佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

文士料理入門

このすきやきの特徴は、あの、素晴らしい肉の旨味だけを、純粋に堪能しよう、と言う訳なのですね。その場合には、葱や豆腐は、よけいなものなのです。贅沢と言えば、これ以上、贅沢なすきやきはありませんね。極道すきやきと名前をつけた私の気持ちが、誰にでも分からない筈がない、と私は思ったのです。
                (本書P113・宇野千代「私の作ったお惣菜」より)

 

『文士料理入門』(狩野かおり・狩野俊・著/角川書店)を読みました。

 


本のオビにある紹介文を引きます。


文士たちが、
作った・食べた・描いた
旨いウチメシ!!

 

太宰治、内田百閒、池波正太郎幸田文武田百合子……
名作の傍らで息づくホックホクの料理を徹底再現!
眺めて読んで、作って食べてうれしい、作家15人の全53レシピ!

 

太宰治・卵味噌のカヤキ/檀一雄・大正コロッケ/内田百閒・豚鍋/草野心平・蓮根と豚の揚げ団子/井伏鱒二・蛸のぶつ切り/立原正秋・塩辛大根漬/吉田健一・新橋茶漬け/池波正太郎・葱と剥き身の小鍋仕立て/藤沢周平・玉こんにゃく/幸田文・えだ豆三様/宇野千代・極道すきやき/森茉莉・胡瓜の皮サラダ/武田百合子・茄子にんにく炒め/向田邦子・南瓜の塩蒸し…… 

作家15人の全53レシピをオールカラーで!

 

角田光代矢作俊彦石田千の書き下ろしエッセイ付き。



 本好き、酒好き、おいしいもの好き(おいしいものは誰もが好きだろうが…)にとって夢のような本です。文士たちの写真とともに、食べ物にちなんだ文章が引用され、料理の写真がカラーで掲載されている。見れば食べてみたくなる、作りたくなる。作りたい料理にはレシピが書いてあるのがうれしい。ただし、レシピは極々かんたんに紹介されている。あとはあなた方のセンスでご自由にといったところ。心憎い演出だ。宇野千代氏の「極道すきやき」、草野心平氏の「Symphony」「卵納豆」、森茉莉氏の「トマトの牛酪(ばたあ)煮のせ御飯」、向田邦子氏の「いちじくのウイスキー煮」はぜひとも試したい。

 

 どんな料理かを二品ばかり紹介すると、たとえば「極道すきやき」は牛肉にブランデーと割り下をかけ、溶き卵をまぶし、しばらく置いて味が馴染んだところで、太白胡麻油を引いたホットプレートで焼く。また「いちじくのウイスキー煮」はいちじくの皮を剥いて小鍋でひたひたのウイスキーかブランデーでことこと弱火で15分ほど煮る。

 

 文士の食に対するこだわり方はそれぞれに味わい深い。それは同じレシピでも料理人によってそれぞれ味わいが違うのと同じことだろう。文章に人柄が現れるように、料理もまた人なのだろう。

 

 著者の狩野かおり・俊のお二人は東京は高円寺にコクテイル書房を経営していらっしゃるらしい。コクテイル書房は古書店と居酒屋を兼ねる。そしてお店の名物料理はもちろん文士料理。それこそ、本好き、酒好き、おいしいもの好きにとって夢のような店です。ぜひ、一度は訪れてみたいものです。