『新版 落語手帖』(矢野誠一・著/講談社)に紹介された274席のうちの45席目は『笠碁』。十代目・金原亭馬生の名演で。
碁敵同士が今日は待ったなしでやろうと打ち始めたが、しまったと思うとつい「ちょっとこの手、待ってくれないか」ということになる。待て、待たないからとうとうけんか別れしてしまう。数日経つとお互いに碁が打ちたくて仕方がないが、お互いに意地があって・・・という噺。
たわいない噺だが、市井のお世辞にも人格者とは言えない狭量な二人の意地の張り合いがユーモラスに描かれるところがなんとも落語らしい。立川談志はかつて「落語は人間の業の肯定である」と言った。人間くさくできの悪い二人がそれだけにかわいいと思えるところが味わい。自分の中にも多かれ少なかれそういうところがあるから登場人物の心情が手に取るように判る。十代目・金原亭馬生の演技も見事。