館文庫)
「武ある者が武なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者の鼻面をいいように引き回す。これが人の世か。ならばわしはいやじゃ。わしだけはいやじゃ」この一節にさしかかったとき、私の全身に鳥肌が立ちました。私の心がボッと炎と燃えた気がしました。何かしら熱いものがこみ上げ「ウォー」と雄叫びをあげんばかりに激したのです。この瞬間、私はこの物語の主人公・のぼう様(成田長親)にのぼせ上がったと言えましょう。
読了日:11月14日 著者:和田 竜


のぼうの城 下 (小学館文庫)のぼうの城 下 (小学館文庫)
武士が武士であった時代、男が男であった時代に、時と場所を得た強者どもが存分に戦う。そのような男どもに囲まれた男勝りの甲斐姫の恋。「のぼう様」の戦に馳せ参じ、命を賭す百姓どもは男のみならず、女、子どもまで。登場人物の生き生きとした様に心躍らせ、熱き思いに涙し、戦国の荒ぶる心に昂進する自分がいました。私の大好きな本に加わった一冊でした。
読了日:11月17日 著者:和田 竜


ダナエ (文春文庫)ダナエ (文春文庫)
主人公の宇佐見は萩原朔太郎の詩の一節に象徴される「何物をも喪失せず、同時に一切を失ってしまった男」として描かれている。人もうらやむ成功を収めた今も、過去を引きずりどこか世捨て人のような生き方しかできない男。伊織さんは溢れんばかりのロマンティシズムとリリシズムをもって描ききっています。主人公の想いに思わず涙してしまったほどです。
読了日:11月20日 著者:藤原 伊織


子育て侍―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)子育て侍―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)
酔いどれ小籐次が子連れ小籐次になってしまった。
読了日:11月22日 著者:佐伯 泰英

 


竜笛嫋々―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)竜笛嫋々―酔いどれ小籐次留書 (幻冬舎文庫)
おりょう殿への忍ぶ恋に新たな展開が……
読了日:11月24日 著者:佐伯 泰英

 


春雷道中―酔いどれ小籘次留書 (幻冬舎文庫)春雷道中―酔いどれ小籘次留書 (幻冬舎文庫)
前半でおりょう殿には置き文をさせておいて、後は登場させず。思わせぶりどうしてくれる。次作シリーズ第十弾では何らかの展開を見せてくれよ!
読了日:11月28日 著者:佐伯 泰英

 

雷桜 (角川文庫)雷桜 (角川文庫)
あらゆる意味で美しい物語です。瀬田村という田舎の情景、瀬田山に咲く桜の美しさ。生まれて間もない歳で拐かされた遊を想う両親の心、兄弟の心、三人の子を孫のように慈しむ奉公人吾作の心、そして何よりも物心つかぬうちから山中奥深くで育った遊の純真な心。晩秋の瀬田山の夕刻、馬上に茜色の光をあびて浮かび上がる斉道と遊。斉道は背後から遊を掻き抱き、遊は首をねじ曲げて斉道の唇を受けている。この情景がなんとも美しく印象深い。寄り添う二人の絵のような美しさは幻のごとくはかない。しかし、それだけに至福の刹那に違いない。
読了日:12月18日 著者:宇江佐 真理


霧の果て―神谷玄次郎捕物控 (文春文庫)霧の果て―神谷玄次郎捕物控 (文春文庫)
主人公のはぐれ同心が類い希な洞察力で人の心にある闇を巧みに見抜き、犯人をつきとめる。そうしたミステリーとしての楽しみもさることながら、読者は次第にこのはぐれ者の魅力に捕らえられてゆく。このはぐれ加減、自堕落加減がカッコイイのだ。その格好良さをたとえるならば、ローリング・ストーンズの格好良さに繋がるところがあると思う。何かで読んだのだがストーンズは演奏を始める前にバチバチに完璧なチューニングをした上で、わざと少し音を外すらしいのだ。このバッド・チューニングが彼らの格好良さであり魅力なのだと……
読了日:12月18日 著者:藤沢 周平


ネクタイと江戸前―’07年版ベスト・エッセイ集 (文春文庫)ネクタイと江戸前―’07年版ベスト・エッセイ集 (文春文庫)
名文家の文章である。それぞれ味わい深いが特に好きなのは廣淵升彦氏の「コンドルと車輪の物語」だ。現代人から見ても想像を超える高度なインカ文明を有した南米が、聖なる太陽を崇めるあまり、太陽に似た丸い形をしたものをいっさい生活に用いなかったために、スペイン人たちの泥に汚れた車輪の上に据わった大砲の前に為す術もなく敗れた。それから四百年以上、白人に支配され、女たちは犯され、男たちは奴隷として過酷な労働を強いられた。「コンドルは死んだがいつかよみがえる。」 この言葉が虐げられた人々の唯一の希望であったという。
読了日:12月19日 著者:


酒呑みの自己弁護 (ちくま文庫)酒呑みの自己弁護 (ちくま文庫)
クラーク・ゲーブルが映画の中でベルモットの瓶を逆さにして振り、そのコルク栓でカクテル・グラスの縁を拭いてジンを注いでドライ・マルチニ(マティーニをマルチニと呼ぶのは山口氏のこだわり)をつくったという話。チャーチルベルモットの瓶を横目で睨みながらジンのストレートを飲んだという話。山本周五郎氏がけっしてスコッチを口にせずサントリー・ホワイトを飲み続けていた話。大山康晴王将が始めたゴルフをすぐ止めたときに「あれは体によすぎるので……」といったという話。小粋な話が随所にちりばめられたエッセイです。
読了日:12月21日 著者:山口 瞳


おすすめ文庫王国2010−2011おすすめ文庫王国2010−2011
本好きの本好きによる本好きのための本『本の雑誌』が2010年度文庫ベストテンや各ジャンル別文庫ベストテンなど文庫本をガイドしてくれます。
読了日:12月22日 著者:


遠野物語 (光文社文庫)遠野物語 (光文社文庫)
ちょっと偉そうな言い方になりますが写真は予想以上にアバンギャルドです。私に写真のなんたるかが分かるわけではありません。素人目に見てとてもプロの作品とは思えないのです。「ブレ・ボケ・アレ」が特徴とされるのもむべなるかなと妙に納得しました。もちろんそれは私に見る目がないからでしょう。しかし、それほど氏はプロの写真として想像を超えたというか外れた存在でありそうです。ことほど左様に私は氏の写真の良さを理解できませんでしたが、一方で氏がエッセイで仰りたかったことは少し分かったつもりです。
読了日:12月24日 著者:森山 大道


森山大道 路上スナップのススメ (光文社新書)森山大道 路上スナップのススメ (光文社新書)
本書を読んで感心したのは森山氏がカメラマンとしてカリスマ的な存在であるにもかかわらず、銀塩カメラにこだわらず、デジタルカメラの領域に踏み出していること。氏はデジタルカメラを使用した感想を「撮る分量が増えた」と言っている。まさに氏の持論である「量のない質はありえない」を地でいく姿勢だ。このことは我々がデジタルというツールを手に入れた以上自然なことである。いやむしろ必然と言い換えても良い。その必然をありのまま素直に受け入れるところが氏が本物であることの証左だと考えるのは私だけではないだろう。
読了日:12月31日 著者:森山 大道;仲本 剛


美女と竹林 (光文社文庫)美女と竹林 (光文社文庫)
作者、登美彦氏が主人公の物語です。物語といっても大したストーリーがあるわけではありません。登美彦氏がなぜか竹を切りたいと思った。そして友人の明石氏を誘って竹林に出かける。しかし竹林は想像以上に手強かったというだけの話である。その中身のない物語を氏の止めどもなく拡がる妄想で膨らませ膨らませ328Pの本にしてしまったのだから開いた口がふさがらない。
読了日:12月31日 著者:森見 登美彦


Story Box1Story Box1
 「誤飲(仙川環)」と「夜行(森見登美彦)」は完結。その他は連載です。さすが連載を前提に書いているだけに創刊本の本書を読めば、つづきが気になって仕方がない。良くできた連続ドラマのように止められない状態になりそうです。森山大道氏の写真もなかなか良い味を出しています。
読了日:12月31日 著者:仙川 環