「入担は断ります」
殿村は、きっぱりといった。
だが、銀行からの出向である殿村にとって、預金解約は、銀行に反旗を翻すに等しいのではないか。殿村が、佃製作所のためにそこまでやるのは、簡単な決意ではないはずだ。
「殿村さん・・・・・・。うれしいけれども、そんなことをしたら、あんたが気まずくならないか」
心配して佃がいうと、
「ここで雇っていただけるんでしょう、社長?」
唐突に、殿村はそうきいてきた。
ぽかんとした佃に、「私、信じてますんで」と殿村は真剣な目を向ける。「私は元銀行員ですけど、いまは佃製作所の社員です。ウチの会社のために働くのは当然じゃないですか」
(本書P56より)
まずは出版社の紹介文を引きます。
取引先大企業「来月末までで取引終了にしてくれ」メインバンク「そもそも会社の存続が無理」ライバル大手企業「特許侵害で訴えたら、…どれだけ耐えられる?」帝国重工「子会社にしてしまえば技術も特許も自由に使える」―佃製作所、まさに崖っプチ。
感動したっ! その一言です。よこしまな大企業にいたぶられる真っ当だが弱小の中小企業。いたぶられればいたぶられるほど読むのをやめられない止まらない。池井戸氏は本当に憎まれ役を描くのが上手い。理不尽なふるまいに窮地に陥れられるたび「クヤシイ、くそっ!」と思いながら、「そのうち見てろよっ!」と歯を食いしばりながら読む。自分はひょとしてMではないかと疑ってしまうほどいたぶられればいたぶられるほど興奮して頁をめくってしまう。池井戸氏お得意の最後は必ず正義が勝つ予定調和・日本人大好き水戸黄門的勧善懲悪の結末が判っていながら、その結末に涙してしまった。