佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2016年11月の読書メーター

 先月の発見はなんといっても市川拓司氏だろう。映画化されて有名だったが、だからこそあえて読むのを避けてきた。たまたま読んでみたらはまったというところ。やはり読まず嫌いは良くない。そこから作中に出てきたアラン・シリトー再読の流れとなり、今現在はカート・ヴォネガットタイタンの妖女』を読んでいる。小説を読む楽しみのひとつは作中に出てきた小説を読むことにある。大体において作家が自分の小説中で名を出すような小説には名作が多い。そうしたものを見つけたとき、読まない手は無い。巡り会った機会に身を任せ読み進めると思わぬ収穫がある。これまで読まなかった小説を読み、その小説から派生してまた新たな小説を読むという読書サーフィンのような状態がしばらく続くことがある。次から次へと押し寄せてくる小説の波を乗りこなす快感は何物にも代えがたい。

 

2016年11月の読書メーター
読んだ本の数:8冊
読んだページ数:2291ページ
ナイス数:1196ナイス

続・森崎書店の日々 (小学館文庫)続・森崎書店の日々 (小学館文庫)感想
今日のように肌寒い日には、こんな風に心がほっこり温かくなる本が合っている。それにしても神保町に住みたい。
読了日:11月23日 著者:八木沢里志
いま、会いにゆきます (小学館文庫)いま、会いにゆきます (小学館文庫)感想
この種の小説を読むのはカッコワルイ。こっぱずかしいのだ。しかしやはりボロボロ泣いてしまった。この小説は加納朋子氏の『ささらさや』の如く家族を想う愛の小説として、恩田陸氏の『ライオンハート』あるいはロバート・ネイサン氏の『ジェニーの肖像』のように時を超えた奇跡を描いたファンタジーとして並び称されるべきだ。人からカッコワルイと思われたくなければ読まなければいい。笑わば笑え。そういうことだ。http://jhon-wells.hatenablog.com/entry/2016/11/23/014916
読了日:11月21日 著者:市川拓司


土曜の夜と日曜の朝 (新潮文庫 赤 68-2)土曜の夜と日曜の朝 (新潮文庫 赤 68-2)感想
『長距離走者の孤独』もそうであったが、本書『土曜の夜と日曜の朝』も権力や体制、規則、秩序に対する反抗が底流にある。特に公序良俗といった目には見えないが確かに在る抑圧からのエスケープや破壊衝動はどの国の若者にも共通する意識だろう。しかし、本書で主人公アーサーが持つ気分は階級社会のイギリスならではのものがある気がする。イギリスにおいては階級によって言葉のアクセントが違い、服装も読む新聞も違うという。とすれば階級は言ってみればその人の流儀であって、虐げられているという被害者的なものではないといえる。
読了日:11月17日 著者:アラン・シリトー


口入れ屋おふく 昨日みた夢 (角川文庫)口入れ屋おふく 昨日みた夢 (角川文庫)感想
本書で、宇江佐さんは人の品性を問うているように感じた。その人の品性が仕事に対する姿勢に現れる。あるいは妻や母親、使用人など人に対する姿勢に現れる。私は常々「口で言っていることは建前であって、本音はその人のやっていること、行動に現れる」と考えている。その意味でも宇江佐さんの凜とした晩節を心から礼讃するものである。宇江佐さんがおふくにどのような幸せを用意していたのか、今となっては知る由もない。しかし誠実に仕事をするおふくにとびきりの幸せを用意していたに違いないのだ。それを読むことが出来ないのがなんとも悔しい。
読了日:11月14日 著者:宇江佐真理


日本の朝ごはん (新潮文庫)日本の朝ごはん (新潮文庫)感想
旅に持って出たい本がある。たとえば椎名誠氏、開高健氏、太田和彦氏の本などがそれである。私の場合、本棚に未読本が二百冊ばかりある。その日その日で何を読むか考えて文庫本を持って出る。今日、長崎への一泊二日旅行に持って出たのがこの本である。美味しい朝ごはんの二十話。朝ごはんだからもちろん日常である。しかし、本当に美味しい朝ごはんに出会っている人はことのほか少ないのではないか。その土地でなければ味わえない新鮮な食材を当たり前に食べる贅沢。しかもそれが身体に良いとなれば何物にも代えがたい最高の贅沢である。
読了日:11月13日 著者:向笠千恵子


長距離走者の孤独 (集英社文庫 1-A)長距離走者の孤独 (集英社文庫 1-A)感想
三回目の再読。初読は高校生の頃、素直なエリート高校生(?笑)だった私にはピンとこなかった記憶があります。ただ、決して裕福に育ったわけではなく、かなり欠点が多く調子の悪い人格でしたのでその意味では分からなくもなかったというところでしょうか。再読したのは30歳前後だったでしょうか。当時、私は世の中の不条理や権威のうさんくささよりも小市民的な幸せを追い求めておりました。そして今回。ある程度の経験を重ね、少しはものを観てきた自分には読み応えがありました。少しは人間というものが分かりかけているのかも知れません。
読了日:11月10日 著者:アラン・シリトー


これは経費で落ちません!  ~経理部の森若さん~ (集英社オレンジ文庫)これは経費で落ちません! ~経理部の森若さん~ (集英社オレンジ文庫)感想
この小説は好きではまる人とつまらないと切って捨てる人に分かれるでしょうね。私は前者です。こうした小説を読むと厳しい仕事の日々に温もりと彩りが添えられるような気がします。幸せな気分になれます。「最近、心がささくれ立っているな」と感じたら処方箋としてオススメの本です。
読了日:11月5日 著者:青木祐子

 


ねえ、委員長 (幻冬舎文庫)ねえ、委員長 (幻冬舎文庫)感想
三編とも人とは違う美しさ、才能を持ちながら周りから理解されず孤高を保って生きている人を好きになる話だ。”誰かの美点に気づく者は少ないけれど、揚げ足とりや間違い探しが得意な人間は掃いて捨てるほどいる。そういうことなのだ。” 著者自身が発達障害の一つ自閉症スペクトラム」であって、子どもの頃は手の付けられない問題児とされていたこと。三編ともがそんな経験を持つ著者の魂の叫びだ。小説としてまだまだ洗練されていないと感じる。しかしそれはテクニカルな問題であって、小説の本質ではない。氏の小説には”切実ななにか”がある。
読了日:11月1日 著者:市川拓司

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