佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

直島-豊島 わしらはアートな探検隊 2012/5/11-12 No.01


「神島にしようじゃないの」

 と、その年の春、陰気な小安は早くも二級酒四合をぐびりぐびりと飲み干し、板わさ、もつの煮こみ、もろきゅう、といったところをあらかたつつきおわったところでぼそぼそと陰気に言った。

 こやつはいささかアル中度七五パーセントといったあたりにさしかかっているのだが、我々の組織する「東日本何でもケトばす会」という、名称からしてすでにいかにも実のなさそうな、ま、いいじゃないの、どうぞおやんなさいおやんなさい、というようなかんじの会の事務局および連絡総務といったところを担当している。

 別名「陰気な小安」と呼ばれるように、このひとはなぜかいつもうつむきかげんの生活行動を貫き、世の中に対して左前方約四三度の角度から視線を発射し、およそ四〇パーセント程度のイラダチと、六〇パーセント程度のハラダチを加え、若干のニヒル度をパラパラとふりかけて激しくかきまわし、そのへんにざっとぶちまけたようなかんじの、つねに何事か「うるせい!」という表情および態度というものをあらわにしている、いささか複雑な内面起爆力をもった男なのである。


 

 

 これは椎名誠氏の名著『わしらは怪しい探検隊』の書き出しである。「怪しい探検隊」ものの記念すべき第一書にして、「東日本何でもケトばす会」結成当時の行状をつぶさに記録したという点においてエポック・メイキングな紀行文なのだ。椎名フリークの私にとって忘れ得ない作品である。

 

 さて、私のことである。

 

「直島がええやんけ」

 と、その夜、陽気なウェルズは早くも一升瓶に三合ばかり残っていた「笑四季 LA MOUSSON 」をぐびりぐびりと飲み干し、枝豆豆腐、筍とサヤエンドウの卵とじ、といったところをあらかたつつきおわったところできっぱりと陽気に言った。

 

 

 なぜ「直島」がよろしいのであるか。香川県の直島とその周辺の島々は二年ほど前に瀬戸内芸術祭が開催されて以来、注目のアート・スポットなのだ。もともと春の陽光にキラキラ輝く瀬戸内の温暖な島々は、自然の織り成す芸術品といってよい。船で渡って良し、自転車でポタポタ廻って良し、魚も美味い、人情も温かいと、春の旅にこの上ないロケーションなのだ。そこに「地中美術館」「李禹煥(リ・ウファン)美術館」がある。そして島のそこかしこにオブジェがある。特に草間彌生さんの赤いかぼちゃと黄色いかぼちゃを観たい。さらに、近くの「豊島」に渡れば「豊島美術館」 もあるのだ。直島-豊島間は小型船でたったの二〇分で行ける。

 私は以前に読んだ「カーサ ブルータス 特別号 日本の美術館ベスト100ガイド」にでている美術館を一生かけて全て訪れたいと思っているのだが、これまで訪問できたのは「金沢21世紀美術館」「兵庫県立美術館」「植田正治写真美術館」「大原美術館」のわずか四カ所。このたび、「直島」「豊島」に行けば「地中美術館」「直島・家プロジェクト」「李禹煥美術館」「豊島美術館」と一気に四カ所増やすことができ、8/100訪問を達成できるのだ。(直島には「ベネッセハウス・ミュージアム」もあるが、ここは美術館とホテルが一体になった「泊まれる美術館」なのだ。ここは、一泊して二日間ゆっくりと感じたいところ。今回は涙をのんでパスすることにした。)

 

 二日間でたどったコースとプロファイルは次のとおり。

 宇野港から直島行きフェリーに乗り、一日目は直島をポタリングし直島泊。二日目は豊島に渡り観光してまわった後、ふたたび宇野港に帰るという旅程。(旅の詳細はNo.2以降に記す。)