佐々陽太朗の日記

酒、美味しかったもの、読んだ本、サイクリング、旅行など。

U2 ”THE JOSHUA TREE TOUR 2019" さいたまスーパーアリーナ_二夜目

 昨夜に続いてのU2ライブである。チケットは決して安くはない。宿泊費だってかかる。外に泊まればイイものを食べたくなる。酒だって呑みたい。そもそも関西から出てくるだけで交通費がバカにならない。相当な出費である。平日に3日間も休暇を取っていることへの風当たりだってあるだろう。それを考慮して半年前から、この3日間は休ませて欲しいと根回しもし、スケジュールのコントロールにも心を砕いてきた。「すまぬ。すまぬ。」と周りに頭も下げてきた。阿呆なヤツだと笑わば笑え。私にとっては何ものにも変えがたい時間なのだ。

 昨夜はS席だったが、今夜はSS席である。S席にはなかったがSS席には特典の「サイン入りピックセット」が付いている。S席とSS席の値段差ほどでは売れないだろうが、ネットオークションに出せば5千円ぐらいでは売れそうである。つれ合いにメルカリで売れないか相談してみよう。

 ステージまでの距離はすこし縮まった。昨夜は大分上から見下ろす感じだったが、ステージに向かって右斜めから観る席である。まだ開演前なので視界良好である。当然スタンディングではない。私としては座って鑑賞したいのだが、おそらくショーが始まった瞬間から立たねばならないだろう。前が立つのだからしようが無い。観客の年齢層は高い。私と同年代が目立つ。はっきり言って年寄りだ。その年寄り連中がショーの始まりと同時に一斉に立ち上がるのだ。老若男女全員が立ち上がって、体を思い思いに揺らしながら一緒に歌を口ずさむのだ。ボノの求めがあれば大声で歌うのだ。きっと今夜も盛り上がる。昨夜以上に盛り上がるに違いない。

 開演前の会場に流れているSEは知らない曲が多かったが、時折、ツェッペリンやD.ボウイなど私好みのものも混じる。スクリーンには詩や散文が表示されており退屈しない。正直なところ英語のものはわからなかったが、日本人のものは与謝野晶子「星の川」、萩原朔太郎「小出新道」、宮沢賢治雨ニモマケズ」、まどみちお「どうしてだろうと」、和泉式部「かくばかり風はふけども」、左川ちか「背部」。他には紫式部万葉集新古今集から、松尾芭蕉小林一茶もあったかな。私的には萩原朔太郎宮沢賢治は”berry good"、まどみちお、左川ちかはNGといったところ。これは物事を見る視点と好みの問題です。

 そうこうするうちに開演予定の19:30を10分ばかり過ぎている。昨夜はほぼ19:30きっちりに始まったが今日はじらし戦法で来たか。なにかまうものか。今日も赤羽に宿をとっている。赤羽の飲み屋は夜中も開いているところが多い。最終電車にさえ間に合えばいくら遅くなってもいい。そんなことを考えていると、SEの曲が変わる。昨夜もオープニング前にかかったこの曲です。

The Waterboys ”The Whole Of The Moon”

The Waterboys - The Whole of the Moon (Official Music Video)

 と言っても、曲名と奏者がわかったのは後のこと。耳に残っていた歌詞”・・・whole of the moon"を頼りにネットで探し当てたのだ。今後、この曲を耳にする度に”The Joshua Tree Tour"のステージオープニングを思い出すことになるだろう。気分が高揚する良い曲です。

 始まりのシーンは昨夜と同じ。まだ照明が落ちた状態でラリーがメインステージからスゥッとBステージに歩き、ドラムセットに腰掛けスポットが当たった瞬間、マーチングバンドのようなドラムが始まる。続いてエッジがギターを奏でながらBステージに進む。一曲目は昨夜と同じ(当たり前か) ”Sunday Bloody Sunday”。

 意外にも二曲目は昨夜と変わっていた。”Gloria” 昨夜は ” I Will Follow” だった。最後まで聴いてわかったことだが、昨夜と変わっていたのはもう一曲あった。21曲目が "You're the Best Thing About Me" だったこと。昨夜は "Every Breaking Wave" であった。

 セットリストを記録しておく。 

(SETLIST)

OP SE :THE WHOLE OF THE MOON (THE WATER BOYS) 

 

1.Sunday Bloody Sunday
2.Gloria
3.New Year’s Day
4.Bad (The Boxer "Simon & Garfunkel")
5.Pride (In the Name of Love)

 

"The Joshua Tree"
6.Where the Streets Have No Name
7.I Still Haven’t Found What I’m Looking For
8.With or Without You
9.Bullet the Blue Sky
10.Running to Stand Still
11.Red Hill Mining Town
12.In God’s Country
13.Trip Through Your Wires
14.One Tree Hill
15.Exit
16.Mothers of the Disappeared

 

 

17.Angel of Harlem

 

---encore---

 

18.Elevation
19.Vertigo
20.Even Better Than the Real Thing
21.You're the Best Thing About Me (acoustic)
22.Beautiful Day
23.Ultra Violet (Light My Way)
24.Love is Bigger Than Anything in its Way
25.One

 

  導入部の山場は4曲目の "Bad" 。ここでボノはアフガニスタンで凶弾に倒れた中村哲さんと「ペシャワール会」の名を何度も繰り返すシーンがあった。「偉大なピースメーカー」と称賛し、「電話をキャンドルにしよう。スタジアムを大聖堂にしよう。偉大なテツ・ナカムラを思い出そう」と呼びかけると会場内はゆらめくスマホのライトで埋め尽くされた。YouTubeにその様子がアップされていた。この曲に続いてキング牧師に捧げて作った曲 "Pride" を熱唱するくだりは最高であった。


U2 Bad, Tokyo 2019-12-05 - U2gigs.com

 

 "Pride" を歌い終えた後、メンバーはメインステージに向かう。アルバム『The Joshua Tree』 の曲が始まる。8Kカメラの美しい映像が巨大スクリーンに映し出され圧倒的な迫力で迫ってくる。6曲目から16曲目まではアルバムに収められた曲を順序も忠実にやってくれた。

 ここでの聴きどころは6曲目 "Where the Streets Have No Name" と8曲目 "With or Without You" だろう。これらもYouTubeの動画を載せておく。


U2 Saitama Where The Streets Have No Name 2019-12-05 - U2gigs.com


U2 With Or Without You, Tokyo 2019-12-05 - U2gigs.com

 

 アルバム『The Joshua Tree』 の曲すべてが終わった後、17曲目は "Angel of Herlem" 。1988年のアルバム『Rattle and Hum』からの一曲。

 ここでステージは一区切り。この後、アンコールが始まる。18曲目 "Elevation" から20曲目 "Even Better Than the Real Thing" までのノリは圧巻であった。パワーでグイグイ押してくる感じ。


U2 Elevation, Tokyo 2019-12-05 - U2gigs.com


U2 - "Vertigo" / "Even Better Than The Real Thing" - Saitama Super Arena, Saitama, Japan 2019-12-04

 

 特筆すべきはラスト三曲。23曲目 "Ultra Violet (Light My Way)" では世界的に著名な女性の写真が次々にスクリーンに映し出された。誰を取り上げたかは彼ら(あるいは彼らを支えるスタッフ)からのメッセージだろう。選ばれた日本人を挙げると市川房江(男女平等、女性解放運動家)、伊藤野枝(婦人解放運動家)、石川優実(芸能界セクハラ事情を告発、日本での「#MeToo」運動を展開。ハイヒール強制を拒否する「#KuToo」運動を展開)、YURI KOCHIYAMA(アメリカの公民権運動家)、小川葉子/大江千束(LGBT活動家、同性婚訴訟)、紫式部源氏物語作者)、草間彌生(芸術家)、田部井淳子(女性初のエベレスト登頂)、川久保玲(ファッションデザイナー、コムデギャルソンの創始者)、福田敬子(女子柔道のパイオニア)、伊藤詩織(ジャーナリスト、元TBSワシントン支局長の山口敬之氏から性的暴行を受けたとして告訴)、キャッシー松井(ゴールドマン・サックス証券副会長、ウーマノミクス提唱)、緒方貞子(日本人初の国連難民高等弁務官)、小野洋子(前衛芸術家、音楽家)、出田節子(画家バルテュスの夫人)、佐々木偵子(広島平和公園にある”原爆の子の像”のモデル)。私としてはセレクトに違和感を禁じ得ないが、敢えてここでそのことには触れないでおく。ただ以前からU2(あるいは彼らを支えるスタッフ)のオピニオンには些か疑問がある。「捕鯨問題についての見解およびそれに起因する日本嫌い」の噂についての真偽のほどはわからない。しかし2002年にグラミー賞最優秀レコード賞を受賞した曲 "Walk On" がミャンマーの民主運動家アウン・サン・スー・チー氏のために書かれた曲であることは有名ですが、私には「???」なのです。何故「???」なのかは、例えば高山正行氏のコラム集『変見自在 スーチー女史は善人か』や元ミャンマー大使であった山口洋一氏のスー・チー評を参照してもらえれば明らかですが、最近ではロヒンギャ問題に対するスー・チー氏の対応に欧米メディアの多くが失望していることでもわかるはずです。彼女は「反軍事政権」「民主化」を訴え続けただけで、政治的素養も高邁なビジョンも持っていないことは明らかと思えます。要するに「見かけ倒し」なのです。軟禁状態にあって政権批判だけしていれば良かった状態の時には見えなかったものがミャンマーの実質的指導者となってみれば見えてくる。化けの皮が剥がれたと言えば言い過ぎだろうか。いかん、いかん。ついつい熱くなってしまった。ただスクリーンに映し出された写真にスー・チー氏の姿はなかった。U2も既にスー・チー氏礼讃をやめたのかもしれないと思っている。代わって締めくくりに真ん中に映し出されたのはスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリさんであった。そしてスクリーンに映し出されたメッセージは『人は全員が平等になるまで誰も平等ではない』。これは国際チャリティ団体「ONE」がまとめた公開書簡にある言葉だ。いろいろ文句ばかり並べたがこれに文句はない。

 


U2 Ultra Violet (Light My Way) , Tokyo 2019-12-05 - U2gigs.com

 

 締めくくりは24曲目 "Love is Bigger Than Anything in its Way" そして25曲目 "One" であった。

 "Love is Bigger Than Anything in its Way" でスクリーンに映し出されたメッセージ。「愛は行く手を遮るすべてを凌駕する」これに異は唱えない。

 

 ラスト曲 "One"。感動のフィナーレ。赤地の巨大スクリーンに「日本」という白い文字が描かれ、それが徐々に日の丸に変わっていく。

 


U2 One, Tokyo 2019-12-05 - U2gigs.com

 

 U2の音楽は本当に美しい。そしてこれまでいろいろなアーティストのステージを観てきたが、このステージが一番印象に残るステージであったことを付言して〆とする。

 

 撮った写真を載せておく。