佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

軍師 黒田如水

「九州全土をほぼ制圧なさったのに、なぜ島津殿と組んで徳川殿に敵対しなかったのですか? そうなされば、あるいはあなたの手に天下の権が入ったかも知れませんぞ」

 とけしかける者もいた。如水は、これを聞くと大笑いした。そして、

「確かにそうかも知れん。しかし、この身はすでに俗世における功名富貴を願おうとは思っておらぬ。歳を取ると、そんなことの無意味さがよくわかる。第一、私には天下は取れない。何かが欠けているのだ」

 といった。如水はその時酔っていた。聞いた者は、

「何かが欠けているとは?」

 と聞き返した。如水はこう答えた。

「頭が良すぎるのだ。私はこの日本で一番頭のいい男だといっていいだろう。しかし、それが欠点になっている」

 客たちは呆れて顔を見合わせた。如水の高言があまりにも意表をついたものだったからである。しかしこの時の如水は本心だった。かれは腹の底では、

(確かに、九州を制圧した勢いで、島津と組んで攻め上がれば天下は取れたかも知れない。しかし、その後すぐ潰れただろう。俺には、天下を取れる力はあっても、天下を治める力はない)

 自分で自分の限界を知っていた。

                                     (本書P23~P24より)

 

『軍師 黒田如水』(童門冬二・著/河出文庫)を読みました。

 

まずは出版社の紹介文を引きます。


天下分け目の大合戦、戦国随一の切れ者、名軍師黒田官兵衛の方策は? 信長、秀吉、家康の天下人に仕え、出来すぎる能力を警戒されながらも、強靱な生命力と才幹、ユニークな行動力を駆使し、逆境を乗り越え、九州に覇を唱え割拠した。危機の時代に実力を発揮した最高のNo.2、名参謀の心意気を描く。


 

 

 

「童門さん、あなたもですか」といささかがっかりしながらも、私もしっかりNHK大河ドラマの放映を翌月に控えたこの時季に読ませていただきました。(笑) 

 しかし、縄田一男氏が解説に書いていらっしゃるように、これはもともと平成六年に富士見書房から発刊された『小説黒田如水』という小説であって、NHK大河ドラマ便乗本ではないらしい。失礼いたしました。

 黒田官兵衛という切れ者を童門さんらしい切り口で描いた良書です。「頭が良すぎて、それが災いした」才人がどのような生き方を選んだか、私も参考にさせていただこう。

え? お前には関係ない? こりゃまた失礼しました。 チャンチャン♪