佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

きみが見つける物語 十代のための新名作 休日編

充分楽しかった三年間は、十五のとき想像したとおりだった。私は私のままだった。そうしてあのとき私はふと、そんなすべてがいやになったんだと思う。どこへ行っても私が私であること、それはつまりどこへも行けないことだった。そういうことに安心している私自身もいやだった。バス停に走りこんでくるバスに乗っても行けない場所に私はどうしても行きたく、また見たことのないその場所に恐怖を覚えたのだ。

                    (本書P272~P273・「夏の出口」より抜粋)

 

『きみが見つける物語  十代のための新名作 休日編』(角川文庫)を読みました。このところ用事が多く、じっくりまとめて読書する時間が取りにくい。そんなときにこうした短編小説撰はたいへん重宝する。

 

 

この「休日編」に収められているのは次の短編小説。

 

    (記載は タイトル・ 著者・ 収録元・ 出版社の順)

それぞれについてひと言コメントをつけてみる。

 

「シャルロットだけはぼくのもの」
 軽いテイストの洒落たミステリ。ありきたりの日常がミステリというスパイスで素敵な一日に。

「ローマ風の休日」
 既読の短編集「ホルモー六景」に収録されていた短篇。再読だが物語の世界は決して色あせない。大好きな作品。ただ、この短編小説を読む前には同じく万城目氏の小説『鴨川ホルモー』を是非読んでおきたい。そうすることで、味わいが倍増する。

「秋の牢獄」
 私はこれまで3回尿管結石を患っている。その日が11月7日でなくて良かったと思える物語。読めば解ります。

「春のあなぼこ」
 小学校を卒業し、中学校に入学するまでの空白の二週間にする冒険。自分の知らない世界へ飛び出したい気持と、知らない世界への畏れが良く現れた作品。


「夏の出口」
 高校3年の夏、自分はこれから何者にもなり得る、が同時に今、何者にもなり得ていない自分に対するいらだちと不安。読者にもあったはずのそんな記憶を呼び覚ましてくれる秀作。角田さんの文章は大好きだ。

 

 このシリーズ(きみが見つける物語・十代のための新名作)を読むのはこれが二冊目。前に読んだのは「切ない話編」であった。小説に優劣をつける気はないが、好みとしてこちら「休日編」に軍配を揚げたい。