佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『日日是好日』(森下典子・著/新潮文庫)

『日日是好日』(森下典子・著/新潮文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

お茶を習い始めて二十五年。就職につまずき、いつも不安で自分の居場所を探し続けた日々。失恋、父の死という悲しみのなかで、気がつけば、そばに「お茶」があった。がんじがらめの決まりごとの向こうに、やがて見えてきた自由。「ここにいるだけでよい」という心の安息。雨が匂う、雨の一粒一粒が聴こえる……季節を五感で味わう歓びとともに、「いま、生きている!」その感動を鮮やかに綴る。

 

日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)

日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ (新潮文庫)

 

 

 心からこの本に出会えて良かったと思う。私は茶道について全く知らない。この本を読むまでは「抹茶は茶碗に残さないように、最後は音を立てて飲みきる」のが作法だということすら知らず、音を立てるのはマナー違反だとまで思っていたぐらいだ。読んで良かったのは、そのような作法がわかったからではない。森下さんが25年間お茶を続けてこられて、季節のサイクルに沿った日本人の暮らしの美学と哲学を、自分の体に経験させながら知り、それこそ森下さんの血となり肉となるに至ったというお茶の心を知ることが出来たからである。いやいや、本を読んだぐらいではまだまだ知るに至ってはいない。一生涯、季節季節の変化を感じ、感覚を磨くことで昨日の自分より少しずつ成長し続ける--そのような積み重ねがあってはじめて到達することが出来る境地があることを知ることが出来たからである。

 たとえば「音を聴く」ということ。 お湯は「とろとろ」と、まろやかな音。水は「キラキラ」と、硬く澄んだ音。音が違う。 十一月の雨は、しおしおと寂しげに土にしみ込んでいく。六月の雨音は若い葉が雨をはね返す音。梅雨と秋雨の違いを感じる。『 雨の日は、雨を聴く。雪の日は、雪を見る。夏には、暑さを、冬には、身の切れるような寒さを味わう。・・・・・・どんな日も、その日を存分に味わう。お茶とは、そういう「生き方」なのだ。』(本書P217より引用)ということをこの本は教えてくれる。

 茶道にせよ、華道、剣道、なんにせよ達人がいる。「道」などという大層なものでなくても、たとえば散歩であったり、洗濯であったり、そのような日常茶飯なことにも、その時その時のことをおろそかにせず、きちんとやり続けていれば、いつか別次元の境地に至る。形から入って心に至る。体と心がひとつになって、美しい所作が生まれる。何も考えていないようでいて、細かなことにまで行き届いている。ゆったりと余裕持ちながらも、凜とした気配を漂わせる。それこそが日本の美学なのだと思う。

 良き読書時間でした。

 

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