『眼球綺譚』(綾辻行人・著/角川文庫)を読みました。
まずは出版社の紹介文を引きます。
人里離れた山中の別荘で、私は最愛の妻・由伊とふたりで過ごしていた。妖精のように可憐で、愛らしかった由伊。しかし今はもう、私が話しかけても由伊は返事をしない。物云わぬ妻の身体を前にして、私はひたすらに待ちつづけている。由伊の祝福された身体に起こる奇跡―由伊の「再生」を(「再生」)。繊細で美しい七つの物語。怪奇と幻想をこよなく愛する著者が一編一編、魂をこめて綴った珠玉の作品集。
読むきっかけになったのはスタンリィ・エリン氏の小説『特別料理』を読んだこと。本書に収められた短編「特別料理」がスタンリィ・エリン氏へのオマージュとして書かれたものと知って読みたくなったのである。
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ひと言でいえば「悪夢」です。私の心の中にある悪魔が見させた悪夢。読みたくないのに読みたい。やめよう、もうやめようと思いながら続きを読んでしまう。そうした類いの小説集。ただ単にホラーであるというだけでなく、読者に謎を提示しておいて意外性のある結末で終わるというミステリの手法を用いている。そのあたりは流石と唸らされる。
納められた7編(初出一覧)は以下のとおり。
- 再生 「野生時代」1993年5月号
- 呼子池の怪魚 「小説non」1992年8月号
- 特別料理(≪YUI≫ 改題) 「小説すばる」1995年7月号
- バースデー・プレゼント 「野生時代」1994年2月号
- 鉄橋 「小説non」1994年10月号
- 人形 「小説中公」1994年8月号
- 眼球綺譚 「小説すばる」1994年11月号
7編の中で秀逸なものはやはり「特別料理」と「眼球綺譚」。とりわけ表題作「眼球綺譚」は良くできている。おそらくこれら2作の持つ強烈なイメージは私の中で消えることはない。スタンリィ・エリン氏の『特別料理』や梶山季之氏の『せどり男爵数奇譚』にならんで決して忘れることのない作品となるだろう。本当はこんな気持ち悪い話は忘れたいのだけれど。