佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2014年の読書メーター

2014年の読書メーター
読んだ本の数:144冊
読んだページ数:40677ページ
ナイス数:28104ナイス

 

昨年は大河ドラマ軍師官兵衛」の影響で司馬遼太郎播磨灘物語」を読みました。播磨に生まれ育った者として、官兵衛について知ったことは良かったと思う。

追いかけたのは宇江佐真理さん、髙田郁さん、百田尚樹さん、大崎梢さん、近藤史恵さん、あたりかな。

コミックも良書に巡り会えた。麻生みことさんの『路地恋花』にはまりました。現在、玖保キリコさんの『バケツでごはん』にはまっています。

朝日新聞のダメダメぶりが明らかになった年でもあって、週刊誌で朝日の大罪を確認した。

そして不思議なことに今年は意識していないにもかかわらず寺山修司さんを追いかけていたようだ。春先に髙田郁さんの『ふるさと銀河線』を読み、久しぶりに寺山さんの詩「幸福が遠すぎたら」に触れた。

   さよならだけが人生ならば また来る春は何だろう

   はるかなはるかな地の果てに 咲いている野の百合何だろう 
   さよならだけが人生ならば めぐり会う日は何だろう 
   やさしいやさしい夕焼と ふたりの愛は何だろう 
   さよならだけが人生ならば 建てた我が家はなんだろう 
   さみしいさみしい平原に ともす灯りは何だろう

   さよならだけが 人生ならば 
   人生なんか いりません

                        『幸福が遠すぎたら』(寺山修司
尼崎市を仕事で走り回っている中で、ふと古本屋の店先で50円の文庫本『家出のすすめ』を見つけたのも今年のこと。そしてその本の中で寺山さんが薦めていらっしゃったコーネル・ウールリッチ『喪服のランデヴー』を読み、コーネル・ウールリッチウィリアム・アイリッシュ)にはまった。なんとなく縁を感じるこのごろである。



赤ヘル1975赤ヘル1975感想
1975年。私が高校に入学した年。ベトナム戦争終結した年。バンバンの「『いちご白書』をもう一度」がヒットし、港のヨーコはハマからヨコスカに流れ、たいやきくんは喧嘩して海に逃げ込んだ。この年の赤といえば、日本赤軍がクアラルンプールでアメリカ大使館を占拠したテロ事件。これはボケタレだ。アッパレだったのは赤ヘル軍団・広島カープの球団創設以来のセ・リーグ初優勝だった。あの時代の記憶がよみがえって懐かしく温かい気持ちになった。市井の人が悲しみや怒りを胸に秘めながらも、周りの人、仲間を大切にして生きている姿に感動。
読了日:1月4日 著者:重松清


阪神間のお店―カフェに雑貨、ごはん、ギャラリー…、めぐって楽しい (えるまがMOOK)阪神間のお店―カフェに雑貨、ごはん、ギャラリー…、めぐって楽しい (えるまがMOOK)感想
行ったことがある所は紹介された261店中3店。ハム・ソーセージ「メツゲライ・クスダ」、蕎麦「土山人」、旧甲子園ホテル。行きたくなった所は沢山。伊丹「喫茶・島あと」でパンとコーヒー、岡本「びすこ文庫」で古書、苦楽園口「maruku.cafe」のドライカレー、阪急御影「蕎麦ふくあかり」で酒と蕎麦、新在家「俺の餃子」で餃子とビール、阪神御影「立ち呑み・美よ志」で昼酒。楽しみやなぁ。あと仕事柄、さくら夙川「噂の八百屋」、芦屋川「ORGANIC VEGETABLE CA」、移動販売「yamsai」は要チェック。
読了日:1月5日 著者:


旅の絵本 (3)  イギリス編 (安野光雅の絵本)旅の絵本 (3) イギリス編 (安野光雅の絵本)感想
入口と出口はチャールズ皇太子とダイアナ妃の結婚パレード。どうやら1981年当時のイギリスを旅されたようだ。ドーバー海峡を渡ったところから北へ。最後は定かではないがスコットランドウェールズの海をボートでこぎ出す。安野氏は村から村へと旅をする中でイギリスの村人たちが高い誇りを持っていることに気づかれたそうだ。緑の国土をいとおしみ、せいいっぱい村をきれいにして住んでいる村人を見て、イギリスは世界で一番村の美しい国だと思われたとのこと。トラファルガー広場ビートルズ刑事コロンボシャーロック・ホームズを探せ!
読了日:1月5日 著者:安野光雅


播磨灘物語 1 (講談社文庫 し 1-7)播磨灘物語 1 (講談社文庫 し 1-7)感想
かなり前から買い置いていたのだが、全四巻ということでこれまで読むのを躊躇っていた。しかし、大河ドラマが今月五日から始まってしまった。後れをとってはならじとばかりに慌てて読み始めた。若き日の官兵衛は私が住んでいる姫路に住んでいただけに、物語の舞台となる所になじみがあり、今の様子を知っているだけに興味深い。旧弊を廃し、広く世間を観て物事をありのままに情勢分析する官兵衛。気概に富むが、身体能力に恵まれない己を知り、知力で激動の時代を乗り切ろうとした官兵衛の慧眼たるや見事と云うほかない。
読了日:1月12日 著者:司馬遼太郎


心に吹く風 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)心に吹く風 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)感想
一年間、待ちに待ったぞ。単行本を読めば良さそうなものだが、文庫本で読むと決めているのだ。龍之進のご新造”きい”が誠に魅力的。このシリーズに新たな魅力が備わった。伊与太と茜に転機が訪れ、今後どうなるのだ。気になる。あぁ、また一年間じっと我慢の子だなぁとしみじみ思いながら「あとがき」を読んでいると、な、なんですと? 宇江佐さん、くれぐれもご自愛ください。私はこのシリーズをいつまでも読み続けたいのです。伊三次の周りの人、皆の幸せを見とどけたいのです。勝手な言いぐさですが、私の願いを叶えてください。御身ご大切に。
読了日:1月14日 著者:宇江佐真理


乙嫁語り 6巻 (ビームコミックス)乙嫁語り 6巻 (ビームコミックス)感想
19世紀後半の中央ユーラシアはロシアの南下政策の影響に揺れる。遊牧民にとって所有する羊の数が資産なら、所有する馬の数は誇り。多くの馬を放牧する牧草地が足りないとなれば奪うのみ。その行為が正しいか正しくないかでは無い。そう思う部族がいるかいないかである。そう思う部族がいればそこに戦いが生じる。たとえそれが愚かな戦いであっても、降りかかる火の粉は払わねばならない。「夫が戦うなら私だけ逃げるわけにはいきません。私は妻ですから」と言い放ったアミルが清々しい。今年は午年。表紙を飾るアミルと馬の凜とした美しさを観よ。
読了日:1月15日 著者:森薫


播磨灘物語 2 (講談社文庫 し 1-8)播磨灘物語 2 (講談社文庫 し 1-8)感想
ともすれば毛利になびこうとする播州の諸将を織田方へと説いてまわる官兵衛は中国の縦横家に自分を重ねたか。いよいよ官兵衛は己の活動ステージを高めはじめた。言を尽くさずとも価値観を共有できる竹中半兵衛という友も得た。歴史は信長という革命家と官兵衛のという知略家を得て新たな胎動を始めたと云える。氏素性を問わず能力のみで人を量る怜悧な信長なればこそ、理屈ではない人の感情が理解できない。そのことが、配下の者の疑心暗鬼を生じてしまう様が興味深い。荒木村重に謀叛の動きあり。どうする官兵衛。次巻のおたのしみ。
読了日:1月18日 著者:司馬遼太郎


終末のフール (集英社文庫)終末のフール (集英社文庫)感想
「鋼鉄のウール」の章に出てくる苗場の人物造形が秀逸。「明日死ぬとしたら生き方が変わるのか。あなたの生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」という彼の問いが胸に刺さる。いつ死のうと自分の生き方は変わらない。自分に妥協を許さず、その時できること、すべきことをやるのみ。彼の生き方は葉隠「常住死身」という心得と相通ずる。そう考えると、苗場の専属カメラマンの名が「三島」であることに興味を覚えるのは私だけだろうか。
読了日:1月21日 著者:伊坂幸太郎


ゴールデンスランバーゴールデンスランバー感想
伊坂さんてきっと信頼できる人なんだろうな。たとえば主人公の父・平一の言動をみればわかります。平一は「痴漢」が絶対に許せない。殺人より悪いと考えている。なぜなら人にはどうしても人を殺さざるを得ない事情というものが発生しうるが、どうしても痴漢行為に及ばざるを得ない事情はありえないから。また、ろくに調べもせずに息子を犯人と決めつける軽佻浮薄なマスコミに対して、自分の仕事が他人の人生を台無しにするかもしれないという覚悟を持っているのかを問うた一言にはしびれました。この小説、おすすめです。
読了日:1月24日 著者:伊坂幸太郎


ひとめあなたに… (創元SF文庫)ひとめあなたに… (創元SF文庫)感想
物語のはじまりは好きだったのです。いいなぁ、青春だなぁ、なんてね。しかし、中盤はつらい、痛い。そりゃぁそうでしょう。一週間後に人類が滅亡するのですから。人間ってのは悲しい生き物です。同時に、人間ってのはコワイ生き物です。特に女性は不可解でコワイ。あぁ、読むんじゃなかったと後悔した中盤。でも終盤、朗が圭子に言ったこの一言に救われたのです。「俺はあんたが思ってくれる程たいした男じゃない。けど、あんたがそう思ってくれてんなら、本当に、たいした男になりたい」 めでたし、めでたし。いやめでたくはないですけれど・・・
読了日:1月27日 著者:新井素子


ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)ビブリア古書堂の事件手帖 (5) ~栞子さんと繋がりの時~ (メディアワークス文庫)感想
本は作者の想い。紙に文が載せられるだけで、紙に絵が印刷されるだけで、その想いは普遍性を持つ。と、同時に永遠を獲得する。といってもその本がかたちとして存在する限りという限定付きではあるが。古書の良さはそこにある。とすれば、古書はコレクションだけで終わってはならないのかもしれない。本当にその本を読みたい人があれば、本当にその本を読むに相応しい人がいれば、本はその人のところまで旅をするものなのだろう。前作<4>から今作まで11ヶ月。また一年近く、辛抱しなければならないのか。三上さん、出来るだけ早くお願いします。
読了日:1月29日 著者:三上延


播磨灘物語 (3) (講談社文庫)播磨灘物語 (3) (講談社文庫)感想
どうやら司馬氏は弱小大名に過ぎなかった信長が天下統一目前まで強大になった理由と、あっけなく滅びた理由双方を信長の持つ原理に求めていらっしゃるようだ。獄中にある官兵衛をして「原理というものはそれが鮮明で鮮烈であればあるほど、他者を排除し、抹殺する作用がある」と看破させた場面がいい。歴史物語の楽しみは史実を知ることだけでなく、史実をもとに歴史が動いた背景を推理し、人間を知るというところにあるのだろう。さて、次は四巻。いよいよ最終巻だ。官兵衛はどう考え、どう生きる?
読了日:1月30日 著者:司馬遼太郎


幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))感想
不完全さこそが人間を人間たらしめているのか。あるいは死が・・・。「全面突破(トータル・ブレイクスルー」を経験した子供は、もはや神の領域の存在なのか。判らないことばかりだ。ひとつだけはっきりと確信したことがある。人にとって、飼育されて幸せであると云うことはありえないと云うこと。
読了日:2月8日 著者:アーサー・C・クラーク

 

 


変見自在 偉人リンカーンは奴隷好き変見自在 偉人リンカーンは奴隷好き感想
国家に謂われなき従軍慰安婦という罪を着せた河野洋平、同じく虐殺の濡れ衣を着せた後藤乾一早大教授、なんとしても日本政府を悪者にしたい朝日新聞船橋洋一主筆、偏った史観で公式にお詫びを述べてしまう村山富市、ろくに取材もせず日本軍守備隊長が沖縄住民に集団自決を命じたとウソを書いたノーベル文学賞作家大江健三郎・・・、ウソがあたかも真実であるかのように報じられている現状に悔しさがつのる。まさに日本を讒(ざん)する人々のなんと多いことか・・・
読了日:2月8日 著者:高山正之


ジェノサイド 上 (角川文庫)ジェノサイド 上 (角川文庫)感想
作者の歴史観、政治観には浅さと偏りが見られ同意できない。しかし、突然変異による人類の進化、現人類を圧倒的に超えた知性、その知性がこれまで不可能とされた数学的処理を可能にすること、しかもそのことが複雑系を完全に理解してしまうという知的好奇心をビンビンに刺激してくれる着想は圧巻。下巻で作者が『無限に発展した道徳意識の保有』にまで言及するのかどうかも興味あるところ。一気に下巻に突入したいところだが、そうすると徹夜になることは確実。おそらく続きが気になって仕事も手につかないだろう。やむなく、しばしの睡眠に入る。
読了日:2月14日 著者:高野和明


ジェノサイド 下 (角川文庫)ジェノサイド 下 (角川文庫)感想
巻末の謝辞に「考証の瑕疵を含め、全ての文責は著者にある」と書いてあります。フィクションとして読めばよいのですから目くじらを立てるのは大人げないと思うのですが、小説中の一部記述には不快感を禁じ得ません。戦争であれ、政治であれ、そんな短絡的に善悪を論じてはいけないのでは無いでしょうか。あいにく私は自らの民族、国を貶むような自虐的趣味は持ち合わせていない。と、まあ、高野和明ファンから袋だたきに遭いそうなことを書いてしまいましたが、その点があってなお圧倒的な物語の魅力にぐんぐん引き込まれました。凄い小説です。
読了日:2月16日 著者:高野和明


嫌な女 (光文社文庫)嫌な女 (光文社文庫)感想
肉体のピークは二十歳前後であっても、人はやはり六十年、七十年と生きて完成するものなのだなぁ。長い年月をかけて人は深く深く成熟していく。こうありたいと願っても、そうならないことも多いけれども、それが人生だ。なんとか心の中で折り合いをつけるしか無い。幸せな人生とは何なのだろう。どうすれば幸せに生きることが出来るのか。この問いに対する作者・桂望実氏の答えは「恕」であるように思う。ゆるす、おもいやるこころ。人間は白でも黒でも無い。善でも悪でも無い。これでいいという到達点も無いし、それではダメだという断定も無い。
読了日:2月20日 著者:桂望実


美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)感想
四季を感じるおいしそうな料理。凜として綺麗な生き方。期待に違わない水準は安心感があります。おまけに神戸人にはわかる「海文堂」を登場させるプチ・サプライズ、小野寺数馬が登場する短編が巻末に特別収録してあるというサービスぶり。まるで「つるや」の料理のように行き届いているではないか。修辞は決してくどくはなく、むしろ淡泊である。余計なものを削ぎ落とし、どうした表現が一番読者に伝わるかを吟味した結果なのかも知れない。料理や盛りつけのコツと同じです。今年八月頃に上梓予定の『天の梯』が完結編とのこと。いよいよですなぁ。
読了日:2月22日 著者:高田郁


なつかしい時間 (岩波新書)なつかしい時間 (岩波新書)感想
長田氏が好きなもの。何でもない五月の美しい光景。無用の時、ふるさと、気風、「退屈」というゆったりした時間、遠くを見やる眼差し。長田氏が嫌いなもの。偏差値、最近氾濫している訳のわからない名詞。コンビニ、ファーストフード、メール、ネット。遠くを見る眼がなくなったこと。習慣の力がなくなったこと。失われたり、変容してしまった気風、スタイル、習慣を懐かしむ気分は大変よくわかります。しかし、いささか決めつけが過ぎます。とはいっても、この本を読んでいるあいだ、心なしか時間がゆっくりと快く流れていたのは確かだ。良き随筆。
読了日:2月28日 著者:長田弘


「黄金のバンタム」を破った男 (PHP文芸文庫)「黄金のバンタム」を破った男 (PHP文芸文庫)感想
人生というものはわからない。様々な人々の縁が交錯し、偶然が引き起こした出来事が人の運命を大きく左右する。どれほど思いを遂げようと努力を重ねても、運命の女神が微笑んでくれなければ、その努力も無に帰してしまう。ファイティング原田は誰よりも厳しい減量をし、強くなる工夫と努力をし続けたボクサーだ。現役の間は己のすべてをボクシングに捧げた男。そんな原田に対しては、いかな気まぐれな女神も微笑まざるをえなかったのでは無いか。そう信じたい。百田さんの興奮した気持ちがひしひしと伝わってきました。素晴らしいノンフィクション。
読了日:3月3日 著者:百田尚樹


民主主義とは何なのか (文春新書)民主主義とは何なのか (文春新書)感想
人がもって生まれた自然権として、生命と財産を脅かされること無く生活を営もうとするならば、人それぞれが勝手気ままなふるまいに及ばぬよう統制する力(つまり権力)を必要とする。しかしそれは権利を権力をもって抑制することに他ならず、民衆と権力の間に闘争が生じるという撞着に陥ることでもある。すなわち人権を基本とする「民主主義」は本質的に権力に対する闘争のドグマを内包するのだ。従って我々は民主主義を自明のものとする思考停止状態から脱するとともに、「人権」の呪縛を断ち切る理性を持つ必要がある。・・と、こういうことかな?
読了日:3月13日 著者:長谷川三千子


影法師 (講談社文庫)影法師 (講談社文庫)感想
人は何のために生きるのであろう。ただ生きるために生きる。己のDNAを残すという意味ではそれも良い。しかし志を全うするために生きる生き方もある。あるいは志を全うするために死ぬという生き方、つまり命を代償に志を遂げるという生き様(あるいは死に様)である。人には天命というものがある。人一人、天命に逆らえるものではない。己の命を投げ出してはじめて叶う志もある。勘一と彦四郎は「刎頸の交わり」を交わした。そして彦四郎はみねに「どんなことがあってもお前を守ってやる」と約束した。約束の重みとはそれほどのものなのか・・・
読了日:3月14日 著者:百田尚樹


知の武装: 救国のインテリジェンス (新潮新書 551)知の武装: 救国のインテリジェンス (新潮新書 551)感想
「インテリジェンス」ってのは単なる知能あるいは情報をさす言葉ではなく、情報の集積とその情報に対する適切な考察と評価、さらにその先に現れるであろう事象を予測するとともに対応処置まで演繹することと理解しました。共に最高レベルの知性を持つ手嶋氏と佐藤氏の対談はエキサイティングだった。私は心のどこかで評論家を信用していないところがあり、くだらない御託を聞かされるのではないかと危惧していたのだが、手嶋氏の「所詮、完璧なインテリジェンスなどありません」の一言に杞憂であったと判った。これぞまさにインテリジェンス。
読了日:3月18日 著者:手嶋龍一,佐藤優


ラッシュライフ (新潮文庫)ラッシュライフ (新潮文庫)感想
全くの赤の他人の人生が意外なところで交錯し意外な結果に収斂するという伊坂氏お得意の展開である。著者の他の作品を読んだときにも感じたことだが、井坂氏は作品を通じて氏の倫理観を随所に開陳してくれる。本書においてはなんといっても空き巣泥棒の黒澤にそれを見ることが出来る。変ないい方ではあるけれど、この泥棒は素晴らしく倫理的である。(笑) なにせ空き巣に入った後に必ず盗品リストを作成し、被害者の煩わしさを軽減して差し上げるのだから。この泥棒黒澤は『重力ピエロ』にも登場するらしいので、そちらも読まねばなるまい。
読了日:3月21日 著者:伊坂幸太郎


幸福な生活 (祥伝社文庫)幸福な生活 (祥伝社文庫)感想
百田尚樹ショートショート。たっぷり愉しませていただきました。ちょっと毒を含んだ最後の一行が秀抜。まるでよく出来た落語のオチのようだ。百田氏なら、新作落語も易々と創ってしまうのではないか。それほどに百田氏の人を愉しませる手練手管はきわめて巧みで、その手腕はあらゆる趣向の創作に発揮される。本書を含めこれまで百田氏の小説を7作読んだが、そのどれもが新鮮で少しも退屈させない。スゴイとしか言いようがない。
読了日:3月23日 著者:百田尚樹

 


風の果て〈新装版〉 上 (文春文庫)風の果て〈新装版〉 上 (文春文庫)感想
百田尚樹氏の『影法師』の連想で読むことにした。上士と下士の間の厳しい身分制度、部屋住みの身の悲哀、婿養子に入ることでどうにか一人前として扱われ、己の才覚を発揮する場も与えられる。生きて行くにも恋愛をするにも壁だらけの中で、なんとかその壁を突き破ろうとする者、壁に阻まれたままの境遇の中で自分の生に意味を見いだそうとする者、様々な生き方と運命のいたずらが錯綜するなかで、若き頃、同じ道場に通った仲間がそれぞれの人生行路が決まってゆく。人は「生まれではなく、どう生きたかだ」と思いたい。下巻にすすむ。
読了日:3月23日 著者:藤沢周平


風の果て〈新装版〉 下 (文春文庫)風の果て〈新装版〉 下 (文春文庫)感想
若き頃、同じ道場に通った仲間。家柄の違いこそあれ、一緒に稽古し、一緒に遊び、仲間として価値観を共有できた。未来がたっぷりある若いうちは、それぞれが人生どうなるか判らないという不確実性がある分、希望もある。しかし、四〇才、五〇才と歳を数えるとそうはいかない。ある程度、成功した者とそうでなかった者がはっきりする。久しぶりに会う友と「おい。おれ、おまえで話そう」と断らねばならないことが全てを現している。ほろ苦いことだが、生きて、歳を重ねるとはつまりそういうことだ。
読了日:3月29日 著者:藤沢周平


じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (16) (アクション・コミックス)じゃりン子チエ―チエちゃん奮戦記 (16) (アクション・コミックス)感想
渉先生の妻・朝子さんご懐妊。テツは、最近、朝子さんの顔を見ないのを「離婚か?」と早合点。早速、内偵をはじめる。テツは憎まれ口をたたきつつ、実は気遣っている。このあたり、素直になれないのがこの男のややこしいところだ。素直になれないといえば、マサルである。チエのことが気になって仕方が無いくせに、憎まれ口ばかりたたく。もう少し成長して、自分が実はチエのことが好きなのだと気づくはずだが、そのときマサルは己の心にどう対処するのだろう。私はこの屈折した子ども・マサルのことが大好きなのだ。私も相当屈折しているなぁ。
読了日:3月30日 著者:はるき悦巳


銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)感想
みをつくし料理帖』が大好きで高田さんの小説を読んでいる。どの作品にも共通するのは、登場人物の真心。市井に生きる人々の思いやりと矜持を引き立てて描いていらっしゃること。高田さんの小説を読むと全ての人が謙虚に、周りを思いやり助け合って生きていくなら、どんな災害に見舞われても、どんな逆境にあっても、人は誇り高く幸せに生きていけるのだと信じられる。「人生は素晴らしい」心からそう思える。
読了日:4月5日 著者:高田郁

 


日の出食堂の青春 新装版  (アクションコミックス)日の出食堂の青春 新装版 (アクションコミックス)感想
私にもありました。若かった頃、あれこれ考えるだけで結局どうして良いか判らず、経験も自信もないものだから、何もせずダラダラ過ごしてしまう時期が確かにありました。ひとかどの男になりたいけれど、たいした男になれそうもない。自分の先行きがだんだん見えてくる。そんな自分に唯一希望があるとすれば、素敵な人と結婚すること。憧れの女(ひと)が自分ではなく他の人と結婚してしまう。ただ一つの空想的希望も潰えたとき、せめて「好きでした」ということだけでも言いたかった、言えば良かったとの悔いが残る。人生の春は切なくもほろ苦い。
読了日:4月7日 著者:はるき悦巳


播磨灘物語 4 (講談社文庫 し 1-10)播磨灘物語 4 (講談社文庫 し 1-10)感想
いよいよ中国大返し備中高松城水攻めの最中に本能寺の変の急報をうけ、「どうしてあれだけの短期間で山崎までとって返すことができたのか?」という謎に対する司馬氏流の解釈と運命のいたずらのなす物語に興奮した。そして、権力者の猜疑心の深さを知るや、己を水の如く処す官兵衛の知慮に唸った。「臣ハソレ中才ノミ」と言い放つ官兵衛の聊か口惜しくも恬淡とした態度がクールでした。一昨日は高台にあるJR赤穂線西片上駅から町を見下ろしながら、暫し、中国大返しのロマンに酔いました。幸せなひとときでした。
読了日:4月8日 著者:司馬遼太郎


ボックス!(上) (講談社文庫)ボックス!(上) (講談社文庫)感想
ケンカに強いかどうか。もちろんそんなことで人の値打ちは計れはしない。しかし理不尽な力の行使に対しては、それに対処する力、つまりケンカに強いかどうかが重要になり得る。そんな局面は長い人生の中でそう度々あることではない。かといって一度もないかといえば、そうでもない。一度や二度はだれにでも経験があることだ。つまり世の中には、こちらが望むと望まざるとに拘わらず理不尽な要求をふっかけられ、服従を力によって強要されることがあるということだろう。だからこそ、男は強くありたいと願う。ワクワクしながら上巻を読み終えました。
読了日:4月9日 著者:百田尚樹


ボックス!(下) (講談社文庫)ボックス!(下) (講談社文庫)感想
優紀と義平、二人の漢(おとこ)を描いた快作である。50代半ばのオジサンが今更青春モノに胸を熱くしてどうする、と何度も熱くなる自分を抑えようとしたが抑えきれなかった。感動のリミッターを外されてしまいました。鏑矢と稲村の試合のクライマックスでは「ウォーッ!」と雄叫びを上げそうになるほど昂ぶってしまいました。伝説の強打者・海老原博幸を彷彿とさせるファイター鏑矢義平に本物の強さを見た。己のパンチの強さに骨が耐えきれず骨折してしまう。たとえ骨折しても戦い続ける魂を持つ者にこそボクシングという競技は相応しい。
読了日:4月11日 著者:百田尚樹


長門守の陰謀 (文春文庫 (192‐5))長門守の陰謀 (文春文庫 (192‐5))感想
五編の短編のうち「夢ぞ見し」が一番のお気に入り。妻女の夫を見る眼の変化がほほえましく、幸せな夫婦のあり方が見えたような気がする。同じ組み合わせの二人でも心の有り様で幸せにも不幸にもなるのだなぁ。「春の雪」と「夕べの光」では損得では計れない女の情の深さに唸ります。「遠い少女」では女の怖さにぞっとします。女ってのは男とは別の生き物なのだとつくづく思う。
読了日:4月12日 著者:藤沢周平

 


珍妃の井戸 (講談社文庫)珍妃の井戸 (講談社文庫)感想
蒼穹の昴』を読んだのは六年も前のこと。『蒼穹の昴』ほどのワクワク感がなく、珍妃殺害の当事者に聴き取りをしていくという単調な展開に途中、読むのを投げ出しかけた。しかし、最後まで読んで良かった。西欧の価値観とは異質ではあっても東洋の高貴な心に触れた気がした。悲しい歴史ではあるが、手前勝手な正義を振りかざす西欧の所行に対するアンチテーゼとしての死に方、しかもそこには互いに高貴な心を持つ二人の思い(あえて「愛」という言葉は使いたくない)があったと知ったとき、私の心は震えました。冗長とも思える前振りに納得した。
読了日:4月15日 著者:浅田次郎


ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語 (大型絵本)ラ・タ・タ・タム―ちいさな機関車のふしぎな物語 (大型絵本)感想
ずっと気になっていた絵本です。私には絵本を読む趣味はありません。しかし、森見登美彦氏の名著『夜は短し歩けよ乙女』に登場する黒髪の乙女が、夏の下鴨神社古書市で探し求めていたのがこの本なのです。そのシーンは私のお気に入りで、2年前の夏には炎天下、自転車を駆って古本市に出かけたくらいです。もちろんこの本を市で見つけることは出来ませんでした。ちなみに彼女は天然です。いや天真爛漫といった方が適切でしょう。純真無垢、無邪気でもあります。必殺技「おともだちパンチ」を持つ可憐な彼女を思い浮かべながら読みました。
読了日:4月17日 著者:ペーター・ニクル


神様のカルテ 3 (小学館文庫)神様のカルテ 3 (小学館文庫)感想
このシリーズを読むとき、私の頭に鉄幹の「人を恋うる歌」が思い浮かぶ。「妻をめとらば才たけて みめ美わしく情ある 友を選ばば書を読みて 六分の侠気四分の熱 恋の命をたずぬれば 名を惜しむかな男ゆえ 友の情けをたずぬれば 義のあるところ火をも踏む 汲めや美酒うたひめに 乙女の知らぬ意気地あり 簿記の筆とる若者に まことの男君を見る」  賢く麗しい情愛あふれる妻に恵まれ、理想と情熱を抱く友に恵まれ、そのような人たちと美味い酒が飲めるならば、人生はこんなにも温かく素晴らしいものになるのだと。人生、斯くありたい。
読了日:4月21日 著者:夏川草介


刀伊入寇 藤原隆家の闘い (実業之日本社文庫)刀伊入寇 藤原隆家の闘い (実業之日本社文庫)感想
さがな者として名を馳せた藤原隆家。その「こころたましひ」が政敵・藤原道長ではなく、外敵・刀伊に向かうように変ずるさまは、人として練れ大成する過程そのものだろう。美しく滅びてゆくものに「雅」を見いだすことこそ、真に強い者だけが持ちうる心境だろう。この国には敗者を美しく称える雅の心がある。この国が亡びれば雅もまた亡びる。だからこそこの国を護りたい。雅やかな美しい心を護りたい。一千年前も今も日本の心は変わらない。
読了日:4月24日 著者:葉室麟

 


川あかり (双葉文庫)川あかり (双葉文庫)感想
「みんな、一生懸命生きているのに、哀しいのは何故なのだろう」 生きていくのは哀しい。しかし、真っ当に懸命に生きていくならば、その哀(かな)しみもいつかは愛(かな)しみに変わる。人を信じる、約束を守る、困った人、弱い者を助ける、当たり前のことを当たり前にする人生を歩みたい。そんな想いに胸を熱くする物語でした。
読了日:4月24日 著者:葉室麟

 

 


ふるさと銀河線 軌道春秋 (双葉文庫)ふるさと銀河線 軌道春秋 (双葉文庫)感想
「さよならだけが人生ならば、また来る春はなんだろう はるかなはるかな地の果てに 咲いている野の百合何だろう」 確かに幸福が遠いときはある。確かに手に入れたと思った幸福もスルリと手からこぼれ落ちてしまうこともある。それでも幸福はいつか自分に寄り添ってくれると信じたい。スルリと手からこぼれ落ちた幸福も、せめて幸福であった瞬間のことは忘れないでいたい。「花発けば風雨多し」の喩えどおり、「サヨナラ」ダケガ人生ナラバ、どうか友よ、コノサカヅキヲ受ケテクレ。心からそう願う。
読了日:4月25日 著者:高田郁


カープ島サカナ作戦 (文春文庫)カープ島サカナ作戦 (文春文庫)感想
ご存じシーナ氏の「赤マント・シリーズ」なのだ。例によって特段役に立つ話など無い。島に行く。ビールを飲む。魚を食う。本を読む。昼寝する。誠に結構ではないか。文句なし。「近頃ちょっとシリアスになりすぎているな、オレ」といった状況下で読むと大変よろしい。身体の力が抜け、脳のねじが緩み、バランスが取れてくる。生きて行くにはバランスが大切だ。椎名氏が読んだという『アブラコの朝 - 北海道田舎暮らし日記』(はた万次郎・著/集英社)と『ハイペリオン』(ダン・シモンズ:著/海外SFノヴェルズ)を発注。
読了日:4月26日 著者:椎名誠


サクラ咲く (光文社文庫)サクラ咲く (光文社文庫)感想
私は今五十四歳。今更、青春でも無いだろうと思いながら読んだ。ところがどうだ。あのころの甘酸っぱいような、ほろ苦いような、不安なのに希望に満ちた、なんとも言いようのない感覚がよみがえってくるようであった。四月ももうすぐ終わろうとしているこの時季に読んだのもよかったのかも知れない。束の間、若返りました。来週には同級生数人といっしょにゴルフをする。しばし三六年前の高校生に戻りますか。
読了日:4月28日 著者:辻村深月

 

 


かないくん (ほぼにちの絵本)かないくん (ほぼにちの絵本)感想
谷川俊太郎さんの詩が絵本になった。死んだらそれで終わりなのか。死んでも、生きているものは何も変わらない。死んだらひとりぼっちなのか。終わりとは何か、始まりとは何か、考えても解らない。解らないから考える。解らないから知りたい。
読了日:4月29日 著者:谷川俊太郎

 

 

 


平台がおまちかね (創元推理文庫)平台がおまちかね (創元推理文庫)感想
世の中にこんなに楽しそうな仕事があったとは。過去、出版社の編集(とりわけ作家担当)だとか、図書館の司書、書店員さんをうらやましく思ってきましたが、そうか、出版社の営業担当があったのだ。これは本好きには天職ではあるまいか。またまたお気に入りシリーズができてしまったようだ。早速、書店に行き『背表紙は歌う』を購入。「成風堂書店事件メモ」シリーズも気になる。『配達あかずきん』『晩夏に捧ぐ』『サイン会はいかが?』も買おう。あっ、その前にジョン・ダニングの未読本を読まねばと、本棚の積読本『災いの古書』を手にとった。
読了日:4月30日 著者:大崎梢


災いの古書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)災いの古書 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
大好きな古書にまつわるミステリ「クリフォード・ジェーンウェイ・シリーズ」第四弾。やっぱりええわ、このシリーズ。五五〇ページ近い長編も、物語に引き込まれて時間を忘れて没頭してしまいました。今巻も意外な結末に驚き、ミステリとしてレベルが高い。しかし、このシリーズの味わいは物語すべてに漂うビブリオマニアの雰囲気。私のような書痴にとって、こうした世界に彷徨えるひとときは堪らなく魅力的