佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『下町ロケット ガウディー計画』(池井戸潤・著/小学館文庫)

下町ロケット ガウディー計画』(池井戸潤・著/小学館文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

その部品があるから救われる命がある。
ロケットから人体へ――。佃製作所の新たな挑戦!

ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年――。大田区の町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。
量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。
そんな時、社長・佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。しかし、実用化まで長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所にとってあまりにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断は・・・・・・。
医療界に蔓延る様々な問題点や、地位や名誉に群がる者たちの妨害が立ち塞がるなか、佃製作所の新たな挑戦が始まった。

ドラマ化もされ、日本中に夢と希望をもたらした直木賞受賞作続編が、待望の文庫化! 

 

下町ロケット ガウディ計画 (小学館文庫)
 

 

 直木賞に輝いた『下町ロケット』を単行本で読んだのは2013年10月のことであった。受賞から約2年後のことである。文庫化を待っていたが待ちきれず購入したのだった。ところがその2ヶ月後に文庫本が出版されたのだ。ずいぶん悔しい思いをした。お金がもったいないのではない。単行本は嵩張って本棚のスペースをずいぶん占有するし、持ち歩きに向かないから私は文庫本を購入することを基本としているのである。現にシリーズ第一作『下町ロケット』が単行本で、今作『ガウディー計画』が文庫本では本棚に並べたときに統一感に欠け、ちょっと残念な気がしている。

 しかしまあ、そんなことはたいしたことではなく、本作を読んだ感想は「大満足」のひと言に尽きる。

 世の中にベストセラー小説の書き方というセオリーがあるとすれば、池井戸氏はそれを体得していらっしゃるに違いない。読み始めるや否や主人公たちに次々と降りかかる窮地、その元凶となる憎らしくも邪な悪役たち。それを権威や金は持たないが誠実でまっとうな主役たちが艱難辛苦の末に自らの努力と才能で打ち負かすのだ。そう、池井戸氏の真骨頂は悪役(ヒール)の描き方の妙にある。現実世界にこういうヤツいるよなと思わせる人物像を悪くデフォルメして、よくもまあこれほどいやらしく小憎らしいヤツがいるよなあというヒール役に仕立てていく。そうした登場人物に対する鬱憤憎悪が最高潮に達したところで一気に逆転劇を見せてくれる。読者はあらかじめそうした展開を想定しながらも、予定調和的な結末に強烈なカタルシスを得るというメカニズムである。あぁ・・・スッキリした。

 早く続きが読みたい。すでに単行本として出版されている『下町ロケット ゴースト』と『下町ロケット ヤタガラス』の文庫化を急いでいただきたい。小学館様、よろしく。

 

 【追記】

 他社にかわろうとする中里に対して佃航平が贈った言葉を引用しておく。私自身の記憶にとどめておくために。

どこに行っても楽なことばかりじゃない。苦しいときが必ずある。そんなときには、拗ねるな。そして逃げるな。さらに人のせいにするな。それから――夢を持て。