佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

『男のチャーハン道』(土屋敦・著/日経プレミアシリーズ)

『男のチャーハン道』(土屋敦・著/日経プレミアシリーズ)を読みました。

 まずは出版社の紹介文を引きます。

 「男子、厨房に立たず」が昔の話になった今、チャーハンくらいつくる男性は多いかも。だが、「くらい」といったら罰が当たるだろう。タイトルからわかるように、新書1冊分丸ごと費やして、チャーハンにしか触れていない。「パラパラのチャーハンをいかにして作るか」。料理好きなら誰もが夢見る、その唯一にして最大の目標に試行錯誤しながら突き進む。ガスの火力は家庭用でも問題ないのか、鍋はどのような大きさがふさわしいか。自腹を切ってさまざまな器具や食材、調理法を試す姿勢にはいささか狂気すら感じてしまう。読み進めると、家庭料理の域を超えているのではと心配になるかもしれないが安心してほしい。苦節3年の末に誰もが作れるレシピに行き着く。著者の研究の成果を味わってほしい。評者:栗下直也(週刊朝日掲載) 

 

「パラパラのチャーハンをつくれないのはダメ人間である!」。

この強迫観念にとりつかれた著者は、料理研究家としての存在価値をかけ、究極のレシピを探究する旅に出ました。
使う材料は、ご飯、卵、ネギ、油、塩のみ。シンプルではあるものの、その奥深さゆえに、たびたび困難に直面します。「わりとパラパラ」「けっこうパラパラ」は実現できるものの、プロ並みへの道のりは遠く、大きな壁にぶち当たることも。
試行錯誤を繰り返し、苦節3年。あきらめかけた、そんなあるとき、意外な出会いから、「パラッパラ」を実現させる究極のチャーハンづくりのヒントを得ます。そしてついに、誰もが、家庭で、簡単に再現できる絶品チャーハンのレシピを発見するのです。その「秘密」とは何でしょうか。
読んで面白く、使って役に立つ絶品レシピ、あなたも試してみませんか。

【構成】

第1章 家庭用コンロでは無理?

第2章 卵コーティングの謎

第3章 油は多めのほうがいい

第4章 中華鍋から手を離せ

第5章 ネギと卵の役割

第6章 パラパラの邪魔をするのは誰か 

男のチャーハン道 日経プレミアシリーズ

男のチャーハン道 日経プレミアシリーズ

 

 パラパラでおいしいチャーハンを作るための実験と検証の繰り返し。その過程を丁寧に綴ったレシピ。チャーハン一品の作り方を237ページで解説した世界一長いチャーハン・レシピである。

 なにもチャーハンはパラパラでなければいけないわけではない。そのことは著者も「ベタベタチャーハンで何が悪い」という一項を設けて述べていらっしゃる。そもそも日本人の好む米はもちもちであってパラパラではない。日本の米は外米に多い長粒種ではなく、もちもち感こそ日本人好みの食感なのだ。スパゲッティだってデュラム・セモリナを使った麺が本場イタリアの味かも知れないが、日本には柔らかくもっちりした食感を良しとするナポリタンという食べものがあり、あれはあれでうまいではないか。うどんだって、讃岐うどんや吉田うどんのようにコシのしっかりした麺もうまいが、京都や大阪の腰抜けうどんもうまいのだ。実を言うと私は味の濃厚なベタベタチャーハンも好きである。私が住む市にある福運楼という中華料理店でたべるチャーハンはベタベタでうまいチャーハンで、私はこれとラーメンがセットになったメニューを愛している。実は私のベタベタチャーハン好きは今から39年前、1978年6月18日の夕食に端を発している。当時私は大学生になって間の無いころで、神戸に住んでいた。下宿先に近いコインランドリーで洗濯機が廻っている間、近くの小さな中華料理店で夕食をとることにした。子どもの頃からチャーハン好きだったので、そこでもチャーハンと餃子を注文した。そのチャーハンがパラパラではなく、おそらくラードを使った濃厚味ベタベタチャーハンであったのだ。このチャーハンがとてつもなくうまかった。部活で腹がペコペコであったからでもあろうが、若かった私にとってアツアツで濃厚な中華味のチャーハンはこの上もなくうまい食べものであった。ちなみに餃子はニラのきいた肉のうまみたっぷりのものでこれもうまかった。店の片隅においてあったTVでは「東京音楽祭」に出場したケイト・ブッシュが『嘆きの天使(MOVING)』を歌っていた。1978年6月18日と日にちまで覚えているのはケイト・ブッシュの曲と声があまりにも衝撃的だったのを今も鮮明に覚えているからである。

 そんなこんなで私はラードで炒めた中華味濃厚なベタベタチャーハンを好きなのであるが、それはそれとして高温に熱せられた中華鍋の中で卵でコーティングされたパラパラの米粒が鍋のあおりとともに中に舞い踊るように作られたパラパラチャーハンもまたおいしいと思う。それはそれでチャーハンのひとつの極みであろう。著者の研究結果を尊重しつつ、私なりのチャーハンを作るとすれば次のような作り方になろう。

①ごはんは炊きたてでなく、炊飯ジャーで数時間保温したものを使い、それをさらに調理直前に電子レンジで温め、さらに水分を飛ばす。②炒め油には太白ごま油を使う。③中華鍋は直径36㎝のやや大振りなもの、ごはんをほぐしかき混ぜるために中華おたまを使う。④具材はシンプルに卵、ネギとする。(ただし気分次第で焼豚やベーコン、金華ハムを加えるなどアレンジは自由)⑤ごはんは一度に200~250gまで。(それ以上を一度に炒めるとべっちょりしてしまう)⑥ごはん200~250gに対し卵は2個用意し、白身の三分の二程度は取り分けてスープにでも使う。つまり黄身の多い溶き卵を用意する。⑦ネギは味と風味のための白ネギと彩りのための青ネギの二種類を刻んで用意する。⑧コンロの火は最初から最後まで最大火力。中華鍋を火にかけしっかり高温にする。高温になったら油をたっぷり入れ鍋全体に馴染ませる。⑨鍋に溶き卵を投入し、次に卵が固まってしまわないうちにすぐさまごはんを投入する。⑩おたまの丸い部分でごはんをぎゅうぎゅう押しつけ、ごはんに卵をまとわせながらほぐす。鍋を煽ってごはんを混ぜながらさらにおたまでごはんをほぐす。⑪味付けに塩(藻塩がよい)と旨味を増すため昆布粉を入れる。⑫仕上がり直前に二種類のネギを投入し、さっとかき混ぜたらできあがり。

 とまあ、こんなところでしょうか。とにかく火力を落とさず、一気に炒め上げる。スピード勝負ですな。