佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

二〇一二年の読書メーター その4

美の旅人 スペイン編  1 (小学館文庫)美の旅人 スペイン編 1 (小学館文庫)感想
ゴヤから始まり、ベラスケス、エル・グレコ、そして再びゴヤとスペインの絵画を巡る旅を通じてスペインを、そしてスペイン人を知ろうとする。スペイン人を動かすものは何か。それはスペイン人の血である。血とは感情である。理性ではない。伊集院氏はこの旅を通じて、スペイン人の感情を血の流れる音を聴いたに違いない。それは先日読んだ小説『楽園のカンヴァス』において原田マハ氏が「画家を突き動かすのはPASSION/情熱である」としたのと同義であろう。しかし私にはゴヤが理解できない。スペインは遠い。
読了日:9月29日 著者:伊集院 静
美の旅人 スペイン編 2 (小学館文庫)美の旅人 スペイン編 2 (小学館文庫)感想
本編はダリです。ゴヤから始まる伊集院氏の旅はいよいよダリ。申し訳ないが私にはダリの良さがわからない。ダリの画にはマスコミのうしろにいる大衆を意識した計算があるように感じてしまうのだ。ダリはマスコミを意識して演技し、マスコミはダリを売り、大衆はダリを消費し続ける。もっともらしい理屈で味付けられた画を訳知り顔で眺めることなど想像しただけで赤面ものだ。ダリの上向きにピンとはねたカイゼル髭とぎょろりと見開かれた目を痛々しく感じるのは私だけだろうか。ただし、1925年作の「窓辺に立つ少女」は別物だ。すばらしい。
読了日:10月2日 著者:伊集院 静
美の旅人 スペイン編 3 (小学館文庫)美の旅人 スペイン編 3 (小学館文庫)感想
美を巡るスペインの旅の締めくくりはミロ。私はゴヤ、ダリを好きにはなれないが、ミロには心惹かれる。自分でもはっきりとしないのだが、ひょっとしたら生き方とその生き方から感じ取れる人格がその原因なのかもしれない。絵画に人格を求めるなど笑止。しかし描き手と描き手にまつわる伝説も含めてその画を見つめるならば、「好き」か「嫌い」かの判断にバイアスがかかってしまうのもやむを得ない。というより好き嫌いをどう感じようと自由であるはずだ。ゴヤの「砂に埋もれる犬」とミロの「月に吠える犬」を観た時、私の好みははっきりと分かれる。
読了日:10月5日 著者:伊集院 静
死の演出者 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 165-2))死の演出者 (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 165-2))感想
寡黙で心優しき知性派探偵アルバート・サムスン・シリーズ第2弾。やっぱりイイです。タフガイを気取っていないところがイイ。エエカッコしぃでないところがイイ。おしゃべりでないところがイイ。礼儀正しいところがイイ。むちゃくちゃ頭が良いわけではないところがイイ。でも、そこそこ頭がイイところがイイ。じわじわとアルバート・サムスンが好きになってくるところがシブイ。このシリーズ、ゆっくり読んでいこう。それにしてもこんな名作シリーズが古本でしか手に入らないとは・・・。出版界にも問題は多い。
読了日:10月11日 著者:マイクル・Z・リューイン
春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)感想
古典部シリーズ>を「氷菓」→「愚エンド」→「クドリャフカ」→「遠まわり」→「二人の距離」と最新刊まで読み終えた渇きを「いちごタルト」「トロピカルパフェ」「栗きんとん」で癒そうと、とうとう<小市民シリーズ>に手をつけてしまった。気の向くままにあれこれ乱読を生活態度としている私として、シリーズものに手をつけてしまうと他の本を挟み込みにくくなる嫌いはあるのだが、なあにかまうものか。軽く読んで脳に刺激を与えるのだ。「おいしいココアの作り方」なんて、真相に至る前に真剣に推理してしまいましたよ。
読了日:10月18日 著者:米澤 穂信
凍りのくじら (講談社文庫)凍りのくじら (講談社文庫)感想
『ぼくのメジャースプーン』に続き2冊目の辻村氏。松永くんとふみちゃんが登場しましたね。ウワサに違わず人物がリンク。辻村氏は頭が良いのですね。人のちょっとした心の動きの深層にあるものを言い当ててしまう。常人ならば見たくない部分が見えてしまうというのでしょうか。そのあたりが容赦なく書かれていて、しばしばドキリとさせられながら読みました。痛ましい結末を予感させて重苦しい空気の中で物語は進みますが、最後に救いが用意されているあたり、辻村氏の心の温かさを感じます。私はSukoshi Fukazake(深酒)。
読了日:10月21日 著者:辻村 深月
夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)夏期限定トロピカルパフェ事件 (創元推理文庫)感想
思えば私が米澤穂信氏と出会った作品は本書第一章「シャルロットだけはぼくのもの」であった。『きみが見つける物語 十代のための新名作 休日編』(角川文庫)にこの一編が収められていたのだ。秀逸な作品で私のお気に入りである。それにしても小学生のような背丈、ボブカットに童顔の女子高生、その名も小佐内ゆきは怖いぞ。好物の甘いものは二番目で、一番目は「復讐」だと。私がまだ女という生き物にあこがれと幻想を抱いていた23歳の頃、「Tさん(私のこと)、女って怖いのよ」とそっと囁いたY子さんの言葉を思い出す。
読了日:10月22日 著者:米澤 穂信
秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)感想
小佐内さん、相変わらず甘いもの食べまくりですけれど、栗きんとんがまだ出てきませんね。人間関係が複雑になってきました。でもそれは恋愛関係のようで、恋愛関係でないのですね。そう、恋愛関係というには決定的に足りないものがある。それは“passion”情熱ではないかと。小鳩くんが仲丸さんと付き合うのはなりゆき。小佐内さんが瓜野くんと付き合うのは??? 上巻での最大の疑問はこの点だ。瓜野くんはどう贔屓目に見ても小佐内さんの相手ではない。おそらく小佐内さんの掌中で転がされている。復讐が好物という小佐内さん、不気味だ。
読了日:10月26日 著者:米澤 穂信
秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)感想
収まるところに収まりましたね。実は本作は「秋期限定マロングラッセ事件」なのではないかと疑っていたが、下巻を読んで「秋期限定栗きんとん事件」に間違いなかったことを認めた。小鳩くんと小佐内さんの再会と再出発。しっくりしました。ところで、私は小佐内ゆきが怖い。彼女は復讐を愛する小悪魔だ。しかし、物語の最後に彼女が言った一言(復讐しようと思った理由)は私の心を捉えて放さない。故に私はこう予言する。「『冬季限定****事件』が上梓されたら、きっと読んでしまうだろう」と。小佐内ゆきに会いたいがために・・・
読了日:10月28日 著者:米澤 穂信
幻の声―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)幻の声―髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)感想
なんとも味わい深い短編集です。すぅっと物語の世界に入り込め、そこに浸ることが心地よい。読み進めるうちに登場人物のひとり一人がいとおしく思え味わいが増す。日々の暮らしをひたむきに生き、それぞれ胸に悲しみをもつ市井の人々。彼らはまた優しさと矜持をも胸に秘めている。「幻の声」にはおそらく二つの意味がある。一つは第一編で駒吉が聴いたという声、そしてもう一つは第五編でお文が耳元で聞こえたような気がしたという声「いいのかい? お文・・・・」であろう。とすると、これは捕物帳のかたちをした恋物語なのですね。それも極上の。
読了日:11月1日 著者:宇江佐 真理
蘇るスナイパー (上) (扶桑社ミステリー)蘇るスナイパー (上) (扶桑社ミステリー)感想
うまいっ! さすがはハンター氏。戦争の英雄が濡れ衣をきせられ、それを仕組んだ強大な権力を持つ悪の存在をほのめかし、その悪に迫るいとぐちをつかみかけた時、関係する者が虫けらの如く抹殺される。おそらく読者はこの上巻を読んで怒りのボルテージが最高潮に達しているだろう。Come on! Bob the Nailer! 巨悪よ、地獄に堕ちるがいい。<ボブ・リー・スワガー>シリーズのベスト・オブ・ベストという帯の言葉に偽りなしと見た。狩りは始まった。もう誰にも止められない。
読了日:11月5日 著者:スティーヴン・ハンター
蘇るスナイパー (下) (扶桑社ミステリー)蘇るスナイパー (下) (扶桑社ミステリー)感想
前々作『四十七人目の男』では日本刀を振り回させ、前作『黄昏の狙撃手』ではカーチェイスをさせたりと、このところちょっとした不満があったが、今作は本来のスタイルに戻った。ボブ・リーの魅力はやはりガン・ファイトですから。類い希な狙撃手としてのボブ・リーを我々は見たいのだ。第一作『極大射程』に比肩するおもしろさ。ページをめくる手が止まりませんでした。大満足。
読了日:11月7日 著者:スティーヴン・ハンター
花のあと (文春文庫)花のあと (文春文庫)感想
再読。朝、家を出る時、なんとなく藤沢を読みたいと思い本棚から取り出した。どんな話だったのか記憶が定かでない。一度読んだものの、強烈な印象を残していないので、かえって再読するのに好都合でもある。登場人物が皆、心にある種の哀しみや切ない思いを抱いており、その様が愛おしい。そして藤沢の小説らしく、主人公が己が弱さを知りつつもそれに甘んじることを潔しとせず、矜持をもって生きている。藤沢の本を閉じたとき、いつも私は「世の中、捨てたものじゃない」と清々しい気持ちになる。
読了日:11月7日 著者:藤沢 周平
光媒の花 (集英社文庫)光媒の花 (集英社文庫)感想
読んでいて常に私の頭の中にあった言葉がある。それは「身の上」という言葉だ。生まれた家、親、家庭を取り巻く環境、人との出会い、そうしたものがその人の運命として人生に波紋を投げかける。もちろんその波にあらがうことは可能だろう。しかし、完全に波の影響から逃れることなど出来はしない。「身の上」とはそうしたものなのだろう。哀しみの先にあるかすかな光、その光がさした時、慎ましやかな花が咲く。道尾氏はそんな人生を『光媒の花』という題名に込めたのか。「冬の蝶」のサチが「春の蝶」の幸と同じ人物だとしたら救われる。
読了日:11月10日 著者:道尾 秀介
美女と魔物のバッティングセンター (幻冬舎文庫)美女と魔物のバッティングセンター (幻冬舎文庫)感想
吸血鬼と雪女と弁護士と貧乏神が登場する物語。そして吸血鬼はホストで、劇団員で、おしゃれカフェの店長で、お抱え運転士である。雪女は元キャバ嬢で、現在は復讐屋さんで、そのうえ震えがくるほどの美女である。弁護士は同時に占い師であり元兵士でもある。貧乏神はドレッドヘアーのレゲエ男で破壊神である。新宿歌舞伎町にはいたるところに不幸が落ちている。そしてその不幸は自転車のサドル理論で回っている。ハチャメチャと混沌がいつかひとつの物語に収束する。そして結末の驚き。楽しみました。眉間のしわがとれましたよ。
読了日:11月14日 著者:木下 半太
謎解きはディナーのあとで (小学館文庫)謎解きはディナーのあとで (小学館文庫)感想
肩の力の抜けた本格ミステリですね。ウィットに富んだ会話、ユーモア溢れる語り口、中村佑介氏のカバー・イラスト。しかも主人公は大富豪のお嬢様とその執事。この執事がカッコイイ若い男で切れ者安楽椅子探偵ときた。これだけそろえば売れるはずです。売れないはずがない。この小説の最大の魅力は何と言っても本格推理。そしてそれにもまして読者を惹きつけるのは主人公のお嬢様のキャラだろう。超弩級の大金持ちであることを鼻に掛けず、かといって逆に大金持ちであることにいささかも悪びれることがない正真正銘のお嬢様だ。続編も読みたい。
読了日:11月17日 著者:東川 篤哉
舟を編む舟を編む感想
馬締さんの香具矢さんに宛てた恋文にニンマリした。森見登美彦氏の小説『恋文の技術』に延々訥々と綴られた手紙もそうであったが、恋文の要諦は思いの丈を率直に書くことなのだ。かっこ悪かろうと滑稽だろうと私は今あなたに恋するがあまりハチャメチャなのだ、そしてその状態を救うのはあなたしかいないのだということを伝えることが肝心なのだ。(と、私は思う) 素敵な物語を読ませていただきました。言葉と活字を愛する者として、素直にしをんさんの想いを受け止めました。言葉は思考であり、感情であり、記憶であり、道を照らす光なのですね。
読了日:11月18日 著者:三浦 しをん
新解さんの謎 (文春文庫)新解さんの謎 (文春文庫)感想
新解さん」は辞書界における「GAMBA大阪」だ。かつてヨハン・クライフはこう言った。「美しく負けることを恥と思うな。無様に勝つことを恥と思え」と。GAMBA大阪はこの名言を地で行っている。そして「新解さん」の身上もまた攻めの姿勢。突っ込みどころ満載の辞書である。普通、辞書は正確を期するあまり守りの姿勢になりがちだ。然るに新解さんにはまったくそのような素振りがない。凡そ辞書らしくない辞書である。本書で赤瀬川氏は知人のS.M嬢と共に新解さんを読み解くことにより、怪しくも知的な妄想を果てしなく繰り広げている。
読了日:11月21日 著者:赤瀬川 原平
床屋さんへちょっと (集英社文庫)床屋さんへちょっと (集英社文庫)感想
これまで山本氏の小説を『ある日、アヒルバス』、『カイシャデイズ』、『凸凹デイズ』、『笑う招き猫』と読んできた。悪人が登場せず、温かいまなざしで登場人物それぞれの人生を応援するような物語が大好きで、山本氏を追いかけてきた。さて、本書ですが、これまで読んだものとはやや趣を異にしますが、やはり氏の温かいまなざしは健在。父から引き継いだ会社を二代目で潰してしまった男とその家族の人生を、ちょっとしたエピソードで描き応援しています。読んでいる間、何故か中島みゆきさんの「ファイト」が脳内リフレインされていました。(笑)
読了日:11月23日 著者:山本 幸久
アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)感想
<魂なき者>アレクシア・タボラッティはなんと可愛い女性なのだろう。ダイエットなどとつまらぬことには無縁の健康的な女性。意志が強く決然とした茶色い目を持ち、科学者とも普通に知的な会話を楽しめる才女。男に媚びを売ることなど絶対にせず、異性に対するつんけんした態度とは裏腹に、その心のとろけ方たるや半端ではない。いわゆるツンデレの典型である。26歳にしてうぶとは・・・カワイイ・・・。ジャンルとしては、これはSFかファンタジーか。いやいや、これは紛うことなきロマンス。そう、これはスチームパンク・ロマンスだ。
読了日:11月25日 著者:ゲイル・キャリガー
白磁の人 (河出文庫)白磁の人 (河出文庫)感想
小説としてはともかく、物語の主人公・浅川巧の生き様に圧倒された。私などは韓国や北朝鮮の言動に折々怒りを覚え、ついつい侮蔑の念を持つこともある。しかし、それはお隣の国の一部であり決して正確に実相を表してはいないことに心すべきだろう。浅川巧氏の祖父の言葉を改めてかみしめたい。「人間の仕事には貴賤などない。人種などというものにも上下はない。人の価値はな、どう生きたか、にあって地位や金銭ではどうにもならん。働いて、本を読んで、自然を大事にする。それだけのことだ」 至言と云うべきだろう。
読了日:11月25日 著者:江宮 隆之
子どもたちは夜と遊ぶ (上) (講談社文庫)子どもたちは夜と遊ぶ (上) (講談社文庫)感想
辻村さんはうまいなぁ。はじめばらばらのエピソードを提示しておくことで読者の疑問と興味を引き出し、上巻500ページで少しずつ疑問が解き明かされて全体像が読者の頭の中で実を結ぶ。おそらく読者はその時点で何らかの推論を持つ。私もある推論をたてた。これは辻村さんのミス・ディレクションにまんまと騙されているのか、はたまたこの時点で真実を突きとめてしまったのだろうか。さてさて下巻を読んでそれを確かめてみよう。下巻は563ページ。おそらく中身は濃いだろう。気力に加えて体力も必要だ。よしっ!
読了日:11月29日 著者:辻村 深月
子どもたちは夜と遊ぶ (下) (講談社文庫)子どもたちは夜と遊ぶ (下) (講談社文庫)感想
上巻を読んで私なりにたてた推論は基本的な部分で当たっていた。しかし、そうであってなお下巻は意外性の連続、驚きの連続であった。すごいですね。息をもつかせぬ展開に他のことに手が着かず一気読みの563ページ。おまけに途中で泣いてしまいました。そのうえ最後の最後は思いもかけない展開にぶっ飛ぶ始末。結末が分かっていてなお再読、再々読する人が多いことにも納得。まいりました。
読了日:11月30日 著者:辻村 深月
アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う (英国パラソル奇譚)アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪う (英国パラソル奇譚)感想
今巻の舞台は未開の地スコットランド。そしてスコットランドへの旅は飛行船が使われた。夫に最新ファッションのドレスではなくエーテルグラフ送信機をねだるアレクシアがカワイイ。はっきりいってタイプです。(私は昔から宝石よりも石【トランジスタ】に興味がある人が好きだ)スチームパンクな世界観満載の第2巻に大満足。でも、異界族が消滅する危機を脱出したと思ったら、アレクシアとマコンの間に危機勃発。いったいどうなるんだ?? と気を揉ませながら第3巻へ続くとさ。あぁ、もう、やめられない、とまらない、かっぱえびせん小説だ。
読了日:12月6日 著者:ゲイル・キャリガー
アレクシア女史、欧羅巴(ヨーロッパ)で騎士団と遭う (英国パラソル奇譚)アレクシア女史、欧羅巴(ヨーロッパ)で騎士団と遭う (英国パラソル奇譚)感想
前作『アレクシア女史、飛行船で人狼城を訪なう』で、次の展開が大変気になる終わり方だった。続きが読めて幸せ。周りの目もはばからず幼い子のようにワンワン泣くアレクシアがカワイイ。償いの品物に何が欲しいか訊ねられて、水晶真空管のいらない最新型のエーテルグラフ通信機が欲しいと答えるアレクシアがカワイイ。そして、本書でもっとも注目すべきはアルファ(ボス)を支えるベータ(副官)、ランドルフ・ライオールだろう。脇役が光ってくると小説はぐっとおもしろみを増す。(2012/12/14深夜、紅茶を飲みながら)
読了日:12月14日 著者:ゲイル・キャリガー
エマ (1) (Beam comix)エマ (1) (Beam comix)感想
乙嫁語り』ですっかり森薫さんに魅了されてしまった。こちらの評判もなかなかのもの。当然、読まないわけにはいかない。上流階級とそうでないもの。道ならぬ恋というわけですね。これは続きが気になります。ところで、私、このところスチームパンクづいています。この物語の舞台も19世紀末の倫敦。素敵じゃないか!  紅茶を飲みながら楽しませていただこう。
読了日:12月16日 著者:森 薫
エマ (2) (Beam comix)エマ (2) (Beam comix)感想
乙嫁語り』では結婚相手を親が決める19世紀後半のユーラシアの習慣が描かれていた。森さんはそれを非難がましくは扱っていない。本作でも同じく19世紀後半の英国の事情が描かれている。階級(クラス)がキーワードだ。現代に生きる我々の常識(?)からすれば階級制度などおかしなことなのだろうが、この時代にあってはそれが定めというもの。森さんのとらえ方は必ずしも上流階級を否定するものではないようだ。上流階級に生まれたものとして、家、家族、使用人を養っていく責任があるという考え方にも一理ある。さてさて、どうなることか。
読了日:12月17日 著者:森 薫
エマ (3) (Beam comix)エマ (3) (Beam comix)感想
いよいよ産業革命のうねりは英国を変えつつある。エマは倫敦を去り、とある屋敷でメイドの職を得た。その屋敷の主人はドイツ人。エマの「ドイツだとクラス(階級)の差があまりないのでしょうか・・・」という言葉が切ない。引きずってますねぇ。そりゃそうでしょう。何となく次巻で再び倫敦と、そしてウィリアムとの繋がりがほのめかされているではないか。二人は運命の赤い糸で結ばれているのか? お金持ちのボンボンはいけ好かないが、“フテ寝してショーペンハウエルを読まない”ウィリアムは応援してやってもいいぞ。(笑)
読了日:12月18日 著者:森 薫
エマ (4) (Beam comix)エマ (4) (Beam comix)感想
うおぉぉっ! 読者に心の準備もさせないままの怒濤の力業展開!! 森薫氏、本当に女なのか? 恋愛ものの教科書どおりの展開なのに、まんまと森氏の術中にはまっているではないか、俺。俺はハーレクイン乙女チックな心を持った中年なのか? 恥ずかしい・・・・(汗 しかし、ここで読むのをやめるわけにもいかない。神よ、この恥ずかしい中年男を許せ。願わくばこの悲恋に救いのある結末を・・・、中年の純真に満ち足りた安らぎを~~~。クーッ~~~~!!
読了日:12月18日 著者:森 薫
エマ (5) (ビームコミックス)エマ (5) (ビームコミックス)感想
なるほど、ウィリアムの父・リチャードと母・オーレリアにはそんな過去があったのか。ウィリアムとエマを取り巻く人々の思いと哲学が厚みを増して読者に迫ってくる。単なる貴族とメイドの悲恋にとどまらず、すばらしい物語になっている。久しぶりにブロンテの『ジェーン・エア』を読み返したくなった。加えて森薫氏の筆致が巻が進むごとにどんどん高等になっている。なんとも・・・すばらしい。  (追記)エレノアがいじらしい。彼女には傷ついて欲しくないなぁ。
読了日:12月18日 著者:森 薫
エマ (6) (Beam comix)エマ (6) (Beam comix)感想
そうくるかっ! 物語を紡ぐ者ってのは悪魔の心を持っている。登場人物に平気で試練を与えるのだ。人の恋路を邪魔するのだ。そんでもって、純真な乙女(エレノア)を泣かせてしまうのだ。この装画を見よ。悪魔の黒だ。あぁ、エレノアがいじらしい。エマはどうなる。ウィリアムよ、何とかしろ! (あ、これは森薫氏にお願いすべきか・・・)
読了日:12月18日 著者:森 薫
エマ (7) (Beam comix)エマ (7) (Beam comix)感想
ついに本編終了。まだまだ二人の人生、これからも茨の道だろう。でも、この二人には試練を乗り越えた強い絆がある。そして、二人を見守ってくれる良き人たちがいる。こんなにもお互いを想う二人が幸せになれないとしたら、そんな人生、そんな世の中クソくらえだ。何としても幸せになるのだぜ、お二人さん。さて、次は番外編だ。
読了日:12月18日 著者:森 薫
ビームコミックス エマ 8巻(通常版)ビームコミックス エマ 8巻(通常版)感想
<夢の水晶宮>エマの最初の雇い主のケリー、彼女は本編でエマを拾い教育してくれた恩人として描かれていた。そのケリーのメモワール的な若き新婚時代の物語をスピンアウトして描いてくれています。ケリーの夫ダグの人と素直に接する快活な性格とケリーの生真面目で感情表現の不器用な性格の対比が微笑ましい。お互いが相手を補完し合っているカップルは素敵です。<ブライトンの海>本編で不憫だったエレノアへの作者・森氏の贖罪的物語。この物語で私の屈託はきれいさっぱり無くなりました。よかった。ほんとうによかった。
読了日:12月19日 著者:森 薫
エマ 9巻 (BEAM COMIX)エマ 9巻 (BEAM COMIX)感想
なんといってもドロテアだな。うん、気の強いところがイイ。気が強いのにメロメロ。男っぽいところがあるのに、メチャメチャ女っぽい。色っぽいが恥じらいというものを知っている。イイ。やっぱりイイ。気が強いと言えばメイドのアメリア。「人はメイドに生まれるのではない。メイドになるのだよ」は至言。
読了日:12月20日 著者:森 薫
エマ 10巻 (BEAM COMIX)エマ 10巻 (BEAM COMIX)感想
とうとう完結巻ですね。登場人物それぞれにお幸せにと祈りたくなる大団円。やっぱり物語は、特に恋愛ものはハッピーエンドでないとね。エレノア・キャンベルがいい人に巡り会えたことも、ほんとうに良かったと思える。森さんありがとう。1巻から10巻まで読み通して森さんの画がどんどん進化しているのが判る。だんだんお上手になられたのか、それとも興がのってどんどん緻密に描き込んでいったのかは定かではないが本当にすばらしい。さて、続いて『エマ ヴィクトリアンガイド』と『シャーリー』も読みますぞ。
読了日:12月21日 著者:森 薫
エマヴィクトリアンガイド (Beam comix)エマヴィクトリアンガイド (Beam comix)感想
2003年12月5日初版初刷発行とある。本編『エマ』の第3巻が発刊された日と同じだ。第10巻(完結)まで読んでこれを手にしたのだが、もっと前に読むべきだった。19世紀末ヴィクトリア朝の家事使用人事情、風俗などについて、森薫氏と村上リコ氏のフェティシズムあふれる解説が加えられている。19世紀前後英国を舞台とした小説『エマ』(オースティン著)、『ジェーン・エア』(ブロンテ著)、『大いなる遺産』(ディケンズ著)などの紹介もあり、その内容は深く濃いヴィクトリアン萌えが噴出したものとなっている。参りました。お見事!
読了日:12月22日 著者:森 薫,村上 リコ
シャーリー (Beam comix)シャーリー (Beam comix)感想
『エマ』全10巻+ヴィクトリアンガイドに併せて買った一冊。大人買いである。と言ってもヤフオクで安く買った。森さんのメイド・フェチというかヴィクトリアンというか、とにかくこうした世界がお好きなのだなと。かく言う私も嫌いではありません。(ヘンな意味ではないので念のため)ビクトリア朝の英国、階級制度に代表される古い時代から、産業革命を契機としためまぐるしい革新が相俟った独特の時代。スチーム・パンクな雰囲気もただようノスタルジックな世界観にしばし浸りました。それはそうと『乙嫁語り』第5巻を予約注文しました。(笑)
読了日:12月22日 著者:森 薫
アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂(うれ)う (英国パラソル奇譚)アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂(うれ)う (英国パラソル奇譚)感想
妊娠8ヶ月のアレクシアが八面六臂の大活躍。お腹のチビ迷惑はどうやら<魂盗人>(soul stealer)に生まれてくるらしい。その子を亡き者にしようとする吸血鬼の攻撃をブロックしながら、女王陛下暗殺計画を探るという展開にハラハラドキドキ。暗殺計画を探るなかで、キングエア団による過去の謀略とライオール教授の秘密が明らかになる。なるほどそうだったのかっ!と納得したのも束の間、現在の女王暗殺計画が差し迫った危機としてアレクシアを襲う。それにしてもまっすぐで気丈なアレクシアは “Just my type”です。
読了日:12月23日 著者:ゲイル・キャリガー
だいじょうぶ3組 (講談社文庫)だいじょうぶ3組 (講談社文庫)感想
想像したとおりの内容。だからといってつまらなかったわけではない。読んでいて二度ばかり目頭を熱くした。知ってはいたが乙武さんはやはり凄い。前向きである。気をつけたいのは乙武さんが障害者のスタンダードではないこと。それどころか、その積極性と屈託の無さは健常者をもしのぐ。少々異論を唱えさせていただくなら、なにも手足を無くされてまで高尾山に登る必要はありません。プールに飛び込む必要も。先生が子どもに対して「悩みを解決してあげられなくてゴメンナサイ」と謝ってはいけません。ただ、子どもに寄り添ってあげればよいのです。
読了日:12月29日 著者:乙武 洋匡
アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と踊る (英国パラソル奇譚)アレクシア女史、埃及(エジプト)で木乃伊(ミイラ)と踊る (英国パラソル奇譚)感想
あぁ・・・ついに物語も完結した。アレクシア女史、実に魅力的な女性でした。およそ二〇〇年生きてきた人狼マコン卿を虜にするのも肯ける。ケンカするほど仲の良いふたりに、手に負えないほど可愛い娘。理想的な家族です。スチーム・パンクな雰囲気と人狼、吸血鬼、ゴーストと人が共に住むファンタジックな世界観、そしてアメリカの作家らしいユーモアに溢れた語り口に魅了されました。本を閉じるにあたり、訳者・川野靖子氏のご苦労をねぎらいたい。おそらくこの小説の翻訳は困難を極めたのではなかろうか。特にアケルダマ卿の発言には・・・(笑)
読了日:12月31日 著者:ゲイル・キャリガー