佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ワセダ三畳青春記』

「行き詰まっているんだけど、何に行き詰まっているのかわからない」
 至言である。私も二十歳前からやりたい放題やってきて、今でもやっている。現状にさしたる不平不満はない。だけど、何か周囲を暗雲におおわれているような気がする。
                               (本書P191より)

 『ワセダ三畳青春記』(高野秀行・著/集英社文庫)を読みました。これは面白い。自信を持って人に勧められるエッセイだ。(ただし、学生、特にこれから大学生になろうとしている高校生に勧めるとどんな結果になるかがちょっとコワイ気がするが) 

 

 

 

 本書は第1回「酒飲み書店員&営業が選んだ一冊」大賞受賞作である。面白くないはずがないのである。最近、本屋大賞なるものが世間を騒がせ、ベストセラーを生み出している。本屋大賞を取ればベストセラー間違いなし。それどころか映画化されてしまうほどのものなのだ。大賞を取れなくてもノミネートされただけでも売れるのだ。それもそのはず、常に目を皿のようにして売れる本を探すプロが選ぶのだから。ではこの「酒飲み書店員&営業が選んだ一冊」大賞はどうか。選考に携わっているのは「千葉の酒飲み書店員の会」(通称「千葉会」)という集まりらしい。全国の書店員が選ぶ本や大賞に比べ些かローカルでこぢんまりしていると言わざるを得ない。しかし、新刊の単行本を対象に選ぶ本屋大賞に対し、「酒飲み書店員&営業が選んだ一冊」大賞は文庫本を選考対象としているところがエライのだ。その意気やよし! そのうえ、先行に当たる書店員&営業は酒飲みなのだ。酒飲みは慧眼の士。その識見、眼力に疑う余地はないのだ。なにゆえ酒を飲むことをもって慧眼の士であると断定できるのか? それは私が酒飲みだからです。
ネット上に酒飲み書店員の会・潜入ルポがあったのでURLを記しておきます。何とも羨ましい会です。可能であれば私も参加させて欲しいぐらいのものです。しかし私は兵庫県在住。しかも仕事は書店員ではない。ムリなものはムリなのだ。
http://www.poplarbeech.com/horebore/horebore.html

 

裏表紙の紹介文を引きます。


三畳一間、家賃月1万2千円。ワセダのぼろアパート野々村荘に入居した私はケッタイ極まる住人たちと、アイドル性豊かな大家のおばちゃんに翻弄される。一方、私も探検部の仲間と幻覚植物の人体実験をしたり、三味線屋台でひと儲けを企んだり。金と欲のバブル時代も、不況と失望の九〇年代にも気づかず、能天気な日々を過ごしたバカ者たちのおかしくて、ちょっと切ない青春物語。


 下宿ものとして椎名誠氏の名著『哀愁の町に霧が降るのだ』と双璧をなすといって過言でないだろう。椎名氏とその仲間たちの住んだ「克美荘」総武線小岩駅下車徒歩7、8分、家賃5500円、六畳一間。高野秀行氏の住む「野々村荘」早稲田大学門徒歩5分、家賃1万2千円、三畳一間。ちなみに私が学生時代住んだのは「さゆり荘」、神戸商科大学門徒歩10分、家賃8千円、三畳一間。素晴らしきかな清貧の学生生活。パンの耳をかじりながら、酒盛りだけは欠かさなかった。ボロは着ててもココロの錦。かねてより万城目学氏の名著『鴨川ホルモー』を愛し、今また高野秀行氏の『ワセダ三畳青春記』を愛読書の一つに加えた私の心は決まった。そう、「生まれ変わったら京大に入って青龍会に入会する。さもなくば早稲田に入って探検部入部を果たす。しからずんば死を」と固くココロに誓ったのである。
 余談ながら、私の息子は来春大学院を卒業予定。就職も決まっている。娘は来春大学院に進む予定。二人にこの本は読ませたくない。親心は複雑だ。(笑)