佐々陽太朗の日記

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『フロスト始末 A KILLING FROST』(R・D・ウィングフィールド:著/芹澤恵:訳/創元推理文庫)

『フロスト始末 A KILLING FROST』(R・D・ウィングフィールド:著/芹澤恵:訳/創元推理文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

【上巻】今宵も人手不足のデントン署において、運悪く署に居合わせたフロスト警部は、強姦・脅迫・失踪と、次々起こる厄介な事件をまとめて担当させられる。警部がそれらの捜査に追われている裏で、マレット署長は新たに着任したスキナー主任警部と組み、フロストをよその署に異動させようと企んでいた……。史上最大のピンチに陥った警部の苦闘を描く、超人気警察小説シリーズ最終作。

【下巻】マレット署長とスキナー主任警部の差し金により、デントン署を去る日が刻一刻と迫るなか、フロスト警部が抱える未解決事件の数は、一向に減る気配を見せない。疲れた身体に鞭打ち、わずかな部下を率いて捜査の指揮を執る警部に、異動を回避する妙案が浮かぶはずもない。法規を無視し、犯人との大立ち回りまで演じる、いつも以上に破れかぶれなフロストが最後につける始末とは? 解説=小山正 

 

フロスト始末〈上〉 (創元推理文庫)

フロスト始末〈上〉 (創元推理文庫)

 
フロスト始末〈下〉 (創元推理文庫)

フロスト始末〈下〉 (創元推理文庫)

 

 

 上巻453P、下巻468Pという900頁を超える長尺も、このシリーズだけは苦痛ではない。読み進めるに従って残り頁が少なくなっていくのが哀しかった。なにせ本作はR・D・ウィングフィールドの遺作なのだ。少々下品でいいかげんなフロストだが、いつまでも読んでいたいほど愛おしいではないか。

 今作ではいけ好かないマレット署長に輪を掛けたくそ野郎、スキナーでぶゴジラ主任警部が登場!「マレット+スキナー」くそコンビ、こいつは強烈です。さらに、スキナーに陰湿にいびられているうら若き乙女警官ケイト・ホールビーが登場するに至っては、読者は否応なしにフロスト贔屓にならざるを得ないではないか。がんばれフロスト、負けるなケイト。早く読みたい気持ちと読み終えるのが寂しい気持ちの相剋に身もだえしながらの読書となった。

 今作においても不屈の仕事中毒、下品なジョークと愚痴を口にしながら不眠不休の活躍を見せるのはいつものフロスト警部だ。飽き性の人は、またかとうんざりするかもしれないが、シリーズもののよさはこうしたところにある。フロスト警部ファンはそれを期待しているのだから。長くシリーズを読むうち、すっかりフロストを好きになってしまっているのだ。しかし本作がウィングフィールドの遺作となれば、何をどうしてもフロスト警部とおさらばしなければならない。寂しいことだ。

 だがなんと、ウィングフィールド亡き後、遺族の許可を得た二人組の作家(J・グーバットとH・サットン)がジェームズ・ヘンリーなるペンネームで巡査部長時代のフロストを主人公とした長編を発表し始めたらしい。「さらばフロスト警部、フロスト巡査部長よこんにちは」と浮かれてしまった。しかしそこで私ははたと気付いた。私は原書が読めない。東京創元社さん、芹澤恵さん、なんとかしていただきたい。迷えるミステリ・ファンを救い給え。

 別作家による若き日のフロストの物語はともかく、私はこのシリーズをもう一度読み返すことだろう。5年後か10年後、いつになるかはわからないがきっと読み返したくなる。そんな確信めいたものが私の心の内にある。