佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

YouTubeで落語 Vol.007 『鮑のし』

 『新版 落語手帖』(矢野誠一・著/講談社)に紹介された274席のうちの7席目は『鮑のし』。上方落語の『祝いのし』が東京に移植されたものです。

 あらすじは以下のとおり。

甚兵衛(上方では喜六)はついでに生きているようなおめでたい男。今日も「お城の堀に乙姫様が現れる」とだまされ、仕事を放り出して堀の前で過ごしているありさまで、稼ぎが一銭もなく、飯が食えない。すっかり腹を減らして家に帰り、妻に「何か食わしてくれ」とせがむと、妻は
「おまんまが食いたかったら佐々木さんちで五十銭借りてきな」
という。甚兵衛は、以前佐々木さんに金を借りに行ってすげなく断られたことがあったので不安に思うが、「ウチのかみさんが借りるんです」と伝えると、すんなり貸してくれた。納得しかねるまま家に帰ると、今度は「魚屋へ行き、その金で鯛の尾頭付きを買って来い」と命じられる。
「今日、大家さんの息子さんが嫁を迎えるんだよ。そのお祝いだと言って大家さんに尾頭付きを持って行けば、お返しにお金を一円ほどくれるだろうから、その金で米を買って飯を食わせてやる」
ところが、魚屋に行くと鯛は五円するので、買えない。しかたなく、アワビ三杯を五十銭でなんとか買ってきた。妻は渋い顔をしたが、仕方がないとあきらめて、今度は大家のところで言う口上を教える。
「こんちはいいお天気でございます。承(うけたまわ)りますれば、お宅さまの若だんなさまにお嫁御さまがおいでになるそうで、おめでとうございます。いずれ長屋からつなぎ(長屋全体からの祝儀)が参りますけれど、これはそのほか(個人としての祝い)でございます」
「つなぎ」を強調し、何とか金をもらって来い、と妻は必死に口上を覚えさせて甚兵衛さんを送り出す。
甚兵衛は大家に会うなり、いきなり大声で「一円くれ!」。その後「こんちは」を連発したり、「承りますれば」を「ウケマタマタガレ」などと言い間違えたりしながらも、何とか口上を言いきってアワビを差し出したが、大家は怒って、これは受け取れないと言い出した。
「アワビはな、またの名を『片貝』ともいい、縁起の悪い貝なんだ。『磯の鮑の片思い』という言葉もある。うちの息子を別れさせたいのか」
甚兵衛はアワビを投げつけられ、追い出されてしまった。すごすご帰る途中で、甚兵衛は親分と会った。話を聞いた親分は、ひとつ意趣返しをしてやれ、と知恵を授けた。
「祝い物には『のし』ってやつが付いているだろう、あれの原料はアワビなんだよ。伊勢の海女が深い海に潜り、命からがら取ってきたアワビをムシロに並べて、それを仲のいい夫婦の布団の下に一晩敷いて、のしに仕上げるのだ。そんなめでたいアワビを、なんで受け取らないのだ!! そう言って怒鳴り込んでやれ。土足で座敷に駆け上がって、クルッと尻をまくってやれ!」
「今、ふんどし締めてねぇ」
親方はさらに続ける。「あの大家の事だから、ついでにこんな質問をしてくるだろう。『アワビの代用に、仮名で、のし、とつながった形で書いたやつ(わらびのしなど)があるが、あれは何だ?』って聞いてくるだろうから、こう言ってやるんだよ。『あれはアワビのむきかけです』ってな」
知恵をつけられて、やる気になった甚兵衛は激しい勢いで大家宅へ突入。土足で座敷に上がり込み、
「クルッと尻をまくってやりたいところだが、事情があって今日はできねぇ。よく聞けェ」
所々つっかえながらも、何とかのしの由来を言いきった甚兵衛。感心した大家は、「もう一円上げるから、ついでに……」と親分の予想通りの質問をし、甚兵衛はひるまず首尾よく答えた。
「なるほど。じゃあ今度は二円あげるから、もう一つ。一本杖をついたような『乃し』と書かれたのがあるが、あれは一体何だ」
「えっ、あの、それは……。ああ、アワビのお爺さんでしょう」 

  •  磯のアワビの片思い:アワビの貝殻が片面だけなので、「片思い」と掛けた洒落。
  • 「あわびのし」は、本来はアワビの一片を方形の色紙に包んだもので、古く室町時代から、婚礼の引き出物として珍重されましたが、紀州産限定で生産量が少なく、次第に「の」「乃」など、文字で代用したものが普及した。

林家木久扇さんのがありました。

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