佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『つばき』(山本一力・著/光文社時代小説文庫)

『つばき』(山本一力・著/光文社時代小説文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を紹介します。

つばきは、深川に移り住み、浅草で繁盛していた一膳飯屋「だいこん」を開業した。評判は上々だが、「出る杭は打たれる」とばかりに、商売繁盛を快く思わない者もいた。廻漕問屋「木島屋」から、弁当を百個こしらえてほしいという大口の注文を受けたのだが……。浅草とは仕来りの違う深川に馴染もうと、つばきは奮闘する。祭の興奮と職人たちの気概あふれる深川繁盛記。

 

つばき (光文社時代小説文庫)

つばき (光文社時代小説文庫)

 

 

  私が浅草を舞台にした前作『だいこん』を読んだのは2009年の9月のこと。もう九年近く前のことだ。気丈で凜とした生き方をするつばきは健在です。そしてそうしたつばきを周りから応援する人情も深川においてなお深まったように思える。こうした人情噺が描く価値観は多くの日本人が心の奥底に持つ原点であろう。フィクションでありながらつばきの幸せを願わずにいられない。惜しむらくは深川で店を始めた頃、大店の木島屋を騙って大口の注文をしたいきさつが拡がりを持って描かれなかったこと。山本氏はちょっとした悪意という設定で書かれたのかもしれないが、たとえばその裏にはつばきに怨恨を持つに至った意外な真実が隠されていたといった展開が欲しかった気がする。作者の苦労も知らず欲張りを言ってすみません。

 

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