『悪夢の身代金』(木下半太・著/幻冬舎文庫)を読みました。ふり返ってみればこの悪夢シリーズも2009年11月12日に『悪夢のエレベーター』を読んで以来、計9冊を数えるまでになった。
まずは出版社の紹介文を引きます。
クリスマス・イヴ、女子高生・知子の目の前でサンタクロースが車に轢かれた! 瀕死のサンタは、1億円の入った袋を知子に託す。「僕の代わりに身代金を運んでくれ。娘が殺される」。知子は見知らぬ家族のために疾走するが、有名サッカー選手に眼帯女など、怪しい人物に狙われ、金は次々と別の手に。裏切りが、新たな裏切りを呼び、驚愕の結末へ。
このシリーズ、どれを読んでもドタバタで少々下品だが、場面展開がめまぐるしく意外性の連続。文章は読みやすく、場面が変わるごとに読者の新たな興味を引く設定が凝らしてあり、スピード感を持ってグイグイ読める。読み手が正しいと認識していた世界が次々と違う顔を見せ、いつの間にか何が正しいのかわからなくなる。そしてついには世界がひっくり返っている。一言で言うとオモシロいのだ。
娯楽性を追求しているという意味では、木下氏の小説に教訓はない。しかし、本書に出てきた「カエルとサソリの逸話」は人という生き物の本質を突いている。ありきたりな人生を歩んでいない木下氏ならではの洞察力というべきか。