佐々陽太朗の日記

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『裏の木戸はあいている 山本周五郎 名品館 Ⅱ』(山本周五郎・著/沢木耕太郎・編/文春文庫)

裏の木戸はあいている 山本周五郎 名品館 Ⅱ』(山本周五郎・著/沢木耕太郎・編/文春文庫)を読みました。

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 まずは出版社の紹介文を引きます。

没後50年、いまもなお読み継がれる巨匠の傑作短篇から、沢木耕太郎が選び抜いた名品。
山本周五郎の世界へ誘う格好の入門書であり、その作家的本質と高みを知ることができる傑作短篇集の第2弾!

生涯、膨大な数の短篇を遺した山本周五郎。 その大半がいまだに読み継がれ、多くの読者に愛され、また後進の作家たちに多大な影響を与え続けている。
市井に生きる庶民の哀歓、弱き者の意地、男と女の不思議など、特に時代小説に傑作が多く、その数も膨大なものがある。

山本周五郎作品に深く傾倒する沢木耕太郎氏が独自の視点と切り口で4巻36篇を選び、各巻の末尾に斬新かつ詳細な解説エッセイを執筆。
第2巻は「彼らを輝かせるもの」と題して、自らも尾崎四郎から「曲軒」とあだ名された周五郎の作品に登場する男女が貫く「意地」をキーワードに、その作品世界に迫る。

本書の収録作は以下の9篇。

「ちいさこべ」(大火の後、孤児を引き取り奮戦する大工とその娘)
「法師川八景」(あえて未婚の母の道を選んだ女)
「よじょう」(世間から宮本武蔵に敵討ちをすると誤解された男)
「榎物語」(将来を誓った男をひたすら待ち続ける女)
裏の木戸はあいている」(貧民のための「救急箱」の存続が危うくなり……)
「こんち午の日」(嫁に逃げられても年老いた義父母の面倒を見る男)
「橋の下」(果し合いを前にした男に、ある「乞食」が語る話とは)
「ひとでなし」(やさしい男とならずものの間で女は……)
「若き日の摂津守」(生き残るために暗愚を装い続けた若殿)

 

 

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。」 有名な草枕の一節にもあるとおり、自分の信念や価値観にこだわりを持って生きていくと不自由だ。もっと軽やかな生き方があるし、そのほうが生きて行きやすいことは明らかなのにそれができない。意地というやつである。一般に意地をはるやつは人間が小さい。しかしたとえ死んでも意地をはり通すやつはアッパレである。本書にはそんな人間が織りなす物語九篇が収められている。

「ちいさこべ」と「法師川八景」で、損得ではなく自分の生き方を貫く姿を描きながら、「よじょう」では格好を付けた生き方を笑い飛ばし、さらに「榎物語」ではこだわり続けたことが無駄に終わったことが判り別の生き方を選ぶ姿を描いた。「裏の木戸はあいている」「こんち午の日」では意地というよりは人としてどうあるべきかに焦点をあてる。「橋の下」「ひとでなし」では人の想いはたやすく実を結ばないという夢と現実の皮肉を描いた作品。「若き日の摂津守」は安愚と陰ながら侮られる藩主が放つ成敗の一撃が痛快な作品。それぞれが読み方によっていろいろと考えさせられるものばかり。とかくに人の世は住みにくいのだ。