佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ある日、アヒルバス』

秀子は泣きながら、ピノを食べていった。
最後のひとつだ。
封を開こうとしたとき、その形が他とちがうのに気づいた。
星の形をしている。
願いのピノだった。
                 (本書P164より)

 

 『ある日、アヒルバス』(山本幸久/著・実業之日本社文庫)を読みました。

 

 

 バスを愛する人間として知っておくべき曲は三曲ある、と私は思う。一曲は山本コータロー氏の名曲岬めぐり。岬をめぐるバスに昔の恋人を思い出す切ない歌です。私は時々カラオケで時々歌います。二曲目は平浩二氏の歌う「バスストップ」。これは旅先の和風スナックなどで歌いたい一曲だ。三曲目、これは三十路すぎの魅力的な女性、それも二十歳代の女なんてガキくさくて目じゃねーぜと言うくらい大人のお色気ムンムンの女性に是非とも歌って欲しい「バスルームから愛をこめて」山下久美子さんの名曲です。バスにもいろいろあります。「男なんてシャボン玉~きつく抱いたらこわれて消えた~」このフレーズは一度聴いたら忘れられない。素晴らしい。

 

岬めぐり」 山本コウタローとウイークエンド

 

 

「バスストップ」 平浩二

 

「バスルームから愛をこめて」  山下久美子

 

 そしてバスと小説を愛する人間が是非読んでおくべき本といえばこれまた三冊ある。一冊はウッドストック行最終バス』(コリン・デクスター/著・ハヤカワミステリ文庫)である。上梓されてから三〇数年経ってなお現代本格ミステリの最高峰に位置する名作だ。未だお読みでない諸兄諸姉は是非とも読んで論理のアクロバットをお楽しみいただきたい。二冊目は『バスが来ない』(清水義範/著・徳間文庫)。短編集の中の表題作「バスが来ない」はバスを待つ人の気持ちをこれ以上ないほどに的確に捉えた秀逸作。乗合バスに係わる人間の必読書でもある。そして三冊目はこの『ある日、アヒルバス』です。本書は「お仕事本」の最高峰に位置すると言って良いでしょう。観光バス業界に働く人に限らず、真面目に働く人すべてに読んでいただきたい本です。読んでいただければ、必ずや共感していただけるものと確信いたします。ハイ。

 

裏表紙の紹介文を引きます。


ヒルバス入社五年の観光バスガイド・高松秀子(通称デコ)はわがままツアー客に振り回されたり、いきなり新人研修の教育係にされたりと悩み多きお仕事の毎日。さらにある日、アヒルバスを揺るがす大事件も起きて…笑いあり、感動ありのバスガイドたちの姿を東京の車窓風景とともに生き生きと描く。文庫のための書き下ろし短編・東京スカイツリー篇(「リアルデコ」)収録。


 

 主人公の秀子(デコ)はけっしてずば抜けた能力がある子ではありません。小説の主人公としては「特別」というよりむしろ「普通」の子。そんな彼女がバスツアーのお客様に心を込めて案内をする。もちろんお客様が料金を払って下さるから、会社から給料をもらっているのだから当たり前と言えば当たり前です。しかしややもすれば、給料が安いだの会社が正当に評価してくれないだのといった理由を付けて手を抜く人が多いのも事実。でもデコちゃんは違います。デコちゃんが一生懸命仕事をするのは、それが自分の仕事だからです。「仕事は一生懸命するもの」そんな当たり前のことを当たり前にする主人公が清々しい。
 笑います。ホロリとさせられます。元気が出ます。最近疲れ気味だなと元気のない人に是非読んでいただきたい一冊です。