佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

2019年3月の読書メーター

3月の読書メーター
読んだ本の数:8
読んだページ数:2424
ナイス数:1215

 

 3月も良い本に出会えた。北森鴻青木祐子北村薫山本一力は安定の面白さ。ハズレなし。久しぶりに読んだスティーヴ・ハミルトン。『解錠師』は傑作である。もう一度「アレックス・マクナイト・シリーズ」を読みたくなり本棚から『氷の闇を超えて』を取り出した。またまたハードボイルド熱に火が付きそうである。『微光星』は問題作。私自身においては殺人犯に対する刑について、考えは固まっておりぶれることはない。しかしそれでも考えさせられることが多い小説であった。


解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)感想
秀逸なのが物語の語り口です。高校生のマイクルが何故解錠師になったのかと、実際にプロの解錠師として犯罪に手を染めていく過程が、カットバックの手法で交互に語られていく。はじめに読者に三つの謎「8歳のマイクルに起こったのはどんな事件だったのか?」「マイクルは何故解錠師になったのか?」「マイクルは何故犯罪に手を染めどのように逮捕されたのか」を抱かせる。それらの謎が交互に語られる物語の中で少しずつ証されていく緊張感がたまらない。極上の翻訳ミステリにして青春浪漫小説。ハードボイルドの秀作。
読了日:03月20日 著者:スティーヴ・ハミルトン


微光星微光星感想
死刑判決で人ひとりの命を奪うことの重さは計り知れない。国家が罰として人に死を科して良いのかという議論は当然ある。しかし、死刑判決を受けた者はそもそもそれほど大切な他人の命を自分の勝手で奪ったのだ。死刑が相当と思われる人殺しの命においてなお死刑に疑念が生じるのである。況んや罪なき者の命をやであろう。年端もいかない少女を己の性欲を満たしたいがために誘拐したあげく殺した者の命がそれほど尊重されねばならないのか。目的刑論は非常に高邁な理論である。しかし、被害者に近しい者の心に少しも寄り添っていない。やりきれない。
読了日:03月16日 著者:黒谷 丈巳


お菊さん (岩波文庫)お菊さん (岩波文庫)感想
訳者が「ロチの此の甘味を缺いだ小説が日本人の大部分に喜ばれようとは思へない」と書いたとおり、私も日本人として全く喜ばなかった。むしろ不快であった。百三十年も前のこと故、そういう時代だったのだと割り切ればよいのだろう。しかしそうしなければならない理由もない。ロチにとって日本人は未開の土人であり、現地妻はペットである。焚書せよとは言わないが私は読むに値しないと思う。蛇足ながら、私は芥川の「舞踏会」を二度ばかり読んだが、二度とも何の感興をもよおすことがなかった。これに登場するフランス人海軍将校はロチである。
読了日:03月16日 著者:ピエル・ロチ


落語小説集 芝浜 (小学館文庫)落語小説集 芝浜 (小学館文庫)感想
大方のあらすじを知ってはいても、思わず引き込まれます。山本一力氏によって選ばれた演目はどれも味わいの深い噺です。人としての矜持、人の心を思いやる気持ち、要は人としての品格を題材にしたものばかり。元々良くできた噺であるうえに、山本氏の筆で細部が描かれ、伏線が張られたうえ、噺がふくらまされるだけに、読んでいて落語を聴く以上に気持ちが高ぶります。「芝浜」では思わず泣いてしまいました。さすがは一力先生です。
読了日:03月13日 著者:山本 一力


太宰治の辞書 (創元推理文庫)太宰治の辞書 (創元推理文庫)感想
主人公が社会人になった時点で完結したと勘違いしていたが第六作が出た。本作では表紙の画を見ても主人公は落ち着いた人妻風情である。結婚して、今も出版社に勤めており、中学生の息子がいるのだ。なるほど、たいへん喜ばしいことである。円紫さんはいつもながらの博覧強記ぶりを発揮します。円紫さんと私のやりとりは文系人間にはたまらないところ。「女生徒」にでてくる大学時代の同級生「正ちゃん」とのやりとりもそうなのだが、文学をめぐっての会話ににじみ出る知性が本シリーズの醍醐味である。分かる奴にしか分からないってことですね。
読了日:03月11日 著者:北村 薫


私の好きな民藝 (趣味どきっ!)私の好きな民藝 (趣味どきっ!)感想
アンコール放送分のテキストを購入。民藝品との接し方は「美意識を鍛える」「自分の目線で選ぶ」「気に入ったものを使う」につきると思う。紹介された中で特に気になっているのは因州・中井窯。現当主の坂本章さんの三色染め分け皿が以前から気になっている焼きもので、民藝とデザインを融合した名品だと思う。緑、黒、白の釉薬が生み出すコントラストに強く惹かれる。普段あまりTVを視ないが、今日の夜だけはアンコール放送を視なくては。
読了日:03月06日 著者: 


これは経費で落ちません! 5 ~落としてください森若さん~ (集英社オレンジ文庫)これは経費で落ちません! 5 ~落としてください森若さん~ (集英社オレンジ文庫)感想
第4巻までの登場人物(脇役)視点で書かれた短編集。そもそも『これは経費で落ちません!』シリーズ自体が『風呂ソムリエ』からのスピンオフであった。しかし、そのスピンオフが主要なシリーズを構成することになった。そしてその中の登場人物からシリーズの主役を張れるような新たな主人公が登場するのかどうか。今のところ不明であるが、今巻のように天天コーポレーションの社員をめぐるスピンアウト的な物語は今後も出てきそうな気がする。人生いろいろ、社員もいろいろ、天天コーポレーションは今日も概ね平和である。そして明日もおそらく・・
読了日:03月03日 著者:青木 祐子


蜻蛉始末 (文春文庫)蜻蛉始末 (文春文庫)感想
傳三郎と宇三郎は固い絆で結ばれている。二人の関係はまさに「光」と「影」であり、表舞台で光りを浴びる人間と影勤め(陰守り)の関係といえる。そしてまたこの物語は、傳三郎(光)と宇三郎(影)だけの物語でなく、倒幕、明治維新、そして西南戦争と時代が大きな渦となって変わる中、眩いばかりの光を放った人物達と、彼らが輝くためにあえて影に回った人間や、時代の流れと運命に抗えず陰となった者達を鮮やかに描いた物語でもある。ここに描かれているのは志士たらんとした者達の心の揺らぎ、裏切り、変節、欲による薩摩閥と長州閥の暗闘だ。
読了日:03月02日 著者:北森 鴻

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