佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『王様の背中』(内田百閒・著/福武文庫)

『王様の背中』(内田百閒・著/福武文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

王様の背中が、急に痒くなり、あんまり背中が痒いので、口を利くこともできず、家臣たちは、はらはらするばかり。外に飛び出てみると、獣や鳥や、水の中の魚たちまでどこか痒そう。何の教訓も含まない、谷中安規版画による9編の絵本『王様の背中』と、ゲーテの傑作を翻案した「狐の裁判」を併録した、百閒唯一の童話集。

 

王様の背中 (福武文庫)

王様の背中 (福武文庫)

 

 

 1994年9月5日に福武書店が発刊した初版本を古書で手に入れました。初版本といってもAmazonで1円+送料350円=351円で買ったのですけれど。でも、今日Amazonのページを見ると同じものが1800円~5000円で売られている。やはり『ビブリア古書堂の事件手帖』の最新刊『扉子と不思議な客人たち』に紹介されたからであろう。読んだ本は処分せず、本棚に並べて部屋一杯に並んだ本を眺めてはニヤニヤする変態的な私ではあるが、売価を見て一瞬Amazonで売りに出そうかと思ったほどです。そのようなさもしいことはせず、内田百閒先生の他のご本と共に本棚に収めました。

 さて本書は『王様の背中』と題した九つのお伽噺を集めたものと、ゲーテの傑作をお伽噺に翻案した『狐の裁判』を併録している。

 百閒先生は『王様の背中』の序(はしがき)には「この本のお話には、教訓はなんにも含まれて居りませんから、皆さんは安心して読んで下さい。 どのお話も、ただ読んだ通りに受け取って下さればよろしいのです。 それがまた文章の正しい読み方なのです。」と書いていらっしゃる。そして同時に『狐の裁判』のおくがきに「悪者のライネケ狐が、悪知恵をはらたかせて、立身出世するというこのお話は、どんなに正しい者でも、どんなに強い者でも、知恵がなかったら、悪者に勝つことが出来ないという教訓であります」と書いていらっしゃる。このあたりが百閒先生が「偏屈」と評される所以であろう。

 本書に収められたお伽噺の中で秀逸なのは、やはり表題作『王様の背中』であろう。それこそ何の教訓も、感動もなく、しかしそこはかとないおかしみを感ずるところなど、まことに味わい深い。

 挿画としての谷中安規氏の版画がまた、この本にいっそうの味わいを持たせており、これがまた良い。大切に保管して、何度か読み返したい本の一つである。