佐々陽太朗の日記

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『雪の断章』(佐々木丸美・著/創元推理文庫)

『雪の断章』(佐々木丸美・著/創元推理文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

迷子になった五歳の孤児・飛鳥は親切な青年に救われる。二年後、引き取られた家での虐めに耐えかね逃げ出した飛鳥に手を伸べ、手元に引き取ったのも、かの青年・滝杷祐也だった。飛鳥の頑なな心は、祐也や周囲の人々との交流を経て徐々に変化してゆくが…。ある毒殺事件を巡り交錯する人々の思いと、孤独な少女と青年の心の葛藤を、雪の結晶の如き繊細な筆致で描く著者の代表作。 

 

雪の断章 (創元推理文庫)

雪の断章 (創元推理文庫)

 

 

 孤児モノです。孤児モノといえば『小公女』『アルプスの少女ハイジ』『みなしごハッチ』『タイガーマスク』『ジェイン・エア』『赤毛のアン』『ライトニング』とアニメにせよ、小説にせよ枚挙に暇がない。天涯孤独の境遇にあっても、強い意志と真心で立ち向かえばいつか成功と幸せを勝ち取れるといったハッピーエンドは少年少女の心を強烈に熱くするものだった。私もそのひとりである。

 本書は読者受けする(著者がそれを狙ったかどうかは定かではないが)黄金パターンを踏襲している。そのパターンとは「身寄りのない境遇→孤児院での苦労(ヒールの存在)→里親先での艱難辛苦(ヒールの存在)→白馬の王子の登場→恋心→恋愛成就」。読者(特に子供など社会的弱者)は己の人生に対する不安感から主人公に感情移入し、憎らしいヒールに徹底的にいたぶられてもくじけず誠実に生きようとする主人公に拍手喝采し、白馬の王子の登場に歓喜し、紆余曲折を経ながらもハッピーエンドにおさまり胸をなで下ろし幸福に浸るのである。特に前半は続きが気になって読むのをやめられない。おもしろくないはずがないのだ。傑作と言って良いだろう。

 この種の物語には悪役(ヒール)の存在が肝である。ヒールが憎らしければ憎らしいほど読者の感情が高まるからである。ドラマで言えば『おしん』『細腕繁盛記』がその典型だ。その点で本書はいい線いってるがもう一押しあっても良かったかもしれない。残念な点である。もう一つ残念なのは、主人公の心が頑なすぎていささか辟易してしまう点。著者として主人公の心の襞を表したかったのだろうが、私のような粗忽者にはしつこく感じられて読みづらい。しかしこのあたりが本書のテイストでもあるので、ここは意見の分かれるところだろう。

 さて、かなり前に読んだ『ライトニング』(ディーン・R・クーンツ)を読みたくなった。孤児モノにしてタイムパラドクスを扱ったSFスリラー。この小説のヒール役と白馬の王子が意外や意外・・・。なかなかすごい構想なのだ。もう一度読んでみようか。

 

ライトニング (文春文庫)

ライトニング (文春文庫)