佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

最も遠い銀河(白川道・著/幻冬舎文庫)

『最も遠い銀河(白川道・著/幻冬舎文庫)』を読みました。「「第1巻・冬」475P、「第2巻・春」488P、「第3巻・夏」365P、「第4巻・秋」480P。締めて1,808Pの長編でした。

いやぁ、白川流「滅びの美学」に酔いしれました。

 

まずは出版社による紹介文を引きます。

 

最も遠い銀河〈1〉冬 (幻冬舎文庫)

最も遠い銀河〈1〉冬 (幻冬舎文庫)

 

 

   ■『最も遠い銀河<1>冬』 建築家・桐生晴之は焦れていた。名を売るほどの大きな仕事ができていない現実に。最愛の女との約束、そして彼女を死に追いやった男への復讐心。激情を胸に秘め、成功を目指す晴之。だが、小樽署の元刑事・渡誠一郎が、隠し続けた彼の過去に迫る。出会うはずのない二人が追う者と追われる者になった時、それぞれの宿命が彼らを飲み込んでいく――。

 

最も遠い銀河〈2〉春 (幻冬舎文庫)

最も遠い銀河〈2〉春 (幻冬舎文庫)

 

 ■『最も遠い銀河<2>春』 渡誠一郎は悔いていた。八年前に小樽の海に遺棄された女性の身元を割り出せなかったことを。死体が揚がったのは、愛娘が不運な事故で命を落とした場所でもあった。退官してなお消えない執念は、事件解決への僅かな手がかりから再燃する。そして、名前すらわからぬ一人の男を追い詰めていく。だが、既に誠一郎の肉体は癌に深く蝕まれていた……。

 

最も遠い銀河〈3〉夏 (幻冬舎文庫)

最も遠い銀河〈3〉夏 (幻冬舎文庫)

 

  ■『最も遠い銀河<3>夏』 ついに晴之の名前を突き止めた誠一郎。一方の晴之は、大きなチャンスを前にしていた。超巨大企業「サンライズ実業」が極秘で進めるホテル建設のプロジェクト。彼は、金と欲と思惑が渦巻くその企業の中枢に食い込み、設計の仕事を得ようとする。だが、不良時代からの親友が、自らの命を犠牲にして起こした事件が運命を大きく狂わせてしまう……。

 

最も遠い銀河〈4〉秋 (幻冬舎文庫)

最も遠い銀河〈4〉秋 (幻冬舎文庫)

 

  ■『最も遠い銀河<4>秋』 信じた友の、命を賭した凶行。晴之の成功は、日陰に生まれ落ちた者たちの悲願に変わった。哀しみと期待を一身に背負い、悲壮な決意で道を切り開く晴之。そして、彼に対して深い理解を示しながらも執拗に追い詰めていく誠一郎。ついに二人が対峙した時、運命は優しく微笑むのか、それとも――。人が人として生きる意味を問う感動巨編、完結!

 

  全編を通じて漂うのは幸せを願い懸命に生きる主人公がいつかは成功するのではないかという期待感と、もう少しで手が届きそうな成功がいつもするりと逃げてしまう焦燥感。貧しい家に生まれ最下層に生きていても、才能があり努力さえすればいつかは日の当たる場所で生きることができると信じる祈りにも似た生き方に対し、そのように生きる者に決して優しくはない世の中の有り様のやりきれなさ。それを白川氏は1,800Pを超える物語に仕立て上げた。

 物語を象徴する詩がある。主人公・桐生晴之が新宿の路上で名もなき若い女(李京愛)が売っていた詩集にあった一編である。

       光、生まれる朝

       光、支配する午後

       光、眠る夜

       生まれ出でたる光輝かざれば、夜の闇に朽ちるのみ
      
      一瞬の光は永遠の輝きをもって遠い銀河に眠る

 

 この詩は彼女の母が彼女に対して言っていた言葉が基になっている。

「光が生まれる朝は誰にも平等だ。でも、日が昇るにつれて世の中は不平等になってゆく」

 主人公・桐生晴之と幼なじみの江畑美里は「陽の当たらない場所に落ちた種子」。世の中には幸運にも「陽の当たる場所に落ちた種子」もある。しかし種子は自分で落ちる場所を選べない。たとえ光が生まれる朝はすべての人に平等に訪れても、その光はすべての人に平等に当たるわけではない。白川氏はそんな主人公たちに安直な幸せを許さない。不平等を嘆いて日陰に落ちた種子だから仕方ないとは言わせない。日陰に落ちた種子たちに「矜持」だけは棄てさせないのだ。その「矜持」こそが永遠の輝きを持って遠い銀河に眠るのだと言っている気がする。