佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『ねぇ、委員長』(市川拓司・著/幻冬舎文庫)

『ねぇ、委員長』(市川拓司・著/幻冬舎文庫)を読みました。

まずは出版社の紹介文を引きます。

学級委員長のわたしは、貧血の時に助けてもらったことから、落ちこぼれの鹿山くんと親しくなる。読書が苦手だと言う彼に、わたしはある小説を薦め、それは彼の思わぬ才能を開花させるきっかけとなった。だが周囲の反対で、二人は会えなくなってしまい……。実らなかった初恋が時空を超えて今の自分に届く。表題作ほか二作を収めた傑作恋愛小説集。 

 

ねえ、委員長 (幻冬舎文庫)

ねえ、委員長 (幻冬舎文庫)

 

 

 繊細で傷つきやすい若者がいる。彼は同級生の無神経さに自然と距離をおいている。しかし無神経な同級生は、その無神経さを最大限に発揮して彼を放っておいてはくれない。彼の同級生は彼が皆とは違う精神的高みにいることを薄々感じる程度には神経が通っているのだ。ただそれがどう言うことなのかを考えるだけの頭がない。あるいはそんな面倒くさいことをする習慣が無いのだ。ただただ友達と馬鹿話をし、ゲームに興じていれば時間が過ぎる。いつかは生きていくうえでの問題に一人で真剣に対峙しなければならないのだが、友達と群れていれば「みんな一緒だから」と目をそらしていられる。それでいいはずはないと薄々気づきながらそこから逃げているだけだ。そのことに対する苛立ちの代償が孤高を保つ者への攻撃、つまり彼に対するからかいやイジメになる。理由は自分たちと違うから、それだけだ。
 彼はそんな周りの人間から体をかわして受け流すことをしない。不器用なのだ。あるいは彼の若さがそのような理不尽から体をかわすことを「負け」と感じてしまうのかもしれない。彼は繊細で傷つきやすくはあっても気概があり、理不尽に耐えるだけの強さを持っている。
 第一話「Your song」はそんな彼の良さ(魅力)に気づいた女の子の話。
 
 三編とも人とは違う美しさ、才能を持ちながら周りから理解されず孤高を保って生きている人を好きになる話だ。
 
”誰かの美点に気づく者は少ないけれど、揚げ足とりや間違い探しが得意な人間は掃いて捨てるほどいる。そういうことなのだ。”
 
 著者自身が発達障害の一つ、知的障害を伴わない「アスペルガー症候群」(「自閉症スペクトラム」と総称)であって、子どもの頃は手の付けられない問題児とされていたこと。三編ともがそんな経験を持つ著者の魂の叫びだ。
 市川氏の小説はまだまだ完成されてはいないと感じる。磨き上げればもっと洗練された作品になるだろう。しかしそれはテクニカルな問題であって、小説の本質ではない。氏の小説には”真実の声”があり”切実ななにか”がある。私の読みたいのはそれなのだ。
 恋愛小説を読んで泣いたのは久しぶりです。