佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『星に願いを』(庄野潤三・著/講談社)

 『星に願いを』(庄野潤三・著/講談社)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 二人きり残された老夫婦の日常を描く私小説子供が育ち、みな結婚し、老夫婦が残された。二人きりのささやかな喜び、楽しみ・・・日常の出来事を、ほのぼのと描く、庄野潤三氏ならではの私小説

星に願いを

星に願いを

 

 

 

 毎晩、ハーモニカの伴奏で唱歌を歌う。孫たちはみんなおばあちゃんを「こんちゃん」と呼ぶ。庭のムラサキシキブの幹にくくりつけた籠に詰めた牛脂を食べにコゲラが来る。シベリアから渡ってきたつぐみはまいてやったパン屑を食べに来る。白木蓮が咲く。優待パスでバスに乗る。大久保の「くろがね」で酒を飲む。席はいつもいちばん奥の畳の部屋。井伏鱒二のいい笑顔の写真が載ったポスターが貼ってある。そのポスターの下を自分の席と決めている。お酒は「山陽一」。みやこわすれが咲いた。山もみじの若葉が出る。春と秋にお墓参りに大阪に行く。新幹線の新横浜には一時間前に着く。待ち時間は苦にならない。他の人がシュウマイを買う姿をぼんやり眺めているのも楽しい。梅の実がなる。土用干しして梅干しをつくる。

 庭にコゲラが来た話、庭にみやこわすれがあるとほとけさまの花を切らさない話が繰り返し出てくる。そのあたりがお爺ちゃんらしくてほほえましい。

 季節はめぐる。穏やかで優しい毎日の繰り返し。当たり前の毎日がいとおしい。幸せな老後の姿がここにある。

余談だが大久保の井伏鱒二氏がごひいきだったという「くろがね」をいう店をネットで探してみた。そのサイトには「このお店は休業期間が未確定、移転・閉店の事実確認が出来ないなど、店舗の運営状況の確認が出来ておらず、掲載保留しております。」と注意書きが載っていた。そうか、残念、行きたかったな。