佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『鴨川食堂 まんぷく』(柏井壽・著/小学館文庫)

『鴨川食堂 まんぷく』(柏井壽・著/小学館文庫)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

連続ドラマ化もされた美味しいミステリー最新作第六弾!
鴨川流・こいし親娘が、今日も悩める人々にそっと寄り添います。


思い出の味を捜し求める迷い人が立ち寄るのは、
京都にある看板のない食堂。
板前の父と探偵の娘が、優しさと温かい料理でお迎えします。
第一話 たらこスパゲティ……アイドルのもう一つの顔
第二話 焼きおにぎり…………若き日の過ちと向き合う
第三話 じゃがたま…………別のソースは使わんでええ
第四話 かやくご飯……………おばあちゃんのごほうび
第五話 カツ弁………………………列車の中で流した涙
第六話 お好み焼き……………どうして置いていったの

 

鴨川食堂まんぷく (小学館文庫 か 38-6)

鴨川食堂まんぷく (小学館文庫 か 38-6)

 

 本シリーズの第一作『鴨川食堂』を読んだのが5年ほど前のこと。以来、新作が上梓されるごとに読み続けて、今作がシリーズ第6弾。食にまつわる心温まる人情話が今作でも6話。

 ある日、依頼者が京都の路地にあるひっそりとした佇まいの「鴨川食堂」を訪れ、思い出の味を再現してほしいと依頼する。食堂の主人(鴨川流)は依頼者のわずかな記憶を頼りに推理調査し見事にその味を再現してみせる。そのパターンは頑ななまでにお定まりのものだ。また探して欲しい食べもの自体もなんということもない普通のものである。しかしなぜか一話一話がそれぞれ読者の心の琴線に触れる。そこになにかしら特別なものがある。それは依頼者の切ない恋心や悔恨、周りの人の親切や愛情、思いやり、生きていくうえでの苦労など様々だ。鴨川流はその食べものの味の裏にある作り手の想い、またそれを味わった者が大切に心の奥底にしまっていたものを味を再現することで解き明かしてみせる。食べものの味を特別にするもの、それはその食べものに込めた真心なのだ。

 6話それぞれに味があるが、第5話「カツ弁」が特に味わい深い。昨今の「情熱こそすべて」とする恋愛礼賛主義にさりげなく異を唱え、人を思いやる心こそが至上であるとしたところがよい。「夫子の道は忠恕のみ」 日本男児大和撫子はもう一度節度を取り戻さねばならぬと私も思う。

 余談であるが、食堂で供される酒にも注目したい。福井「紗利」、姫路「八重垣」、新潟「鶴齢」、京都「蒼空」と日本酒のセレクトが素晴らしい。日本酒だけではない。沖縄の泡盛「瑞泉」、マンズワインの「リュナリス」「ソラリス」と食にあわせて鴨川流が供する酒はホンモノだ。

 このシリーズを読んでいると自分でも料理をしたくなる。スパゲティとじゃがたまを作ってみた。あくまで私流ではあるけれど。

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