佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

総理の器量 - 政治記者が見たリーダー秘話

権力はそれが奉仕する目的に必要な限りその存在が許される

            (本書第3章・大平正芳にみる「韜晦[とうかい]の政治」より)

 

『総理の器量 - 政治記者が見たリーダー秘話』(橋本五郎・著/中公新書クラレ)を読みました。

 

 

まずは出版社の紹介文を引きます。


 

安倍晋三以降、民主党政権に至るまで満足にリーダーシップを発揮できず、短期間で総理が辞任している。歴代の総理に有って、彼らに欠けているものは何か。ベテラン新聞記者が、間近で接した三木武夫中曾根康弘小泉純一郎らの政権の運営・外交等の内幕と意外な素顔を描き出す。


 

 

 某銀行に招かれて著者・橋本五郎氏のご講演を聴き、プレゼントとして本書を頂きました。公演後の懇親会にも出席していらっしゃったのでサインをしてもらったらよかったなぁ。惜しいことをしました。本を読むことも大切ですが、人間やはり直にお話を聴くということが大切ですね。お人柄がよくわかります。TVで拝見するよりもはっきりと伝わるものがあります。すっかりファンになりました。

 本書では橋本氏が政治記者として見てこられた過去の総理大臣のうち橋本氏が語るに値すると判断された9名について、その器量を計っていらっしゃいます。私の見たところどうやら中曽根康弘氏、大平正芳氏をもっとも評価していらっしゃるようです。私も賛成です。実績では中曽根元総理、人柄では大平元総理といったところかと思います。

 大平元総理については『茜色の空』(辻井喬・著/文春文庫)に多くのエピソードが書いてありました。本当に尊敬に値する素晴らしいお人柄であったようです。そんな大平元総理のお人柄が忍ばれる一節が本書にもありましたので以下に書き留めておきます。


 

長男の死が、後の大平の政治に影響を与えなかったと考えるほうが不自然であろう。その長男を一時預けていたのが、大平が尊敬していた地元香川の出身で、旧制三豊中学(現観音寺一高)から一橋大学を通しての先輩・後輩だった神崎製紙創立者、加藤藤太郎である。 加藤は、自ら奨学金をつくって、香川県の恵まれない子どもたちを大学に行かせょうとした人物だった。大平は毎年、正月の宮中参賀の次には、加藤翁の自宅に新年のあいさつに行った。宮中で天皇陛下にお会いして、菊の紋章の付いた菓子やたばこなどを頂いた時には、家族よりまず加藤の元を訪れ、それらを置いて帰った。
大平が加藤を神崎製紙に訪ねる時、玄関に車を乗りつけたことは一度もなかった。いつも玄関から離れた場所で車を降り、歩いて玄関に入ったという。自分が心から尊敬する人のところに車で乗りつけるなどという礼節のないことを、自らに許さなかった。政治には限らないだろう。人間にとつて大切なことは何なのか、考えさせられるのである。(本書P84より引用)


 

 講演の中でも触れていらっしゃいましたが、橋本氏は秋田県にある人口わずか五百人の過疎の町のご出身。そのふるさとでいまや廃校となってしまった母校の小学校に蔵書二万冊を贈られ「橋本五郎文庫」を作られたそうです。すてきなお話です。二万冊の書籍を読み東京の自宅に保有していらっしゃったというのもびっくりです。そんな読書家でいらっしゃる橋本氏が「まえがき」にリチャード・ニクソンの『指導者とは』から次の言葉を引用していらっしゃいます。読書好きの者にとってはまさに我が意を得たりと胸を張った次第。

 

「私が知遇を得た指導者にほぼ共通している事実は、彼らが偉大な読書家だったことである。読書は精神を広くし鍛えるだけでなく、頭を鍛え、その働きを促す。今日テレビの前にすわってぼんやりしている若者は、あすの指導者にはなり得ないだろう。テレビを見るのは受身だが、読書は能動的な行為である」