まずは出版社の紹介文を引きます。
幼なじみの多津が嫁ぐ相手には隠し子がいる。それを教えてあげようとして初めて、直弥は自分が多津をずっと愛していたのだと気づく。そうであるからには隠し子のことは告げるわけにはいかない。中傷になるから…。その後の二人のたどる歳月を通し、人生の深い味わいを感動的に語りかけた表題作。ほかに「矢押の樋」「愚鈍物語」「椿説女嫌い」「蘭」「渡の求婚」など全11篇を収める。
古本屋の文庫書棚を何気なくながめていて、ふと手に取った一冊。やはり春だからだろう。しかし花とは桜ではなく蜜柑だった。蜜柑であれば花匂うのは5月頃だろうか。
蜜柑の花言葉は清純とか親愛であるらしい。この短編『花匂う』の主題は秘めたる思い、そして変わらぬ心。長い歳月を過ごしてなお変わらぬ思いを持ち続けた二人に山本氏は祝福を与える。心あたたまる結末。小説はこうでなければいけません。
他にも10編の秀作。武士の矜持と志、友情、ユーモアなど、どの短編もそれぞれ面白い。