佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

二〇一二年の読書メーター その2

東京バンドワゴン (集英社文庫)東京バンドワゴン (集英社文庫)感想
これは家族の愛と笑いと涙のドラマです。家族とは、人生とはかくあるべしという物語。しかもその舞台が古本屋となれば本好きで情にもろい私にはたまらない。また一つお気に入りのシリーズが増えた。煩わしいことを捨て去り一人で自由に生きるのも悪くはない。でも、この本を読むと自分のことよりも周りを想う人生の方が遙かに価値があり、より深く幸せなのだと感じる。家族が皆、人の痛みってやつをわかるヤツばかりで、愛に溢れていれば、人生はこんなにも輝く。たとえそれが未婚の母になる人生であっても。愛こそすべて。
読了日:5月4日 著者:小路 幸也
シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン (集英社文庫)シー・ラブズ・ユー 東京バンドワゴン (集英社文庫)感想
あぁ・・・ついに、藍子さんが・・・。私も東京バンドワゴンに足しげく通い、<かふぇ あさん>で憩い、藍子さんと会話するうちにあわよくば・・・などと妄想していたのだが・・・。そうかぁ、マードックさんとねぇ・・・。あぁ(ため息)・・・。それにしても、このレビューは「・・・」ばかりだ。未練の数だけ・・・、あぁ(ため息)・・・。マードックの野郎、藍子さんを泣かせやがったら承知しねえぞっ、この野郎! あぁ(ため息)・・・。
読了日:5月6日 著者:小路 幸也
古本のことしか頭になかった古本のことしか頭になかった感想
「詩人か、高等遊民か、さもなくば何にもなりたくない」とは私の敬愛する森見登美彦氏の言葉だ。「古本のことしか頭になく」生活できる人は、まさに高等遊民ではなかろうかと思う。しかしよく考えてみると、ほぼ毎日本屋をのぞき、その都度2~3冊本を買い、家の中が本で溢れる、買った本は当然読まなければならない、それはそれで大変な毎日なのだろう。それでもそのような生き方に私は焦がれる。本屋を彷徨いつつ人生を遊ぶ、それこそ高等な生き方ではないか。
読了日:5月9日 著者:山本 善行
スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン (集英社文庫)スタンド・バイ・ミー 東京バンドワゴン (集英社文庫)感想
人が生きていくにはLOVEが必要なんだねぇ。溢れんばかりのLOVEがねぇ。人はひとりじゃぁないんだねぇ。支えられて生きているんだねぇ。LOVEをもとめてはいけないねぇ。LOVEを欲しがっちゃいけないねぇ。LOVEは与えるものだよぉ。出し惜しみせず、それこそ溢れんばかりのLOVEを与えるんだよぉ。そうすれば空っぽになるねぇ。でも大丈夫だねぇ。ありったけのLOVEを与えていれば、必ずLOVEは返ってくるんだねぇ。そばに寄り添ってくれるんだよぉ。それが東京バンドワゴン・シリーズのテーマなんだねぇ。愛こそすべて。
読了日:5月16日 著者:小路 幸也
古書狩り (ちくま文庫)古書狩り (ちくま文庫)感想
このところ『せどり男爵数奇譚』、『ビブリア古書堂の事件手帖』シリーズ、『東京バンドワゴン』シリーズと読み込んできての本書である。ミステリ、SF、ブラック等、さまざまなテイストで面白く読ませてくれる。本好きとして書痴の生態にニヤッとしたり、ぞわっとしたり。中でも「本の虫」という話は忘れられそうにない。読書メーターの読書家ランキングにランクインして喜んでいる場合ではない。ある朝、目を覚ましたら紙魚になっていたりして……。そんなカフカのような不条理に搦め捕られたらなどと想像するだけでぞわっと……おーこわっ……
読了日:5月19日 著者:横田 順弥
マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン (東京バンドワゴン) (集英社文庫 し)マイ・ブルー・ヘブン 東京バンドワゴン (東京バンドワゴン) (集英社文庫 し)感想
東京バンドワゴンの二代目・草介、三代目・勘一の生きた戦後間もないころのエピソード。本書で考えさせられるのは血筋。古本屋東京バンドワゴンを営む堀田家の血筋は「お節介」らしい。しかしそれは決して下世話なものではない。人として生きる上での矜持と信念に基づいたものであって堀田家と堀田家に集う者すべてに共通する美質だ。祖父の生き様、父の生き様が子に孫に受け継がれる。それこそが血筋であり一族の誇り。ただただ、生を受け、食べて、糞を放り、死んでいくだけが人生ではない。高潔に生きる人生にこそ意味がある。
読了日:5月21日 著者:小路 幸也
オール・マイ・ラビング 東京バンドワゴン (東京バンドワゴン) (集英社文庫)オール・マイ・ラビング 東京バンドワゴン (東京バンドワゴン) (集英社文庫)感想
恋をする。すると同じ日常なのに、昨日までと世界がすっかり変わってしまう。堀田家の人は代々素敵な恋をしてきたのだなぁ。そうした想いを大切に大切にしてきた堀田家は未来永劫、堀田家のままであり続けるだろう。そして、堀田家の変わり種、我南人である。親交があるKeithってキース・リチャーズですよね。いっしょにワールド・ツアーやろうよっていうオファーがきたってのはスゴイことですよ。やって欲しいなー。はじまりは”How I Wish”で。〆は”It's Only Rock'n Roll”でお願いします。(笑)
読了日:5月22日 著者:小路 幸也
昭和の女優昭和の女優感想
私が同時代的に映画で観た女優というよりは、もう一世代前の女優九人について、その代表作も含めて紹介している。映画が娯楽の代表であり、だれもが銀幕の世界にあこがれを抱いた時代にあって、まさに国民的人気のあった大女優だけにそのエピソードには興味を惹かれた。たまらなく古い映画を観たくなります。幼少の頃の淡い記憶とともに、古き良き昭和の空気を懐かしく思い出しました。しばらくTSUTAYAに通い、『東京物語』や『約束』などを借りてみるのもよいかもしれない。
読了日:5月27日 著者:伊良子 序
片腕をなくした男〈上〉 (新潮文庫)片腕をなくした男〈上〉 (新潮文庫)感想
久しぶりのチャーリー・マフィン・シリーズ。やっぱりイイ。「ハッシュパピーが新品で、まだ足に馴染んでいなかった」とか、「両足は依然として間断なくうづき続けていて、何かを見落としているのではないかという懸念から解放してくれなかった」などという記述を読むと、もう、うれしくて、うれしくて・・・
読了日:5月27日 著者:ブライアン フリーマントル
片腕をなくした男〈下〉 (新潮文庫)片腕をなくした男〈下〉 (新潮文庫)感想
今回もチャーリーは孤立無援。ロシア連邦保安局、アメリカCIA、マスコミなどから窮地に陥れられる。絶体絶命のピンチかとはらはらさせられるが、持ち前の油断のなさと機知で一気に形勢を逆転させ、逆に彼らを奈落の底に突き落とす。この快感は、一度味わったら忘れられません。と、いうことで、次は、シリーズ最新作『顔をなくした男』。えっ? なんだって? チャーリーが引退? ナターリヤとサーシャとはどうなるの? 気になる。早く読まねば・・・・・
読了日:5月27日 著者:ブライアン フリーマントル
瀕死の双六問屋 (小学館文庫)瀕死の双六問屋 (小学館文庫)感想
そうだねぇ。すごいロックをやっている人間が瀕死の状態なのです。つまらないモノは、それこそバカみたいに売れちゃうのにねぇ。つんくとか、コムロとか、どうでもいいヤツ。あーばかばかしいね。無視すりゃいいんだけど、あらゆるところに出てくるんだよ(コムロ系は出なくなったけど)。でも、わかっているヤツもたくさんいるよね。ブルースを大切にしているヤツはたくさんいるよね。サイコーにカッコイイヤツはたくさんいるよね。あぁ、清志郎のスイート・ソウル・ミュージックが聴きたい。レコードじゃなく、直に聴きたい。オーティスも・・・
読了日:5月27日 著者:忌野 清志郎
みをつくし献立帖 (ハルキ文庫 た 19-9 時代小説文庫)みをつくし献立帖 (ハルキ文庫 た 19-9 時代小説文庫)感想
「子供のころ、本屋さんになりたかった」と仰る高田さん。神戸の本屋で棚卸しのアルバイトをなさった話は知人から聞いて知っていましたよ。書店は「海文堂」だったでしょうかね。みをつくし料理帖シリーズの愛読者として料理のカラー写真入りのレシピはうれしい限りですね。自分で作って澪さんの味を味わいたいと思います。何よりもうれしいのは、書き下ろしの短編小説『貝寄風(かいよせ)』。高田さんの読者に対するお気持ちが伝わってくる気がします。この本を手に取った人に喜んで欲しいと、きっと、そう思っていらっしゃるのでしょう。
読了日:5月28日 著者:高田 郁
顔をなくした男(上) (新潮文庫)顔をなくした男(上) (新潮文庫)感想
一見、風采のあがらないチャーリーだが、実は見かけによらない切れ者。というより、野暮ったい見かけは”切れ者”であることを人に悟られないための隠れ蓑。チャーリーにとって、人の裏をかき、”自分だけが”生き延びることが至上命題であって、人の評価など二の次なのだ。しかし、今回は違う。妻ナターリヤと娘サーシャに危険が迫っている。自分が生き延びることより二人を守らなければならない。果たしてそのことがスパイのチャーリーにとってアキレス腱となるのか、あるいは妻子を思う強い心がチャーリーをさらに強くするのか、下巻へつづく。
読了日:5月29日 著者:ブライアン フリーマントル
顔をなくした男(下) (新潮文庫)顔をなくした男(下) (新潮文庫)感想
コレでシリーズ第14作目か。シリーズは全部読みます。読み切ります。と、意気込んでもシリーズ第15作目は未だ翻訳されていない模様。しかもこの『顔をなくした男』は三部作の真ん中で話が完結していないのだ。チャーリーが絶体絶命のピンチ? というところで次作につづくだと~~。許せん!! 早く読ませろ、早く出版せよ新潮社、早く翻訳せよ戸田さん。続けて読んでいても外国人の名前は覚えにくいのだ。登場人物を忘れてしまうじゃないの。おねげえしますだ~~新潮社様、戸田裕之様 m(_ _)m
読了日:6月8日 著者:ブライアン フリーマントル
月魚 (角川文庫)月魚 (角川文庫)感想
本の魔力に搦め捕られてしまった者の悲話として、そして本にまつわる素敵な物語として素晴らしいものがあります。しかし、私にとっては残念なことがあります。それは話の主人公たる二人にホモセクシャルのにおいをぷんぷんまとわせているところです。三浦さんにはそうすべき何らかの意図があるのでしょうが、性的にストレートな男にとっては違和感がありすぎて物語に没頭できないのです。女性から見て美しい?同性愛も、男から見ればおぞましいとさえ感じてしまうものです。主人公「真志喜」を「真奈美」と書き換えていただけませんか。お願いです。
読了日:6月8日 著者:三浦 しをん
シアター!〈2〉 (メディアワークス文庫)シアター!〈2〉 (メディアワークス文庫)感想
『シアター(1)』を読んだのがちょうど二年前、(2)が上梓されてすぐ買ったのだが積読本となって久しかった。しかし読んでみてびっくり。面白さは(1)の二倍。登場人物がそれぞれの個性を持って活きている。そのうえ有川さんお得意の恋。有川さんの描く恋は結構古風なのです。想いは強いのですが、相手のことを考えてその想いをなかなかストレートに出せない。もうこのイジイジ感たまりません。デレデレ~。もう一つ、心得違いをしている輩に高潔な心意気で毅然たる態度を示すところ。半角スペース然り、テアトルワルツの支配人然り。快感!
読了日:6月12日 著者:有川 浩
氷菓 (角川文庫)氷菓 (角川文庫)感想
TVアニメのキャラクター(千反田える)らしきカバーを気恥ずかしく思いながら本屋のレジに向かった。五十路のオジサンにとって、このカバーはきつい。こんな本をもってレジでお金を払っていたら、私はまるでセーラー服萌え~の変態親父ではないか。勘弁していただきたい。本を開いてみると何となく手の感触に違和感があった。このカバーの下に本来のものらしき普通のカバーがあったのだ。オジサン用にこのカバーの順番を入れ替えたものも本屋に置いていただきたい。是非とも全国の書店に善処いただきたい。小説自体は真夜中一気読み。good!
読了日:6月17日 著者:米澤 穂信
おとうと (新潮文庫)おとうと (新潮文庫)感想
高名な作家の父、リウマチを患う継母、十五歳の弟を家族に持つ十七歳のげん。家族それぞれが心に持つ鬱屈、微妙な心のあやを丹念に描ききっている。自伝的小説のようですが味わい深い文章です。それにしても、私はこの弟が苦手です。親に対するわだかまりや周りからの誤解を自分の中で始末できず投げやりになったり、心得違いの行動を繰り返す。おそらく周りの愛情を求めて満たされない心の表れなのでしょう。しかし私はそのような状況にあっても、誇り高く孤高を貫こうとあがく男であって欲しい。たとえ未だ十五の男であっても。厳しいようですが。
読了日:6月20日 著者:幸田 文
愚者のエンドロール (角川文庫)愚者のエンドロール (角川文庫)感想
人の死なないミステリ、いいですね。今回は神山高校二年F組が文化祭に出展する自主制作ミステリ映画の謎をめぐる話。アントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』へのオマージュともいえる作品。米澤氏のミステリに対する思い入れがひしひしと伝わってきます。ミステリ好きにはたまらんでしょう。事情通はウイスキー・ボンボンが出てきた時点でニンマリしたはず。それにしても第一作『氷菓』のあとがきにあった謎がまだ解けていません。米澤さん、もったいつけてくれるなー。(笑)
読了日:6月25日 著者:米澤 穂信
ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~ (メディアワークス文庫)感想
この小説には本を愛する人の気持ちが溢れています。今も昔も、本はそのような本を愛する読み手に支えられてきました。書き手の独りよがりでは本は存在し得ません。たとえば偶然、あるいは何らかの運命によって『たんぽぽ娘』という小説に出会い、その作品世界に惚れ込み、それを人に伝えたくなる。大切な人が結婚するときに、その本を送りたくなる。素敵な事じゃないですか。その時、本そのものに物語が生まれるのです。そして、その本が人生に味わいを与えてくれる。幸せを運んでくれる。本というのは、書き手の、そして読み手の想いなのです。
読了日:6月28日 著者:三上延
ライオンハート (新潮文庫)ライオンハート (新潮文庫)感想
時空を越えて出会い、すれ違うことを運命づけられた二人の物語。あとがきを読んで分かったのですが、この物語を書くきっかけになったのはKate Bush の曲"Oh England My Lionheart"だったとか。SMAPでなくて良かった。(笑) 恩田さんは1978年の東京音楽祭を中継したTV番組で"MOVING"を歌っている彼女をご覧になったそうです。私もその番組を視て衝撃を受けた一人です。当時、恩田さんは中学生、私は大学一年生。その時、私はこの本を読むことを運命づけられたのかもしれない。(笑)
読了日:6月30日 著者:恩田 陸
乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)感想
読メでレビューを読んで、そのうち読みたいと思っていたら、古書店で1~3巻セット500円の値をつけていたので即決。期待どおり、いや期待を超えていた。第1話「乙嫁と聟花」の出だしの場面、20歳のアミルが嫁いできて初顔合わせで夫となるカルルクが未だ12歳だとわかった場面、アミルが一瞬きょとんとしたのち微かに頬を赤らめながら「あら!」と云ったところまでわずか4コマで私はアミルにすっかり魅了されてしまった。第5話「風邪」でカルルクが高熱を出したときのアミルのうろたえようったらない。素敵な物語の始まりに心が浮き立つ。
読了日:6月30日 著者:森 薫
乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)感想
身を呈して自分を守ってくれたカルルクに姐さん女房アミルは嫁心がついたのだなぁ。19世紀のユーラシアで生きていくなら命のやりとりは十分あり得ること。大切なもののために命をかけて闘う覚悟は一人前の大人なら皆が持っていたはず。いつ死んでも良い覚悟で生きる。けっして命を軽んじるのではない。命の儚さを知っているからこそ、愛する人はかけがえのないものなのでしょう。その人を守るためなら己が命と引き替えにしても悔いはない。その覚悟を幼い夫に見たとき嫁心はついた。嫁心とは相手の覚悟を同じ気持ちで受けとめるということか。
読了日:7月1日 著者:森 薫
乙嫁語り(3) (ビームコミックス)乙嫁語り(3) (ビームコミックス)感想
1巻、2巻ではエイホン家の居候としてちょい役扱いだったスミスさんだが3巻から主人公になった。運命の女(ひと)と思われたタラスとの出会い。しかしそれは引き裂かれる定めだったのか。結婚は当人同士が決めるのではなく親が決めるものという考えには西欧人のスミスには納得がいかないだろう。しかし19世紀の中央アジアにあってはあたりまえ。何かといえば愛だの正義だのを振りかざす西欧文化と、定めを受け入れそこから愛情を育んでいくユーラシア文化。考えてみればアミルとカルルクの歳の差婚もユーラシアの美しい心のあり方なのだが・・・
読了日:7月3日 著者:森 薫
ジェニーの肖像 (創元推理文庫)ジェニーの肖像 (創元推理文庫)感想
恩田陸さんの小説『ライオンハート』は『ジェニーの肖像』へのオマージュとして書かれたと知り読むことになった。『ジェニーの肖像』は若い画家、『それゆえに愛は戻る』は若い童話作家が主人公。どちらも主人公が謎の女性を想う切ないまでのリリシズムに溢れた作品。大切なものであればあるほど、それが壊れてしまったり、失ってしまうことに対する怖れが心の片隅に芽生える。幸せの刹那であってさえ、心は喪失の予感につつまれる。いや、喪失の予感につつまれているからこそ、幸せの刹那は儚くもその輝きを増すのだ。
読了日:7月6日 著者:ロバート・ネイサン
乙嫁語り 4巻 (ビームコミックス)乙嫁語り 4巻 (ビームコミックス)感想
パリヤの自意識過剰ぶりかわいいなぁ。これを理解し包容する男なら婿として最高だろう。双子の娘ライラとレイリの結婚相手が決まる過程を興味深く読んだ。父親が決める結婚相手だが「あなたでも良かった」ではなく「あなたで良かった」という肯定感から始めることが大切なのだな。相手を受け入れ、相手の良いところを見る。そうすることで相手も自分を受け入れてくれる。自分で決めた結婚ではないけれど、それは相手も同じこと。相手のために出来るだけのことをしてあげようと思う。美しい心のあり方だ。幸せはそこから始まる。
読了日:7月8日 著者:森 薫
トレインイロトレインイロ感想
誰の頭の中にもイメージの刷り込みというものはあるだろう。たとえば私の住んでいる町でバスのイメージといえばJRの線路から北はオレンジ、南はグリーンといったように。本書は全国の列車のボディカラーを北から南へと総カラーで見ていくことが出来る。こうしてみると色というものはその明暗や濃淡で様々だ。またその配色、線であればその太さ、ライナーかカーブかなどによってこれほど美しく趣深いものになるのだと感じ入る。パラパラと頁をめくりながら、それぞれに付された下東史明氏のひと言コメントを楽しむのもいとをかし。イロをかし。
読了日:7月12日 著者:下東史明
クドリャフカの順番 (角川文庫)クドリャフカの順番 (角川文庫)感想
コアなミステリファンにはクリスティへの崇敬を、そうでもない読者にはわらしべ長者的御都合主義を、この本はそんな楽しみを与えてくれる。『氷菓』、『愚者のエンドロール』、そして本書と巻を重ねるごとにおもしろみを増している。本書で瞠目するのは摩耶花と河内先輩との「漫研での評論は無意味なのか?」論争、そして入須先輩の「頼み事の極意」だ。どちらも読んでいて脳が活性化するのがわかる。脳がその栄養分たる知性に触れてよろこんでいるのだ。頭の良い人が展開する論理は読んでいて心地よい。これぞミステリの醍醐味。
読了日:7月14日 著者:米澤 穂信
宵山万華鏡 (集英社文庫)宵山万華鏡 (集英社文庫)感想
登美彦氏は子どもの頃、裏山の和尚さんとケンカをして、「実益のないことしか語ることができない」呪いをかけられたそうな。翻って私はどうか。「阿弥陀如来を頼みまいらせて念仏すべきものなり。あなかしこ、あなかしこ」というありがたい御教えをことごとく無視してきた報いか、小説などという実益の欠片もないものを果てしなく読み続けている。しかもあろうことか登美彦氏の文章がことのほかお気に入りである。それにつけても、この無益な小説を読む喜びは果たして無益なことなのだろうか。あるいは有益なことではなかろうかとも思う。
読了日:7月16日 著者:森見 登美彦
遠まわりする雛 (角川文庫)遠まわりする雛 (角川文庫)感想
短編ミステリ、それも日常のミステリの魅力を余すところ無く楽しめた。ミステリとしての楽しみに淡い恋心の芽生えがいい感じに情緒を添えている。さて、今、手元には『九マイルは遠すぎる』(ハリイ・ケメルマン)と『二人の距離の概算』(米澤穂信)がある。どちらを先に読むべきか。悩むなぁ。二人の女性から、それも極めつけの魅力を持った女性から同時にデートのお誘いを受けた気分はきっとこんなだろう。体はひとつしかないからなぁ。うーん・・・・・
読了日:7月21日 著者:米澤 穂信
九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)九マイルは遠すぎる (ハヤカワ・ミステリ文庫 19-2)感想
「人として最も尊ぶべき性質は何か?」と尋ねられて迷わず「知性」と答える種類の人にとって『九マイルは遠すぎる』はたまらない短篇でしょう。もしも初めて読んだミステリがこの小説であったなら、その後のミステリ小説に対する見方に大きく影響するのではないか。たとえば思春期前の男の子が衝撃的に知的でエレガントな年上女性に恋したとして、その後、思春期から青年期を通じて出会う同世代の女性の多くに物足りなさを感じてしまうのではないかといったように。この小説に出会うきっかけとなった米澤穂信氏の『心あたりのある者は』に感謝。
読了日:7月29日 著者:ハリイ・ケメルマン
ふたりの距離の概算 (角川文庫)ふたりの距離の概算 (角川文庫)感想
思い起こせばはじめて米澤さんのミステリに出会ったのは『シャルロットだけはぼくのもの』だった。読み終えてしばらくポカンとしていた。そしてその後、なぜかニヤニヤして、おもむろにもう一度出だしから読み直したものだ。人の死なない日常ミステリというものの面白さにはまった瞬間だった。<古典部>シリーズも第5弾となり、青春小説としての面白みも増してきた。『ふたりの距離の概算』とはなんとも思わせぶりな題名ではないか。そしてこのシリーズの良いところは恋愛的要素を微かに漂わせながら、あくまでミステリににこだわっているところだ。
読了日:8月7日 著者:米澤 穂信