佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

魚舟・獣舟(うおぶね・けものぶね)

俺を捕まえたいのなら、直接殴って捕縛しろ。もしくは容赦なく撃ち殺せ。それ以外の方法は絶対に許さない――。

                                       (本書P148「小鳥の墓」より)

 

『魚舟・獣舟』(上田早夕里・著/光文社文庫)を読みました。

 

 

 

まずは裏表紙の紹介文を引きます。


 

現代社会崩壊後、陸地の大半が水没した未来世界。そこに存在する魚舟、獣舟と呼ばれる異形の生物と人類との関わりを衝撃的に描き、各界で絶賛を浴びた表題作。寄生茸に体を食い尽くされる奇病が、日本全土を覆おうとしていた。しかも寄生された生物は、ただ死ぬだけではないのだ。戦慄の展開に息を呑む「くさびらの道」。書下ろし中編を含む全六編を収録する。


 

 

上田氏の御著書は『ラ・パティスリー』から読ませていただいたので、本書では全くの別人がお書きになったもののように感じました。(http://hyocom.jp/blog/blog.php?key=181898)  テイストが全く違いますので、本当に同じ方の手になるものなのかどうか確認したほどです。いろいろな引き出しをお持ちの方のようです。『ラ・パティスリー』と本書、どちらが好きかと問われれば、今のところ本書に一票といったところです。しかし『ラ・パティスリー』の続編『菓子フェスの庭』が上梓されたらしいのでそちらも読むつもりです。

それにしても、しばし上田ワールドに遊ばせていただきました。読者を物語り世界に引き込む力は相当なものです。おそらく上田氏は物語をいくらでも紡ぐことができる方なのでしょう。私のように物語を読むだけの人としてはまことに羨ましいかぎりです。尊敬と同時に軽くジェラシーさえ感じます。

本書には、短編・中編織り交ぜて6編が収められている。その中で表題作『魚舟・獣舟』については同じ世界設定の長編『華竜の宮』が上梓されている。これは必読です。もう一つ、解説によると『小鳥の墓』は既刊の『火星ダーク・バラード』の前日譚らしい。『火星ダーク・バラード』は第四回小松左京賞を受賞するなど評価が高い。これも当然読まねばならないだろう。忙しいことだ。