佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ライオンハート』(恩田陸・著/新潮文庫)

「ポケットを」

 少女はもう一度言った。

 エドワードは少女のポケットを探る。白いハンカチーフが出てきた。

「ああ」

 手に持たせてやると、少女は安心したような溜め息をついた。

「やっと、渡せるわ。ね。エリザベスから、エドワードへ」

 全身が震えていた。少女の体とともに、エドワードも震えていたのだ。

「受け取って。持って、いて。なくさないで、ね」

 少女は真剣な瞳でエドワードを見据えた。ハンカチーフをそっと受け取る。泥と血が滲んでいる。

「これを、渡して。あたしに。四十五、年、経ったら。あたしを、見つけて。きっと」

 ほとんど声になっていなかった。彼女の瞳が見えなくなった。なぜだ。なぜだ。父の時も、母の時も、涙なんて出なかったのに。

「その、とき、あたし、は、はじめて、あな、たに、で、あう、から」

                                              (本書P73より)

 

ライオンハート』(恩田陸・著/新潮文庫)を読みました。

 

 

ライオンハート (新潮文庫)

ライオンハート (新潮文庫)

  • 作者:陸, 恩田
  • 発売日: 2004/01/28
  • メディア: 文庫
 

 

 

まずは裏表紙の紹介文を引きます。


 

いつもあなたを見つける度に、ああ、あなたに会えて良かったと思うの。会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ…。17世紀のロンドン、19世紀のシェルブール、20世紀のパナマ、フロリダ。時を越え、空間を越え、男と女は何度も出会う。結ばれることはない関係だけど、深く愛し合って―。神のおぼしめしなのか、気紛れなのか。切なくも心暖まる、異色のラブストーリー。


 

 

 先日読んだ『ビブリア古書堂の事件手帖3』に取り上げられていたロバート・F・ヤングの『たんぽぽ娘』が読めないでいる。絶版本を手に入れるのは難しそうだ。図書館を調べてみようと思う。しかし「読みたい」という気持を押さえきれない。仕方なく、他の物語で埋め合わせをと選んだのがこの本です。時空を越えた恋の物語です。

 エドワードとエリザベスは時空を越えて出会い、すれ違うことを運命づけられた二人。会ったことのない二人だが、お互いが出会う運命にあることはわかっている。深く相手のことを想い、出会いの時を夢見て生きている。しかしやっとめぐり逢えた逢瀬はあまりにも短い刹那。「めぐり逢える」そのことだけで生きた意味があると思えるほどの恋。現実にはまだ一度も出会っていないのに、いつもお互いの心は寄り添っている。そうした確信があれば、お互いにとって結ばれることなどもはや渺々たること。恩田さんは時空を越えるというSF世界を使って、純粋な概念としての恋を描いた。

 あとがきを読んで分かったのですが、この物語を書くきっかけになったのは Kate Bush の曲"Oh England My Lionheart"だったとか。SMAPでなくて良かった。(笑) 恩田さんは1978年の東京音楽祭を中継したTV番組で"MOVING"を歌っている彼女をご覧になったそうです。実は私もその番組を視ていたのです。その時の衝撃を今でもはっきり憶えています。私はその夜、下宿の近くにあるコインランドリーで洗濯をしていました。待っている間、TVをぼんやり視ていたら、何とも不思議で個性的な彼女の歌声が私の心を捉えたのです。いやいや、恩田さんも同じ番組を視ていらっしゃったとは。当時、恩田さんは中学生、私は大学一年生。何の接点もないけれど、ひょっとしたらその時、私はこの本を読むことを運命づけられたのかもしれない。(笑)

 もうひとつ、あとがきを読んで分かったことはこの小説がロバート・ネイサンの小説『ジェニーの肖像』へのオマージュとして書かれたということ。時を超えた恋がテーマらしい。これも読んでみるつもりです。

 

TouTubeで Kate Bush の曲にリンクしてみましょう。

 

恩田さんも私も視た東京音楽祭1978の映像。

Kate Bush - Moving (Live in Japan 1978)

 

そしてKate Bush の曲で私がいちばん好きなのは

Wuthering Heights

そういえばこの曲をきっかけにブロンテの小説を読んだ。

 

最後にもう一つ。

恩田さんがこの物語を書こうと思ったきっかけになった曲。

Kate Bush - Lionheart (Live)