佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

松江 そば岡本

 私はそばを嫌いではない。むしろ好きと言って良いだろう。子供の頃から慣れ親しんだ麺はなんといってもうどんである。関西に生まれ育ったので当然のことだろう。しかし長じてはそばを食べることが増えた。特に蕎麦屋で昼酒を楽しむことを覚えてからはうどんよりもそばを好む傾向が強くなった。世の中には麺といえばラーメンという人が多いと承知している。ラーメンのおいしさを認めないわけではないが、現状で好みの順位をつけるならば①そば②うどん③ラーメン(番外)フォーといったところか。①と②はしばしば入れ替わる。そば、うどんに比してラーメンの劣るところはどこか? まず味、ラーメンの味はしつこいのだ。味だけでいえば圧倒的にうどんに軍配が上がる。上品なだしの味はうどんが一番である。特に関西風のだしは汁だけでも満足できるぐらいのものだ。次に香り。ラーメン屋に入るとスープを煮込むからだろう香りが鼻につく。もちろんあの香りがたまらなく好きという人もいるだろう。しかし、新そばの香り、汁の鰹節の香りに比べ、ラーメンスープの香りは品がないことが多い。ラーメン・ファンの方には申し訳ないがこれが私の偽らざる気持ちだ。

 前置きが長くなった。そんな私が出雲そばというものをなんとなく敬遠してきた。出雲そばといえば一番にイメージされるのは割子そばである。そばを持ち運ぶのならば割子にいれるのは判る。しかし、そばは盛り付けてから長く置くものではない。そばが乾燥し、風味が損なわれるばかりか麺がひっついてしまう。供されてすぐに食べるのであれば”もり”で良いではないか。ゆでて蒸籠に盛ったそばをそばつゆにつけて食べる食べ方が食べやすい。割子に盛られたそばに濃いめの味付けのそばつゆをかけ、そばをずるりと食べるとそばつゆが残る。それを次の割子に移して、さらにそばつゆを少しかけ・・・といった作業をすることに何の意味があるというのか。この食べ方に理があるとすれば薬味を割子ごとに変えて違う風味を楽しむというところだろう。それに誤解かもしれないが出雲そばの店ではそば前を楽しむ雰囲気がないような気がする。

 さらに前置きが長くなってしまった。そんな私がおいしいと唸るそばに出会ってしまった。松江市内、お城にほど近い場所にある「そば岡本」で食べた「釜揚げそば」がそれである。丁寧に捏ねあげて打たれたと思われる挽きぐるみのそばは香りよく味がすばらしい。味のポイントはこの店のだしだろう。本当にうまいだしだ。

 お世辞にも愛想が良いとはいえない対応だが、聞くところによるとこれは松江人の気質らしい。決して不機嫌でそうしているわけではなさそうだ。置いてある酒も申し訳程度なのは残念だが、釜揚げそばにせよ割子そばにせよゆっくり酒を飲みながらではおいしさが損なわれるだろう。そうしたマイナスを考慮してなお、岡本の釜揚げそばはうまい。次に松江に来るとして再び岡本ののれんをくぐる確率はかなり高いといえる。