『新版 落語手帖』(矢野誠一・著/講談社)に紹介された274席のうちの60席目は『巌流島』。別名『岸柳島』。上方では『桑名舟』といって熱田と桑名の渡しを舞台にしている。
『巌流島』というとついつい小次郎と武蔵を思いうかべてしまうが、この噺はそれではない。
偉そうな武士の狭量、意固地のために町人が無礼打ちにあいそうなところを、老侍の機転で救われる。怒り狂う武士におびえていた町人が、その武士が岸辺に置き去りにされたとみればすぐに態度を変え武士を嘲笑し始めるところがおもしろい。しかしその武士が泳ぎが達者で再び舟に迫ってくる緊迫感。場面が転換するごとに態度の変わる町人の様子が楽しい一席。