佐々陽太朗の日記

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想像ラジオ(いとうせいこう・著/河出文庫)

『想像ラジオ』(いとうせいこう・著/河出文庫)を読みました。

まずは出版社の紹介文を引きます。

深夜二時四十六分。海沿いの小さな町を見下ろす杉の木のてっぺんから、「想像」という電波を使って「あなたの想像力の中」だけで聴こえるという、ラジオ番組のオンエアを始めたDJアーク。その理由は―東日本大震災を背景に、生者と死者の新たな関係を描き出しベストセラーとなった著者代表作。

 

想像ラジオ (河出文庫)

想像ラジオ (河出文庫)

 

 

 私はあちら側の人間ではない。私には想像ラジオが聞こえない。2011年3月11日の翌日、私は瀬戸内の穏やかな海をみながら島々を巡っていた。彼の地ではあれほどの惨状であったにもかかわらず・・・である。まったく無関心であったわけではない。あれほどの地異であれば、いかに縁もゆかりもないといっても心に重くのしかかる。私のとったのんびりとした行為は、私に意味もなく罪悪感をもたらした。そうではあっても、私はこちら側の人間なのだ。私には想像ラジオが聞こえない。

  マスコミの決まり文句に「震災の記憶を風化させてはならない」というのがある。この決まり文句は、たとえば「震災」が「戦争」であったり「事件」であったりと様々なバリエーションを持つ。私はこの「風化させてはならない」という言葉に強い違和感を感じるのである。さらにそのような言葉をしかつめらしく吐く輩を疎ましく思う。

 風化させてはならないのは震災の惨状の記憶ではない。偶然に起こった地異のために、あるとき突然に命を絶たれた者の無念を想い記憶せよということでもないだろう。さらに、自分がたまたまその被害を免れたことを理由として、死者に対して罪の意識を持たなければならないなどということでも無いだろう。むしろ誰に対してもそのような十字架を背負うことを強いてはならないのだと思う。風化させてはならないもの、それは逆境にあって尚、他を思いやり私事より公を優先した心のあり方、混沌、無秩序の状態にあって尚、略奪行為など社会を脅かすことのなかった心のあり方だろう。「弱い者を助けよ」と叫ぶばかりで自らは何もせず、権力批判に終始しているマスコミに同調することなく、救いのない境遇にあって尚、他に迷惑をかけまいと懸命に努力する日本人の心のあり方、それこそが「けっして風化させてはならないもの」だろう。

 


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A.C.ジョビン『三月の水』菊地成孔による解説付き 2011.10.2 - YouTube