『新版 落語手帖』(矢野誠一・著/講談社)に紹介された274席のうちの6席目は『穴どろ』。別名は『穴庫(あなぐら)の泥棒』あるいは『晦日の三両』という。
穴庫は江戸時代、火事に備えて作られた大きな穴。いざというときにはそこに大事な財産を放り込み砂をかけ厚い天井板でふたをしてしまう。蔵が火事で燃えてしまっても穴に埋めた財産だけは無事に残るというもの。
あらすじは以下のとおり。
大晦日に三両の工面ができずかみさんに叱られて家を飛び出した男、ぼんやり歩いていると大きな家の前に出た。ちょうど若い衆が遊びに出たところで木戸があいている。そっと中に入ってちらかっている酒や食物にありついた後、誤って穴ぐらに落ちてしまう。そのうち泥棒がいるというので大さわぎ。頭のところのいせいのいい男が「ひとつあたくしがひねりつぶして…」と飛んできたが穴ぐらの中で「降りてくりゃまたぐらへくらいつくぞ」などとどなっているのでしりごみする。旦那が「一両礼をするが上げてくれ」「しかし困りましたなあ」「じゃあ二両あげるから…」「どうもいけません」「盗人に追い銭だ。三両出そう」すると泥棒が「なに、三両、三両なら俺の方から上がっていく」
話は単純でサゲも分かりやすい。この噺の味わいは男が「三両くれるなら俺の方から上がっていく」というところでストンと終わっているところ。この後、男が泥棒として捕まるのか、家主から説教されるのか、同情されて三両をめぐんでもらうのか、そうしたことが全く語られない。そこは聞き手の想像に任された余白だ。この余白をどう埋めるのか、あれこれ想像するのが楽しい。
八代目橘家圓蔵 - 穴どろ