佐々陽太朗の日記

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『黒書院の六兵衛 上・下』(浅田次郎・著/文春文庫)

 『黒書院の六兵衛 上・下』(浅田次郎・著/文春文庫)を読みました。まずは出版社の紹介文を引きます。

【上巻】

江戸城明渡しの日が近づく中、
てこでも動かぬ旗本がひとり━━。

新政府への引き渡しが迫る中、いてはならぬ旧幕臣に右往左往する城中。
ましてや、西郷隆盛は、その旗本を腕ずく力ずくで引きずり出してはならぬという。
外は上野の彰義隊と官軍、欧米列強の軍勢が睨み合い、一触即発の危機。悶着など起こそうものなら、江戸は戦になる。この謎の旗本、いったい何者なのか―。

周囲の困惑をよそに居座りを続ける六兵衛。城中の誰もが遠ざけ、おそれ、追い出せない。
そんな最中、あれ?六兵衛の姿が見えぬ!?
勝海舟西郷隆盛をはじめ、大物たちも顔をだす、奇想天外な面白さ。
……現代のサラリーマンに通じる組織人の悲喜こもごもを、ユーモラスに描いた傑作。

 

【下巻】

天朝様が江戸城に玉体を運ばれる日が近づく。
が、六兵衛は、いまだ無言で居座り続けている……。
虎の間から、松の廊下の奥へ詰席を格上げしながら、居座るその姿は、実に威風堂々とし日の打ち所がない。
それは、まさに武士道の権化──。
だが、この先、どうなる、六兵衛!

浅田調に笑いながら読んでいると、いつの間にか、連れてこられた場所には、人としての義が立ち現れ、思わず背筋がのび、清涼な風が流れ込んでくる。
奇想天外な面白さの傑作です。

解説・青山文平

 

 

黒書院の六兵衛 上 (文春文庫)

黒書院の六兵衛 上 (文春文庫)

 
黒書院の六兵衛 下 (文春文庫)

黒書院の六兵衛 下 (文春文庫)

 

 

 官軍のにわか先見隊長を命ぜられ加倉井隼人が江戸城に送り込まれてから、大村益次郎木戸孝允らが江戸城に入城するあたりまで、この物語は冗長である。そう思っていた。しかしどうだ。下巻の半ばを過ぎてからの展開に心が震えた。図らずも嗚咽がこみあげてきた。冗長と思われた前フリはこのためにあったのだと気付く。浅田氏の筆によって吐露された登場人物の胸懐は、読み手の心に灯をともし、心はやがて激しく高ぶる。撓めに撓めた弓矢が一気に放たれるが如く、我が内なる魂が奔流となって昇華していくとき、一筋の涙が零れ落ちた。浅田氏にはいつもやられてしまう。