佐々陽太朗の日記

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『きみの世界に、青が鳴る』(河野裕・著/新潮文庫nex)

2019/08/22

『きみの世界に、青が鳴る』(河野裕・著/新潮文庫nex)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 『いなくなれ、群青』、シリーズ完結編!

2019年9月、実写映画化![主演:横浜流星、飯豊まりえ]

 

真辺由宇。その、まっすぐな瞳。まるで群青色の空に輝くピストルスターのような圧倒的な光。僕の信仰。この物語は、彼女に出会ったときから始まった。階段島での日々も。堀との思い出も。相原大地という少年を巡る出来事も。それが行き着く先は、僕と彼女の物語だ。だから今、選ばなければいけない。成長するとは、大人になるとは、何なのかを。心を穿つ青春ミステリ、堂々完結。

 

きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)

きみの世界に、青が鳴る (新潮文庫nex)

 

 

 

 大人になるとはどういうことなのだろう。人は大人になる過程で変化する。それはフィジカルの変化だけではない。無垢なままでいることはできない。とがったままでいることはできない。夢を夢のまま持ち続けることはできない。何かを選択するということは、それ以外のものを捨てるあるいは優先順位を劣後とすること。人生が選択の連続であるとすれば、人は生きていくうえで自分の一部を捨てていくことになる。自分が望むと望まざるとに関わらず、外部環境によって自分が変わらざるを得ないこともある。外部環境は自分で変えられないことが殆どだからだ。それはどうしようもないことのように思える。

 もし成長の過程で捨てた自分の一部を別の世界で生きつづけさせることができたら。この物語はそうしたことをモチーフとして書かれたのだろう。憐憫かもしれない。感傷的に過ぎるかもしれない。しかし若さとはそういうものだろう。変わりたくない自分がいる。捨てたくない夢がある。最終的に選ばなかったものの、あのときそうしていればという選択がある。還暦近くなった私でも、そうした若さを思うとき涙を流しそうになる。それは些かの感傷であり自分の心の中の奥底に閉じ込めているやわらかく傷つきやすい部分だ。自分の中のそうした部分が小説や映画、画や音楽に触れたとき共鳴する。人生が味わい深いものになる。

 現実の七草が選んだ職業と結婚相手。それがどのようなものであろうと私はそれを否定しない。それはやはり肯定されるべきものだ。まよいながらも自分でそうありたいと想い選んだものと捨て去ったものの屍、そうした選択の連続と、選択によって累々と積み重なった屍、世界はそうしたもので成り立っている。そしてその世界はけっして悲劇的なものではなく、そこには希望もやさしさもある。群青色の空に輝くピストルスターの光、それは世界がいくら悲劇に満ちていようと気高く光り続けている。