佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2013年の読書メーター その3


ローカルバスの終点へ (洋泉社新書y)ローカルバスの終点へ (洋泉社新書y)感想
有名観光地でない行先、乗車時間は1時間以上という条件で鄙にある路線バスの終点を訪れる旅。なんともそそられる企画ではないか。運行が一日二回だけといった不便なところもあるが、その不便を楽しむというのもイイ。その地には寂れつつもありふれた日常がある。しかしそのありふれた日常はいまや我々にとっては非日常だ。鉄道の旅も良いが、その先にあるバスの旅はさらに良い。「のびゆく四方へ幾路線♪」という某バス会社の社歌を口ずさみながら、楽しく読んだ。特にそそられたのは岡山県の吹屋と青森県の九艘泊。いつか訪れることになるだろう。
読了日:8月3日 著者:宮脇俊三
私が彼を殺した (講談社文庫)私が彼を殺した (講談社文庫)感想
あれっ? なにっ? 前作『どちらかが彼女を殺した』に続いてまたまた犯人を特定しないまま「完」。犯人が分からないバカな読者は「推理の手引き《袋綴じ解説》」を読みなさいということである。ところが筋金入りのおバカな私は「推理の手引き」を読んでもトリックも犯人も分からなかったのだ。なんたる屈辱。穴があったら入りたいほどの恥ずかしさである。ネタを解説してもらってなお???が頭の中をぷかぷか漂っている状態を鑑みるに、もはや私には推理小説、なかんずく東野圭吾を読む資格なしと断定せざるを得ない。悲しいことではあるけれど。
読了日:8月3日 著者:東野圭吾
赤い指 (講談社文庫)赤い指 (講談社文庫)感想
泣いてしまいました。出張の帰り新幹線の中で不覚にも。所詮子供には親の気持ちが理解できない。親は自分を犠牲にしても子供を生かしたいと思うものだから。その親の想いを解ったとき、子はそれを受けとめて生きるしかない。子としていくら親を想おうとも決して親を超えることは出来ないと知ったとき、子は自らが親になれる覚悟が出来る。親とはそういうものだ。
読了日:8月10日 著者:東野圭吾
晴れた日は図書館へいこう (ポプラ文庫ピュアフル)晴れた日は図書館へいこう (ポプラ文庫ピュアフル)感想
人には好もしい面と忌むべき面がある。意地悪だったり、嫉妬深かったり、卑劣だったり、時に残虐ですらある。でも、好もしい面もあるのだ。この本は人の中には好もしい面が確かにあると感じさせてくれる。読む人を幸せにする本といえば良いのだろうか。私にとってそうした本はたとえば次のようなものだ。北村薫「円紫さんとわたし」シリーズ、坂木司『和菓子のアン』、山本幸久『ある日、アヒルバス』『幸福ロケット』、藤野恵美『ハルさん』、ロバート・F・ヤング『ピーナツバター作戦』etc.・・・私はこうした本が大好きだ。
読了日:8月11日 著者:緑川聖司
じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (13) (アクション・コミックス)じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (13) (アクション・コミックス)感想
この巻はなんと言ってもヨシ江はんですな。百合根光三(お好み焼き屋のオヤジ)が離れて暮らす息子のことを相談できるのもヨシ江はんなら、某大学応援団長をして「美しい人だ」と言わしめ、一目惚れさせただけでなく、テツの奥さんだと知ると「許せんっ!」と逆上させるのもヨシ江はんなのである。ひょうたん池での老若男女猫入り乱れての大乱闘もヨシ江はんの「やめなさい!!」の一言でたちまち静寂が訪れる。その様はノルマンディー上陸作戦の真っ最中に世の中がいきなり停電になったようだったそうな。端厳粛正とは彼女のためにある言葉である。
読了日:8月13日 著者:はるき悦巳
古書店・小松堂のゆるやかな日々 (宝島社文庫)古書店・小松堂のゆるやかな日々 (宝島社文庫)感想
男と女は別の生き物だと云う。男女の違いは人間とサルの違いより大きいとも云う。この小説を読んでいて、ふとそんなことが頭をよぎった。私には女というものが解らないし、その解らない生き物を少々怖いとも感じてしまう。話は変わるが、私は著者が働いていらっしゃった古書店に行ったことがある。著者とも直接話をし、著書にサインをしていただいた。その書店の店主とも顔見知りで、ときどき書店奥のカウンターでコロナビールを飲んだりする。主人公の女性の気持ちは解らないけれど、古書店のゆるやかな空気はよく解る。
読了日:8月15日 著者:中居真麻
偏差値70の野球部 レベル1 難関合格編 (小学館文庫)偏差値70の野球部 レベル1 難関合格編 (小学館文庫)感想
購入後1年以上、積読本となっていた。もともと小説雑誌『STORY BOX』の連載を愛読していた小説である。『STORY BOX』の姿勢に疑問を感じ購読を止めたので話の中途でとまっていたのだ。「いつ読むか? 今でしょ」って訳でもないのだが、世間は今、夏の甲子園大会に沸き立っている。そろそろ読むかと手に取った。全4巻のうちの第1巻を読了。どこの世界にも救いようのないバカは居るってことかな。真之介よ、バカどもの鼻を明かしてやれ。甲子園常連校「海鵬」と東大進学率第1位「海應」を間違るアンタも相当なバカだけどね。
読了日:8月16日 著者:松尾清貴
偏差値70の野球部 レベル2 打撃理論編 (小学館文庫)偏差値70の野球部 レベル2 打撃理論編 (小学館文庫)感想
私は野球部が嫌いだった。今もってそうだ。執念深いのである。中学生の頃、私は陸上部だった。そして私の通っていた中学校の野球部のヤツらは放課後になると校庭のほとんどを占有し、あろうことかその状態にに何の疑問も罪悪感も持っていないようだった。そんな訳だ。さてこの小説である。主人公が通う海應高校は東大合格者数全国第1位。野球強豪校でいうセオリーの枠内で戦ったのでは絶対に勝てない。物理の理論を基に海應セオリーで戦おうとするところが痛快だ。そのことは野球部に対する屈折した私の心を隠微に癒してくれるのだ。フフフ・・・。
読了日:8月17日 著者:松尾清貴
偏差値70の野球部 レベル3 守備理論編 (小学館文庫)偏差値70の野球部 レベル3 守備理論編 (小学館文庫)感想
リトルリーグのチーム相手に試合する場面がいい。こんな仲間に出会えるなら野球もイイのかもしれない。かといって私が野球を好きになったわけではないが。3巻まで読んでみるとヒカルさんの理論は野球づけの強豪校を破る力があるのではないかと思ってしまうから不思議だ。彼女によると「感覚というのは、ある個体と環境情報との一時的接触」を意味し、「野球の試合とは、定められた一定のルールに従い、介在する環境情報を如何に効率よく処理するかというゲーム」らしい。ひえーっ!?
読了日:8月17日 著者:松尾清貴
偏差値70の野球部 レベル4 実戦応用編 (小学館文庫)偏差値70の野球部 レベル4 実戦応用編 (小学館文庫)感想
痛快でした。偏差値70の超進学校の野球部が甲子園常連の野球強豪校と野球の試合で互角に戦ってしまうのですから。世間が高校野球一色になるこの時期、「左打者には左投手が有利」だとか「無死1塁なら犠牲バントで走者を進めるべき」などというセオリーを、何の検証もなく盲目的に信じているバカを見るにつけスカッとした気分になります。しかし、野球バカ(バカといわれるほど努力しているという意味でほめ言葉です)からすれば噴飯ものであって、人によっては怒りすらおぼえるだろう。でも、野球オンチの私には痛快、痛快! (笑)
読了日:8月18日 著者:松尾清貴
珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)感想
日常のミステリにして京都もの、しかも物語全体に淡い恋心が漂っていれば、これはもう売れるわなー。珈琲店でおこるちょっとした出来事の裏にあるナゾを解き明かしていく日常のミステリとしての楽しみもさることながら、主人公たる男女お互いの心が一番のミステリとなっています。面白かったです。オススメです。
読了日:8月22日 著者:岡崎琢磨
嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)嘘をもうひとつだけ (講談社文庫)感想
このところ加賀恭一郎シリーズを順番に読んでいる。この本は既に2007/8/4に読んだが内容に記憶がないため読み直してみた。七つの短編。加賀刑事の推理が冴え渡る。ミステリとしての楽しみはバッチリである。ただ、昨日、人の死なない日常ミステリ『珈琲店タレーランの事件簿』を読んだばかりなので、七つの殺意は少々苦かった。先日やっと文庫化された『新参者』も手元にある。また寝る時間が削られるが、ちょっとだけ読んでみよう。
読了日:8月22日 著者:東野圭吾
新参者 (講談社文庫)新参者 (講談社文庫)感想
加賀恭一郎シリーズを第1の事件から順番に読んでいます。巻を追うごとに面白さが増している様がはっきりと見て取れます。謎解きの切れははじめから素晴らしいのですが、物語としての面白さ、深み、恭一郎の魅力がぐんぐん増して来ています。前作『赤い指』あたりから、人の情、人としての生き方も作品の重要な要素として織り込まれています。今巻『新参者』でもほろりとさせられる場面がいくつかあり、これはやはり恭一郎が人として成長し深みを増した証なのだと思われます。次巻『麒麟の翼』の早期文庫化を熱烈希望。講談社さん、よろしく。
読了日:8月24日 著者:東野圭吾
変見自在 オバマ大統領は黒人か変見自在 オバマ大統領は黒人か感想
自虐的史観に満ちた朝日新聞に怒り、自国の新聞やテレビによって真実が伝えられず歴史をねじ曲げられ謂われなき非難を浴びる現状を憂う。何も知らない私には髙山氏の主張の是非を判断出来ない。しかし私には髙山氏の主張のおおかたは正しいと見える。氏から名指しで「ウソつき」と糾弾された朝日新聞は自社が書いてきた記事を氏の主張する観点からもきちんと検証し、もし記事に間違いがあるとすればきちんとそれを認め世間に対し謝罪すべきだろう。少なくとも朝日新聞は他に対しては事あるごとに「過ちを認め謝罪すべき」といっているのではないか。
読了日:8月25日 著者:高山正之
どーしてこんなにうまいんだあ!どーしてこんなにうまいんだあ!感想
シーナマコトの簡単バカうま青空料理のレシピ&エッセイ。簡単で野外で作れて上品でない(つまり男クサイ)というところがポイント。読むとキャンプしたくなります。釣りたくなります。作りたくなります。飲みたくなります。「カキのボウモアドバドバかけ」なんかいいなぁ。地味だけど家で食って絶対うまいのは「シソバター丼」と「しょうゆマヨスパゲティ」だ。もう今年の夏も終わってしまう。海に行きたいなぁ。キャンプしたいなぁ。焚き火したいなぁ。
読了日:8月25日 著者:椎名誠
じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (14) (アクション・コミックス)じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (14) (アクション・コミックス)感想
花井拳骨氏にも弱みがあった。苦手ではない、弱みである。それがまたテツと同じく自分の奥さんであった。ヤーさんも恐くない男の唯一の弱みが奥さんだというのはイイ。男たるものの基本的心構えである。子供の頃のテツをずいぶんかわいがっていたようだが、どんな人だったのか興味がある。この後の巻で、そのあたりのエピソードが読めるのであろうか。楽しみである。そして、マサル探偵が密かに内偵するテツの殺人犯疑惑はどうなるのか。次の巻を読もう。
読了日:8月26日 著者:はるき悦巳
ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫)感想
人が生きることの意味ってなんだろう? 恋することの意味、セックスの意味はなんだろう? 仮にその意味が判ったとして、おそらくそれは勘違いに過ぎないのだろう。しかし、それでも何らかの意味を求めたい。そうでなければ空しいではないか、寂しいではないか、悲しいではないか。そんな風に考える私にはニシノユキヒコが理解できない。ニシノユキヒコは同時に多くの女性とつきあう。実にスルリとセックスをする。それで別に悪いわけではないが、なんとなく寂しく空しい。誰でも愛せると言うことは、誰も愛せないと言うことと同義なのだろう。
読了日:8月31日 著者:川上弘美
県庁おもてなし課 (角川文庫)県庁おもてなし課 (角川文庫)感想
どうして、こがーにしょうえいんかにゃ。有川浩ち、まっこと凄いおなごし作家じゃ。もう読み出したら止まらんき。おまけに知らんうちに土佐弁がうつってしもうたがよ~、なにかおかしい気分じゃ。すっかり睡眠不足にじゃったが、そげなこととかねやんでもない。つぎは『カツオ人間写真集』、ついでに『有川浩の高知案内』も読むつもりぜよ。なにせ今月の二十一日からの三連休は高知をチャリで走るつもりやき。待っちょってくれ、はちきん!
読了日:9月1日 著者:有川浩
マドンナ (講談社文庫)マドンナ (講談社文庫)感想
この作品は第128回直木三十五賞候補だったんですね。『イン・ザ・プール』や『空中ブランコ』に負けず劣らずの出来だと思います。収められた5篇の短編はすべて、サラリーマンなら「ある、ある」と思ってしまうものばかり。仕事上そこそこ力があり自分でもそれなりの自負があるが、まだまだ上がいる中間管理職という微妙な立場であるが故の悲哀がよく現れている。決して深刻ぶらず軽いテイストでユーモアを交えながら物語を紡いでいくところに奥田氏のセンスが光る。読者は読んでいて疲れない。読んだ後、かえって元気をもらう。ホント、上手い!
読了日:9月4日 著者:奥田英朗
モンスター (幻冬舎文庫)モンスター (幻冬舎文庫)感想
我々は皆、美醜のヒエラルキーの中に身を置いている。これはおそらく事実だ。そしてそれは女性においてより顕著であろう。米原万里さんのエッセイに『不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か』というのがあったが、恋愛において男は性格や能力、知力でなく見た目で評価する傾向にある。残酷なことではあるがしじゅうそんな場面に出くわすのだ。美しい者が上層、醜い者は下層。唯一の道は美容整形しかないのか。救いのない話ではあるけれど、これも遺伝子のふるまいとなれば甘受するしかない。所詮、人は遺伝子の呪縛から逃れることはできないのだなぁ。
読了日:9月7日 著者:百田尚樹
有川浩の高知案内 (ダ・ヴィンチブックス)有川浩の高知案内 (ダ・ヴィンチブックス)感想
掩体、居酒屋「あおき」、仁淀川、帷子崎展お望台、浅尾の沈下橋、日曜市、ひろめ市場、白石工業土佐工場、鍋焼きラーメン「橋本食堂」、司牡丹酒造、屋台餃子「安兵衛」、大岐の浜、佐田の沈下橋、久礼大正町市場、県庁おもてなし課、行きたい。いつか行きます。どろめ、のれそれ、ウナ丸たたき、はらんぼのお寿司、ちりめん大葉ごはん、いも天、土佐ジロー丼、都まん、食べたい。いつか食べます。まっちょってくれ、高知! ん? ツガニ汁がないぞっ? どこに行けば食えるんだ・・・? 
読了日:9月8日 著者:
カツオ人間写真集カツオ人間写真集感想
こがな写真集を千円も払ってこうてしもうたとちっくと後悔しちゅうが、高知を応援する人間としてはこれぐらい安いことなが。行きたいのはひろめ市場、日曜市、屋台。行きたいちゅうより飲みたいじゃ。モチーフの鰹の頭人間というのはキモい。けんど見慣れてくるとちっくとカワイイと思えてくるから不思議じゃにゃあ。生年月日は不詳で酒は飲める歳とあるが37歳だという噂もあるぜよ。行きたいのはひろめ市場、日曜市、屋台。行きたいちゅうより飲みたいじゃ。ほれっちゃあはちきんと飲めれば最高やか。
読了日:9月16日 著者:
お家さん〈上〉 (新潮文庫)お家さん〈上〉 (新潮文庫)感想
鈴木商店の流れをくむ某企業に勤めていた友人の死をきっかけに読み始めた。『銀のみち一条』以来の玉岡さんです。時代も同じく明治。物語の舞台も私の地元・兵庫県ということで、興味深く読んでいます。明治から大正にかけての日本は何もかもが変わろうとしていたのだなぁ。熱い時代です。そして商売の成功物語は読む者の心を高揚させる。ワクワクした気持ちが頁をめくる手を急がせる。現在の経済大国日本の黎明期に一心不乱に商売に打ち込んだ人々に拍手をおくりたい。
読了日:9月16日 著者:玉岡かおる
お家さん〈下〉 (新潮文庫)お家さん〈下〉 (新潮文庫)感想
今や伝説となった巨大総合商社・鈴木商店の興隆と崩壊。巨大なものが崩壊する様には悲しみに似たやるせなさが伴う。それはある意味「美」である。無から様々な事業を興し、どんどん巨大化しやがて自分ではコントロールできないほど巨大化した瞬間に一気に瓦解する。そこに崩れゆくものの美しさがある。そしてそれは人々の記憶に残り、語り継がれ伝説となる。目には見えないがそれは鈴木商店のDNAであろう。現在の世界経済の中にはそのDNAが脈々と受け継がれている。鈴木商店は歴史の表舞台から消えることによって永遠を獲得したと云える。
読了日:9月20日 著者:玉岡かおる
オレたちバブル入行組 (文春文庫)オレたちバブル入行組 (文春文庫)感想
先ほどまで日本生命の社員の方と飲んでいた。日曜劇場・半沢直樹、アタリでした。良かったですね。池井戸さんの小説のキーワードは解説の新野剛志さんが書いていらっしゃるように”共感”だろう。そしてその共感の礎には”矜持”があるのではないか。組織の中で、とりわけ大組織の中では一人の人間のプライドなど吹けば飛ぶようなものだ。「長いものには巻かれろ」 一人の人間が誇り高い生き方をするのは難しい。しかし己の”矜持”に従うかどうかは別にして、人それぞれに”矜持”を胸に生きている。池井戸さんの紡ぐ物語はその胸にズンと響く。
読了日:9月26日 著者:池井戸潤
オレたち花のバブル組 (文春文庫)オレたち花のバブル組 (文春文庫)感想
ご自身がバンカーでいらっしゃったという池井戸氏のバンカーとしての矜持とはなにか。それはおそらく「銀行の都合でものを考えず、顧客企業の再建・発展を考える」ことだろう。検査前車内検討会における半沢と福山との議論にはその考え方の違いが鮮明に出ていた。池井戸氏が努めていらっしゃった銀行は現在の三菱東京UFJ銀行ですね。私のいとこが勤めていますよ。それも人事じゃなかったかな。こんな伏魔殿のような組織で働いているのか、なんてついつい心配してしまうではないか。次に会ったときには絶対質問してしまうな。根掘り葉掘り。(笑)
読了日:9月30日 著者:池井戸潤
レディ・マドンナ (7)  東京バンドワゴン (集英社文庫)レディ・マドンナ (7) 東京バンドワゴン (集英社文庫)感想
東京バンドワゴン・シリーズももう第7弾になったのか。堀田家家訓「食事は家族揃って賑やかに行うべし」いいですねぇ。このシリーズを読むと一昔前には当たり前の光景だった大家族の良さが忍ばれます。生まれたからには幸せに暮らしたい。でもその幸せは一人のものでなく、家族揃っての幸せであった方がいい。場合によっては己の幸せよりも家族に幸せになって欲しい。人ってのはそういうものですね。その意味でウソってのは自分のためではなく、人のためにつくもんなんだよねぇ。それでこそ「LOVE」だねぇ。愛こそすべて。
読了日:10月1日 著者:小路幸也
嵐山吉兆 秋の食卓 (文春文庫)嵐山吉兆 秋の食卓 (文春文庫)感想
ぎんなんの飯蒸し、柿の変わりなます、信田巻き、かんぴょうの辛子味噌、さばと白菜のミルフィーユ、いわしのつみれオランダ風、塩じめさけとクリームチーズ・・・、作って食べたいものに付箋をつけていくと14種にもなってしまいました。この秋も休日は美味しいものを作って食べようと思います。わかりやすいレシピに美しい出来上がり写真、料理の基本の解説もあり、私のように基本をわきまえないぞんざいな厨房男子にはありがたい。
読了日:10月1日 著者:徳岡邦夫,山口規子
タイビジネスと日本企業タイビジネスと日本企業感想
今朝、著者のお一人にお目にかかり本書を頂き、早速、読ませていただきました。タイの産業、市場の状況の解説、日系企業として進出する際の異文化マネジメント、とりわけ人の育成と管理について示唆に富んだ内容でした。やはりタイには強烈な魅力がある。いまや日本には無くなってしまった「可能性」が満ちている。興味あるところの斜め読みになってしまったが、後は現地を直に見て感じることが大切なことだろう。
読了日:10月3日 著者:
空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(上) (講談社文庫)感想
国であれ、会社であれ、家族であれ、自分がそこに所属するとなればそこには壊れて欲しくない。もし壊れてしまえばかなり困ったことになる。つまり組織とその組織に所属する者とは運命共同体なのである。ではその組織を守るために倫理にもとる行為に及んでも良いか? 答えは”No!”だ。しかしことはそう単純ではない。組織人は社会的正義と己の組織を秤にかけて懊悩することになる。また、もしある組織が組織を守るために弱者を虫けらのように切り捨て、いや、切り捨てならまだしも生け贄にしようとしたら・・・。物語は佳境に入り下巻に続く。
読了日:10月6日 著者:池井戸潤
空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)空飛ぶタイヤ(下) (講談社文庫)感想
池井戸氏の描く悪役は本当にイヤな奴ですね。悪役の描き方が上手い、上手すぎます。傲慢で冷酷、利に聡く、自分に利益がある内は媚びてもみせるが、自分に不利に働くと見た瞬間手のひらを返す。信義や惻隠の情などかけらもない。これが桃太郎侍なら「テメエら人間じゃねえ、叩き切ってやる!!」とバッサリ切って捨てるところだ。権力も資力もなく、ただただ真っ当に生きてきた弱者が巨悪に立ち向かい、困難を克服し、やがて悪をやり込めてしまう結末に素直に良かったと思う。予定調和的結末ではあるがやはりイイ。今夜はすっきり眠れそうだ。
読了日:10月6日 著者:池井戸潤
華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)華竜の宮(上) (ハヤカワ文庫JA)感想
リ・クリティシャス。最終的に二六〇メートルもの海面上昇。海の広さが白亜紀の頃にまでもどる現象。壮大な構想で創り出された未来社会にうなった。凄まじい環境変化に対応するため人をも含むあらゆる生物に改変を加えることを許した社会が行き着く先は? どっしり読み応えのあるSFです。睡眠時間が無くなってしまう。
読了日:10月11日 著者:上田早夕里
華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)華竜の宮(下) (ハヤカワ文庫JA)感想
生物に改変を加えるのは神の所行。人類がその所行に及んだとき、想定を超えた結果が待つ。なぜなら人類は神のように全知全能では無いのだから。上田氏は神の視点で終末を迎えた地球を描いた。この世界観は、ただただスゴイの一言だ。終末を迎えた地球、その極限状態にあっては人間的な主情など無駄を通り越して、ただのお荷物でしかない。しかし、上田氏はロマンティシズム、ヒロイズム、リリシズムにあふれた主人公に終末世界の希望を託した。人類滅亡が必至と思われる世界をタフに、しかし主情的に生きようとする主人公の物語はハードボイルドだ。
読了日:10月17日 著者:上田早夕里
はじめまして、本棚荘(MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)はじめまして、本棚荘(MF文庫ダヴィンチ) (MF文庫ダ・ヴィンチ)感想
読みやすかった。といって理解しやすかったわけでは無い。といって難解なわけでも無い。文章は平易。意味もはっきりとわかる。でも現実感が無い。といって描かれているのは日常である。日常ではあるがこんな世界は見たこと無い。ありそうで無い、無さそうでありそうな、なんだか訳のわからない謎の世界。それが本棚荘である。吉田篤弘氏の小説『 つむじ風食堂の夜』と似た不思議に優しい世界だ。それにしても「トゲ」とは何なのか。もやっとして判然としない。解明する必要はないのかな。自分なりの解釈をすれば。あるいは、ただ感じれば・・・。
読了日:10月18日 著者:紺野キリフキ
総理の器量 - 政治記者が見たリーダー秘話 (中公新書ラクレ)総理の器量 - 政治記者が見たリーダー秘話 (中公新書ラクレ)感想
某銀行に招かれて著者・橋本五郎氏のご講演を聴き、プレゼントに本書を頂きました。本を読むことも大切ですが、人間やはり直にお話を聴くということが大切ですね。お人柄がよくわかります。TVで拝見するよりもはっきりと伝わるものがあります。すっかりファンになりました。本書では政治記者として見てこられた過去の総理大臣のうち橋本氏が語るに値すると判断された9名について、その器量を計っていらっしゃいます。私の見たところどうやら中曽根康弘氏、大平正芳氏をもっとも評価していらっしゃるようです。私も賛成です。
読了日:10月20日 著者:橋本五郎
下町ロケット下町ロケット感想
感動したっ! その一言。よこしまな大企業にいたぶられる真っ当だが弱小の中小企業。いたぶられればいたぶられるほど読むのをやめられない止まらない。池井戸氏は本当に憎まれ役を描くのが上手い。理不尽なふるまいに窮地に陥れられるたびに「クヤシイ、くそっ!」と思いながら、「そのうち見てろよっ!」と歯を食いしばりながら読む。自分はひょとしてMではないかと疑ってしまうほどいたぶられればいたぶられるほど興奮して頁をめくってしまう。池井戸氏お得意の最後は必ず正義が勝つ予定調和・日本人大好き水戸黄門的勧善懲悪の結末に涙。 
読了日:10月20日 著者:池井戸潤
珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る (宝島社文庫)珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る (宝島社文庫)感想
軽く楽しみました。切なさに胸を焦がすこともなく、理不尽さに怒るわけでもなく、ロマンチックな夢を見るでもなく、スリリングな展開にはらはらドキドキするわけでもなく、あくまで軽く楽しみました。ミステリを楽しむのは作者と知的な会話を交わすようなもの。重い話題も悪くはないが、軽いやりとりにこそ心地よさがあるのも事実。悪くない。それなりの満足感があります。 
読了日:10月24日 著者:岡崎琢磨
「論語」に帰ろう (平凡社新書)「論語」に帰ろう (平凡社新書)感想
私はこれまで「あなたの宗教は何ですが?」と尋ねられたら「無宗教です」と応えていた。しかしこれからは「儒教です」と応えても良いかなと思い始めている。守屋氏が書いていらっしゃるように「儒教」が宗教であるかどうかには疑問が残る。すなわち古今東西すべての宗教に共通する特徴「自分が理不尽な目にあったとき、その理由を説明する理屈を持っている」という面が孔子の教えにはないということ。でも無宗教で通してきた私にはそこがしっくりくる。つまり孔子の教えには他の宗教に共通するウソやまやかしがないと感ずるのだ。
読了日:10月27日 著者:守屋淳
私の作ったお惣菜 (集英社文庫)私の作ったお惣菜 (集英社文庫)感想
宇野千代さんが88歳でいらっしゃる頃に実際に作られた料理の写真と、それについて書かれたエッセイが収められています。宇野さんは98歳まで長命を保たれた方です。その秘訣は店屋物ではなく、ご自分で調理されたものをよく食べていらっしゃったからかも知れません。なんといっても有名な「極道すきやき」は一度作ってみたいと思います。他にも「岩国鮨」「ぎせい豆腐」「鰯の天ぷら(宇野千代風)」「梅干し入りのチャーハン」「林檎の白和え」などなど、作ってみたい食べてみたいものがいろいろ。決して豪華ではないですけれど、絶対美味しい。
読了日:10月27日 著者:宇野千代
はなうた日和 (集英社文庫)はなうた日和 (集英社文庫)感想
山本幸久氏は幸せの危うさをご存じなのだろう。よくご存じで、その大切さ危うさ故、それが失われてしまうことの怖さが判っている。だからこそ、これほど大切に大切に小さな幸せを表現できる。幸せにはいろいろな形がある。loto7が当たる、ノーベル賞を受賞する、サッカー日本代表がワールドカップで優勝する、阪神タイガースが来年優勝する。でも山本氏の描く幸せはそんなありそうもないものではない。そこにあり、手を伸ばせば届きそうな幸せだ。心がほんわり温かくなるような幸せなのだ。言うまでもなくこんなイイ小説に出会うのも幸せ。
読了日:10月31日 著者:山本幸久