佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『神様のカルテ 0』(夏川草介・著/小学館文庫)

神様のカルテ 0』(夏川草介・著/小学館文庫)を読みました。

 出版社の方と知り合う機会に恵まれ、その方と本についてあれこれ話すうちに本書を送っていただけることになったのだ。Iさん、ありがとうございました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 

ベストセラー『神カル』の原点!

上橋菜穂子さん推薦!
「命というものの深みに届きながら、
信州の風のような爽快さと、静かな明るさがある。
これこそ夏川さんの筆の、魔法です」

シリーズ大ヒットのベストセラー『神様のカルテ』にまつわる人々の前日譚であり、かつ珠玉の短編集です。栗原一止は、信州にある24時間365日営業の本庄病院で働く内科医。本作では、医師国家試験直前の一止とその仲間たちの友情、本庄病院の内科部長・板垣(大狸)先生と敵対する事務長・金山弁二の不思議な交流、研修医となり本庄病院で働くことになった一止の医師としての葛藤と、山岳写真家である一止の妻・榛名の信念が描かれます。ますます深度を増す「神カル」ワールドをお楽しみください。

 

神様のカルテ0 (小学館文庫)

神様のカルテ0 (小学館文庫)

 

 

 本シリーズを1~3まで読んできて、0があることをつい最近知った。そうか、その方法があったかと感心した。主人公の学生時代と病院勤務を始めた頃のストーリー。このシリーズの原点というか、バックストーリーの部分が主要な登場人物の物語として語られる。

 私は題名である『神様のカルテ』の意味を私は勝手に「患者にとことん親身に寄り添う医者(本作では栗原一止)が患者のために誠心誠意書いたカルテ」のことだと解釈していた。どうやらそれはまったく的外れだったようだ。『神様のカルテ』とは人にはそれぞれ神様が書いたカルテがあるのだということ。そしてそのカルテは人によって書き変えることは出来ない。つまり医者がいくらがんばったところで、患者の人生が大きく変わることはない。生きるときは生き、死ぬときは死ぬ。医者は無力だということ。では、医者はどうすれば良いのか。夏川氏は登場人物の大狸せんせいの口を通じて「それを考えるのが、医者の仕事だ。命に対して傲慢になることなく、限られた命の中で何が出来るかを真剣に考える」ことだと語らせる。実際に医師として勤務なさっている夏川氏の言葉だけに深い。

 また本書の中に「本を読む」ことについて主人公・一止とある患者とが話す場面がある。意訳すると「本には”正しい答え”が書いてあるわけではない。本が教えてくれるのは自分ではない他の人の人生。たくさんの本を読んで、たくさんの人の人生を体験できれば、たくさんの人の気持ちがわかるようになる。困っている人、怒っている人、悲しんでいる人、喜んでいる人、そうした人の気持ちがわかるようになると”優しい人間になれる”」というのだ。さらに「優しさ」とは「相手が何を考えているのかを考える力、つまり想像力」であるという。

 本シリーズに登場する人物のひたむきさ、ある種の優しさの根底にある考えが少しわかったような気がする。私はこのシリーズが好きだ。このシリーズに描かれる生真面目でやさしく温かい世界が好きだ。現実はそんなもんじゃない。しかし、世知辛い現実の中にも温かさや優しさは確かにある。いくら辛いことがあったとしても、生きていればきっと良いこともあるよといえるだけの素晴らしいものが人生にはきっとある。本シリーズを読めばそう言い切ってしまっても良い気持ちにさせられる。それも「本を読む」ことの効用であろう。

 さて、『神様のカルテ 4』ははたして出版されるのだろうか。それともそれぞれの登場人物を主人公としたスピンオフ小説が書かれるのだろうか。楽しみにしております。

 

 

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