佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

とんび

「のう、たえ子ねえちゃん、わし、どうかしたんじゃろうか。泣けてくるんよ、なんや知らんけど、美佐子とアキラを見とったら涙が出てくるんよ、うれしいのに泣いてしまういうて・・・・・・わし、おかしいじゃろう?」

 カウンターに突っ伏して、涙声で言う。

「幸せいうて、こげなもんなんか。初めて知った。幸せすぎると、悲しゅうなるんよ。なんでじゃろう、なんでじゃろうなあ・・・・・・」

                                (本書P48より)

 

 

『とんび』(重松清・著/角川文庫)を読みました。

 

 

まずは出版社の紹介文を引きます。


 

昭和三十七年、ヤスさんは生涯最高の喜びに包まれていた。愛妻の美佐子さんとのあいだに待望の長男アキラが誕生し、家族三人の幸せを噛みしめる日々。しかしその団らんは、突然の悲劇によって奪われてしまう―。アキラへの愛あまって、時に暴走し時に途方に暮れるヤスさん。我が子の幸せだけをひたむきに願い続けた不器用な父親の姿を通して、いつの世も変わることのない不滅の情を描く。魂ふるえる、父と息子の物語。


 

 

「幸せすぎると、悲しゅうなるんよ。なんでじゃろうなぁ」という気持、わかります。だって、その幸せはほんとうに大切なものだから。失いたくないものだから。

 この小説は反則です。涙を堪えようにも、それを許してくれません。読み始めたが最後、目頭はぐじゅぐじゅです。

 ヤスさん、私はあなたに教えてもらいました。たとえ「理」のスジは通っていても、「情」のスジが通っていなければいけないのだと。そうでなければ、悲しゅうなるほど幸せを希求する気持に申し訳が立たないのだと。

 ヤスさん、私は泣きましたよ。笑いたいから泣きましたよ。